シルバーゲート銀行(Silvergate Bank)は2022年最後の数カ月だけで、80億ドル(約1兆800億円、1ドル135円換算)以上の預金を失った。同行の中核事業が暗号資産業界の混迷にともない低迷する中でのことだ。FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめとする銀行規制当局はこうした流動性リスクを警告していた。
預金基盤の突然の喪失はシルバーゲートにとって、複数の懸念事項の1つに過ぎなかった。同行は、銀行は暗号資産だけに集中すべきではないと主張する銀行規制当局からの圧力に直面している。直近では、規制当局や米司法省による調査が行われていることが明らかとなり、さらに現在進められている監査によって、財政報告書の修正が必要となる可能性がある。
ピークは2021年?
さらに、米CoinDeskが過去数年の財務報告書を分析したところ、以前の強みは弱まり始めていた。
シルバーゲートの過去の財務数字の多くは、2022年の一連の騒動が暗号資産業界を揺さぶるよりも前、2021年には同行がピークを迎えていたかもしれないことを示している。
例えば、同行の暗号資産決済ネットワーク「シルバーゲート・エクスチェンジ・ネットワーク(SEN)」の取引高は、2021年上半期に4060億ドル(約55兆円)と過去最高を記録し、2022年下半期には2300億ドル(約31兆円)まで落ち込んだ。
シルバーゲート全体の資産規模も、2021年第4四半期に160億ドルでピークに達し、2022年第4四半期には114億ドルとなっている。
レバレッジ比率の低下
同行は資産規模がピークに達していた時でも、銀行としてはきわめて小規模で、暗号資産にフレンドリーな銀行として業界で中核的な役割を果たしていると高い評判を集めていたが、規模としては中規模の地方銀行と同じレベル。
カリフォルニア州で言えば、南カリフォルニアを拠点とするコミュニティバンク「Farmers and Merchants Bank of Long Beach」が少し大きいがほぼ同規模だ。
しかし、シルバーゲートと、より伝統的なカリフォルニアのコミュニティバンクとの決定的な違いは資本に関する主要指標だ。シルバーゲートは2022年第4四半期にいわゆるレバレッジ比率──自己資本に対する負債の割合──がわずか5.4%まで急速に減少。一方、Farmers and Merchants Bank of Long Beachのレバレッジ比率は10.9%。
米銀の資本ルールによれば、5%はギリギリの状態で、下回ると「十分な資本を持つ(well-capitalized)」という分類から外れ、規制当局の緊急介入の対象となる領域へと向かう。
シルバーゲートの広報担当者は取材に対して「すでに公表されていること以外、コメントできない」と答えた。
止まらないシルバーゲート離れ
シルバーゲートが公表したデータで最も劇的な凋落を示すもう1つのデータが、預金に関するものだ。
シルバーゲートは四半期ごとに、暗号資産関連の顧客数を公表しており、前四半期の1620まで一貫して増加していた。多くは機関投資家とされているが、100以上の「暗号資産取引所」も含まれる。
そして、これら暗号資産顧客の預金は2022年第3四半期の約120億ドルから、昨年末には40億ドルを下回るところまで減少した。
大口顧客が取引を停止しており、現在ではさらに減っているはずだ。コインベース(Coinbase)、パクソス(Paxos)、サークル(Circle)、ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)などが、取引停止を公にしている。
業界の数少ない選択肢
規制を受けた伝統的な銀行の場合、預金がなければ存続は不可能。主要な暗号資産関連の顧客が昨年、破綻や経営の悪化、訴訟などの問題に直面し、流動性を迅速に必要としたことでシルバーゲートの預かり資産は急激に減少した。
FRBをはじめとする銀行規制当局が、管轄下にある金融機関に対して、暗号資産セクターに関与し過ぎないよう警告するなか、暗号資産関連企業に残された米銀の選択肢は少なくなっている。
シルバーゲートほど公に、ポジティブに暗号資産に特化した銀行はわずかであり、シルバーゲートの苦闘は、後に続く金融機関にとっても厳しい先行きを示している。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Charlotte Harrison/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:The Rise and Fall of Silvergate’s Crypto Business