経済におけるイノベーティブで未来を見据えた分野と関連した金融機関に大きな問題が起きた。
2016年以降、新興の暗号資産エコノミーへのサービス提供に注力してきたシルバーゲート銀行の持ち株会社シルバーゲート・キャピタルは3月9日、銀行業務を縮小すると発表した。そして、スタートアップ企業に対して、同様の役割を長く担ってきたシリコンバレー銀行(SVB)は10日、経営破綻が発表され、預金は米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移された。
簡単に言えば、両行は同じ問題、すなわち昔からある銀行の取り付け騒ぎに見舞われた。両行の顧客は、暗号資産取引所であれ、ハイテクスタートアップであれ、経済・金融情勢の影響もあって、さまざまな経営課題に直面していた。そのため顧客の現金引き出しは増加、銀行の預金は減少し、現金以外の長期保有資産の多くも打撃を受けていた。
つまり、現金の需要が高まった(=顧客の引き出しが増えた)ことで、シルバーゲート銀行とシリコンバレー銀行は、その裏付け資産を大きな損失が出ても売却しなければならなかった。シルバーゲート銀行は2022年第4四半期に10億ドルの資産売却損を発表し、シリコンバレー銀行も資産売却で18億ドルの損失を出した。2つのケースで重要なことは、米国債が資産の大きな割合を占めていたことだ。
It’s going to be quite ironic if high interest rates don’t reduce inflation but instead just causes a bunch of banks to fail due to bad bets buying treasuries.
— Dare Obasanjo (@Carnage4Life) March 10, 2023
高金利がインフレを抑制せず、国債を購入するという悪い投資が原因で多くの銀行が破綻するようなことになれば、きわめて皮肉なことだ。
多くの銀行が直面している問題
これらの問題の上流には2つの要因がある。現実の景気循環の問題、そして米連邦準備制度理事会(FRB)の金利の引き締めだ。これらの要因はまた、相互に関連しており、本質的には新型コロナウイルスが引き起こした混乱に行き着く。
FRBの金利引き上げは、シルバーゲート銀行とシリコンバレー銀行をクラッシュさせた最も直接的なプレッシャー。私は1年以上前から、当たり前の警告を発してきた。米国債の利回りが上昇すれば、ハイテクスタートアップや暗号資産などリスクの高いセクターへの新規投資は抑制される。
さらに金利の上昇は、銀行の安定性を脅かす、一見広く見過ごされている別の脅威をもたらす。ウォール・ストリート・ジャーナルが驚くほど簡単に説明しているように、利回りの高い新規国債の発行は、金利上昇前の利回りの低い国債の市場価値を低下させる。
ほとんどの銀行は、法律で定められた担保として大量の国債を保有している。つまり、シルバーゲート銀行やシリコンバレー銀行を襲ったものと同じリスクが、多くの銀行にもある程度当てはまる。これが銀行株、特に地方銀行や中堅銀行の株価が軒並み下落している理由のひとつだ。
両行に特有の問題
しかし、シルバーゲート銀行とシリコンバレー銀行は、あまり広範には当てはまらないかもしれない、特有の景気循環の問題にも直面していた。両社はそれぞれ、新型コロナウイリス感染拡大の初期に大幅に下落した暗号資産テクノロジーやベンチャー企業などをターゲットとしていた。両セクターとも新型コロナウイルスのロックダウンから恩恵を受け、特に暗号資産はアメリカ国民に配布されたパンデミック救済小切手の恩恵を受けた。
つまり、両行には2020年から2021年初頭にかけて大量の資金流入があった。シリコンバレー銀行のバランスシートは、2019年末から2021年3月にかけて3倍になった。シルバーゲート銀行の資産も2021年に大幅に増加した。
両行は預金の増加を支えるために、担保としてさらに債券を購入しただろう。債券の利回りがまだ1%程度だった時代に。
しかし、FRBの利上げにより、新たに発行される国債の利回りは4%近くになり、利上げ前に発行された国債の需要は低下している。そのため、顧客が預金を引き出し始めたタイミングで、シルバーゲート銀行とシリコンバレー銀行は損失覚悟で国債などの流動資産を現金化せざるを得なかった。
依然残るパンデミックの影響
全体像の一部分だけを見れば、この混乱を自分に最も都合良く解釈することもできるだろう。しかし、新型コロナウイルスがもたらした混乱から、壊れた救命ボートで脱出し、誰が一番最初に食料を手にするかを争っているに過ぎないというのがおそらく真実に近い。
例えば、一部の人(特にビットコイナー)はFRBの利上げを批判するだろうが、利上げはインフレ抑制のために本当に必要な措置だ。インフレは新型コロナウイルスに関連した実質的なコスト上昇と、パンデミック救済政策によって大幅に拡大したマネーサプライの両方から生じたものだ。こうした政策がもたらした本当のコストとメリットを完全に理解するには何年もかかるだろうが、現時点でのアンチFRB的な姿勢はあまり意味がない。
一方、メインストリームの多くの人は、銀行危機の発端となった暗号資産セクターそのものを批判したくなるだろう。この主張の最も明白な証拠は、暗号資産フレンドリーな銀行であったシルバーゲート銀行が最初にクラッシュしたことだ。今後数週間のうちに「ドミノ倒しの1つ目」などと呼ばれるかもしれないが、実は現場のリアルとは異なっている。
シルバーゲート銀行は、たしかに脆弱だった。実際の普及や持続的な収益にまだ時間が必要な暗号資産業界に特化していたが、業界全体が低迷してしまった。しかし、それは流動性危機の原因ではないし、破綻が今後の銀行破綻に大きく影響することもない。
むしろ、アメリカのすべての銀行が、サーバー工場への資金提供であれ、トウモロコシやエンドウ豆への資金提供であれ、多くの同じ構造的圧力に直面している。
その根本的な原因は、経済におけるリアルで大規模な混乱であり、600万人以上が死亡したウイルスだ。今、受け取るべき教訓があるとすれば、いかなる金融政策も、現実世界の混乱を完全に収めることはできないということだ。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:CoinDesk
|原文:A Tale of 2 Banks: Why Silvergate and Silicon Valley Bank Collapsed