総資産120億ドル(約1兆6200億円、1ドル135円換算)のシルバーゲート銀行は3月8日、任意清算を発表。総資産2000億ドル(約27兆円)のシリコンバレー銀行は10日、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行。総資産1000億ドル(約13兆5000億円)のシグネチャー銀行は12日、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)によって事業停止となった。
破綻の経緯
シルバーゲート銀行
これらの銀行はすべて、暗号資産関連の顧客を抱えていた。暗号資産業界との関わりの深さはそれぞれ異なっていたが、特にシルバーゲートは、複数の暗号資産取引所を顧客に持ち、顧客間で使える暗号資産即時決済ネットワークを24時間365日運営していた。
FTXの破綻はシルバーゲートの経営を圧迫し、エリザベス・ウォーレン上院議員が昨年同行に送った書簡はシルバーゲートに対する一般市民の印象を悪化させた。バイデン政権も懸念を表明していた。
つまりシルバーゲートは、ウォーレン上院議員の主張とは裏腹に暗号資産業界のせいではなく、少なくとも部分的には米政府が促した取り付け騒ぎによって崩壊させられた。
特に、最終的にはシルバーゲートの清算が自発的なものだったこと、「すべての預金の完全な返還」が計画されていることを見逃してはならない。
シリコンバレー銀行
シルバーゲート銀行の任意清算のニュースからまもなく、シリコンバレー銀行も取り付け騒ぎに直面し、FDICの管理下に移った。こちらの取り付け騒ぎは、顧客の預金を誤った金融商品(満期の長い米国債や誤ったタイプの住宅ローンに裏付けられた証券など)に投資するというシリコンバレー銀行のリスクマネジメントの甘さと、シリコンバレー銀行の顧客企業の多くに多額の金銭的利害を抱えるベンチャーキャピタリストが広めた不安感によって引き起こされた。
さらにロイターは、信用格付け会社のムーディーズがシリコンバレー銀行の格下げを準備していると報道。その報道を受けてシリコンバレー銀行はゴールドマン・サックスにアドバイスを求めたと報じられた。
シリコンバレー銀行は週末にかけて、200億ドル(約2兆7000億円)の債券を売却し、損失を抱えた。その穴を株式発行によって埋めようとした。しかし結局は失敗し、シリコンバレー銀行はもう存在しない。2007年のような感じがしてくるのではないだろうか?
しかし、シリコンバレー銀行は暗号資産企業よりも、シリコンバレーのスタートアップに依存していたことに注目して欲しい。
シグネチャー銀行
そして12日には、シグネチャー銀行がNYDFSによって事業停止となった。
シグネチャー銀行もシルバーゲートと同様、暗号資産フレンドリーな銀行と見られていた。しかし元米下院金融委員長で、金融規制のための「ドッド・フランク法」の由来にもなったバーニー・フランク(Barney Frank)氏は、顧客はシグネチャー銀行の暗号資産との関わりを過大評価していたかもしれないと語った。なぜフランク氏がこれを知っていたかというと、驚いたことに同氏はシグネチャーの取締役を務めている。
フランク氏はさらに、シグネチャーは継続企業であり続けることもできたと指摘。10日に顧客が100億ドル(約1兆3500億円)以上を引き出したことを受けて、NYDFSが事業停止を決定、12日に同行はFDICの管理下に移った。
暗号資産に対する批判
シルバーゲートはひとまず脇に置いておくとしよう。シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行に比べて、広範な銀行システムに対するシステミックリスクははるかに小さい。規模がはるかに小さく、政府からの支援も受けていない。
シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行には、非常に興味深い共通点がある。メディアや市民が、2つの銀行の破綻を暗号資産のせいにしている。
だが、これは真実ではない。
フランク氏すらも、暗号資産の問題ではなく、暗号資産の問題に関するメッセージの問題だと示唆して、次のように語っている。
「規制当局がアンチ暗号資産の非常に強力なメッセージを送りたがっていたのだと思う。(中略)ファンダメンタルズに基づけばシグネチャーは支払い不能ではなく、私たちはそのメッセージの広告塔にさせられた」
これらの銀行の破綻は、顧客預金のリスクマネジメントのお粗末さと、それに続く取り付け騒ぎの結果だ。そもそも銀行との取引関係づくりに苦戦する暗号資産企業が銀行システムを破綻に追い詰めると考えることは明らかに間違っている。暗号資産業界は不動産業界ではない。
暗号資産業界は銀行の問題を抱えているが、銀行業界は暗号資産の問題を抱えてはいない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:CoinDesk
|原文:The Banking Crisis Is Not Crypto’s Fault