カリフォルニア州金融保護革新局は3月10日、シリコンバレー銀行を閉鎖し、連邦預金保険公社(FDIC)を管財人に選任した。
シリコンバレー銀行は預金が1700億ドル(約23兆円)、総資産が2000億ドル(約27兆円)の銀行で、アメリカの銀行の破綻としては、2008年のワシントン・ミューチュアル銀行の破綻に次ぐ規模となった。ワシントン・ミューチュアル銀行の資産の大半は、FDICの介入後、JPモルガン・チェースに売却された。
FDICはシリコンバレー銀行に関するプレスリリースで、預金者は13日朝までには保険対象の資産に完全にアクセスできるようになると述べた。
保険対象の資産とは、1口座あたり25万ドル(約3360万円)のこと。それ以上の預金は、シリコンバレー銀行の資産が他の銀行や金融機関に売却された後、順次預金者に返されることになる。
ただし今回、米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)、FDICは、預金者は全預金にアクセスできるようになると発表した。銀行システムへの不信感を払拭し、混乱の連鎖を避けるために異例の措置を取った。
シリコンバレー銀行の破綻については、全容はまだ明らかになっていない。だがまず1つ、しっかりと考えて明確にしておくべきことがある。
一体、誰が悪いのか?
批判の矛先はどこに?
まず、預金者は批判の対象ではない。
この先、シリコンバレー銀行の破綻の理由として、ベンチャーキャピタルの支援を受けたシリコンバレーのIT企業御用達の銀行だったから、という説明を目にすることになるだろう。確かにそうした企業の多くは、資本金の準備が怪しげだったり、ひどく収益性が低い。
確かにシリコンバレー銀行はIT寄りだったし、暗号資産フレンドリーとまでは言えなくても、ブロックチェーン・キャピタル(Blockchain Capital)やキャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)、ドラゴンフライ(Dragonfly)、パンテラ(Pantera)などの暗号資産に注力したヘッジファンドやベンチャーキャピタルと取引があった。
しかしシリコンバレー銀行は、これらの企業のせいで破綻したわけではない。多くの場合、1つの業界に預金者が集中していたことに批判的になることは理に適っているが、今回はそうではない。
ベンチャーキャピタルを批判したければ、ピーター・ティール(Peter Thiel)氏が創業したファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)を批判するといいだろう。同ファンドは「財務の安定性に懸念があるため、シリコンバレー銀行から資金を引き出す」よう企業にアドバイスした。
そうしたアドバイスで投資家の不安を煽り、取り付け騒ぎの引き金を引いた。
利上げで国債の価値が低下
確かにシリコンバレー銀行の取り付け騒ぎは、預金者たちが預金の引き出しを求めたから起こったが、預金者を批判することに私は否定的だ。預金者には、他の投資家のために考え直すよう懇願してくれるような人はいなかった。
もちろんファウンダーズ・ファンドも完全な悪者ではない。ある日突然、シリコンバレー銀行を破綻させようと決心したわけではない。
ベンチャーキャピタルが、自身が保有するフィンテック企業の利用を促すために、シリコンバレー銀行を意図的に潰したという考えは私から見ても少し強引だ。ファウンダーズ・ファンドはシリコンバレー銀行の資金調達の失敗を懸念していた。
実際、シリコンバレー銀行は流動性に問題を抱えていた。よくわからない人のために、簡単に説明しよう。
顧客はシリコンバレー銀行にお金を預ける。シリコンバレー銀行はそのお金を国債に投資する。国債は市況に応じて価値が変わる。シリコンバレー銀行が購入した国債は満期の長いもので価値が下がっていった。価値の下落は、シリコンバレー銀行の財務ポジションにとって危険だった。
この簡単な説明で理解すべき重要なポイントは1つ。シリコンバレー銀行が購入した国債は、米連邦準備制度理事会(FRB)による金利引き上げによって、その価値が低下した。とはいえ、多くの預金者が同時に預金を引き出そうとしない限り、通常は問題ないことだ。
しかし、多くの預金者が同時に預金を引き出す事態となった。
専門用語に詳しい人なら、シリコンバレー銀行が国債の価値下落で経験したことを「デュレーション・リスク」と呼ぶ。
批判されるべきはシリコンバレー銀行とFRB
預金者や取り付け騒ぎのきっかけとなったベンチャーキャピタルではなく、批判されるべきはシリコンバレー銀行とFRBだ。
まず第一に、シリコンバレー銀行はリスク管理を誤った。顧客の預金を使って、間違った金融商品を購入したことは明らか。仮にそうでなければ、資金調達の必要はなかっただろう。
シリコンバレー銀行を弁護するなら(説得力に乏しい弁護だが)、FRBは約1年の間に金利を20倍近く引き上げた。シリコンバレー銀行は悪い投資を行ったが、悪い投資の責任は、これほど急速に利上げを行ったFRBにもある。
なんと皮肉なことだろう。高インフレに対処しようとする中で、FRBは逆に国債に多額の投資を行った銀行を破綻させてしまった。
最後に、可能な限り明確にしておくために、繰り返しておく。今回の事態は、暗号資産の責任ではない。
シリコンバレー銀行の破綻に預金者の構成は関係なかった。シリコンバレー銀行が下した顧客の預金に関するリスクマネジメントの判断は、預金者の業務内容とは無関係に行われた。他のいかなる業界の責任ではないのと同じように、暗号資産業界の責任ではない。
もちろん例外は銀行業界だ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Sundry Photography / Shutterstock.com
|原文:Who Failed Silicon Valley Bank Depositors?