強気相場以降、全額を長期保有する戦略を取ってきたハット・エイト・マイニング(Hut 8 Mining)は3月7日、ついに戦略を変え、日々の運転資金とするために2月に188ビットコイン(BTC)を売却したと発表した。同社は、株式公開しているマイニング企業の中で最後まで全額保有を続けていた。
金融市場の低迷と収益率が低下するなか、マイニング企業は運転資金の調達に苦心している。前回の強気市場から現在の弱気相場にかけて、マイニングしたビットコインを全額保有することを選んでいた多くのマイニング企業は、日々の運転資金とするためにビットコインの売却を始めていた。
ハット・エイトは2021年1月以降、ビットコインを売却していなかった。2月の売却によって、2月末の保有高は9242BTCとなった。マラソン・デジタル・ホールディングス(Marathon Digital Holdings)も1月にビットコインを売却。2月末時点での保有高は1万1392BTC。
ハット・エイトのジェイミー・レバートン(Jaime Leverton)CEOは以前、USビットコイン・コーポレーション(US Bitcoin Corp.)との合併を完了させるためにビットコインを売却すると語っていた。
時間の問題
利上げなどの問題を考慮すれば「これらの企業が手持ちの現金について、もう少し慎重になる必要が生じることは時間の問題だった」と、投資会社D.A.デヴィッドソン(D.A. Davidson)でビットコインマイニング業界を担当するアナリスト、クリス・ブレンドラー(Chris Brendler)氏は語った。
「市場のピーク時には、ビットコインマイニング企業は株式発行によって積極的に事業と成長を支え、市場もそれをサポートしていた」とビットコインマイニング企業テラウルフ(TeraWulf)の最高戦略責任者ケリ・ラングライス(Kerri Langlais)氏は語った。
マラソン・デジタルの広報担当者チャーリー・シューマッハー(Charlie Schumacher)氏によれば、ビットコインを保有し続けたマイニング企業は、膨れ上がるバランスシートを歓迎する投資家と、ビットコインを長期保有するビットコインコミュニティの双方から評価されていた。
長引く弱気相場
しかし弱気相場の間に、ビットコイン価格とマイニング企業の株価は下落し、ビットコイン保有は株主にとってネガティブ要因となった。ついに投資家は、ビットコインを長期保有しつつ、株式で運転資金をまかなう戦略を拒むようになったとラングライス氏は説明する。
長引く弱気相場は、コンピュート・ノース(Compute North)やコア・サイエンティフィック(Core Scientific)といった大手マイニング企業を破産させ、事業継続のために債務の整理に取り組む企業も出てきた。
「負債に苦しむビットコインマイニング企業が破産保護申請や債務の整理を行なったこと」が、ビットコイン売却を決断する一因になったと暗号資産マイニングに関するリサーチとデータを手がけるザマイナーマグ(TheMinerMag)のリサーチ責任者ウルフィー・ジャオ(Wolfie Zhao)氏は分析する。
ビットコインマイニング企業グリニッジ・ジェネレーション(Greenidge Generation)の財務担当者ティム・レイニー(Tim Rainey)氏は、このトレンドはおそらく「ハッシュ価格(マイニングの収益性)の低下」と「弱気相場の中で事業やその他の債務をまかなうために流動性が必要になったこと」によって始まった可能性が高いと指摘した。
ビットコイン売却が特に多く見られるようになったのは2022年6月。ジャオ氏の分析によればこの月、マイニング各社は1万4200BTCを売却した。その約半分は破綻したコア・サイエンティフィックによるもの。それ以降、ジャオ氏が調査しているマイニング各社はひと月に5000〜7000BTCを売却。これは2022年1月〜5月にかけての平均売却高の2倍以上にのぼる。
売却タイミング
マイニング企業が保有するビットコインを売却しなければならない兆しはあったが、その利益を最大化にするにはタイミングが重要だった。
コア・サイエンティフィックが膨大な保有ビットコインの売却を始めたのは2022年6月。ビットコイン価格が4万ドル付近から下落し始めた頃だ。ジャオ氏によれば、5月の市場低迷開始を待たず、1月に売却を始めていれば、利益は1億4400万ドル(約190億ドル)上乗せできたという。
昨年ビットコイン売却を余儀なくされたマイニング企業や投資家は多いが、「財務管理と事業構築のための意識的な選択」であることが明確に伝わるようにしたかったとマラソン・デジタルのシューマッハー氏は語った。
同社が運転資金のためにビットコインを売却し始めたのは、今年1月になってからだ。
減損損失
グリニッジ・ジェネレーションのレイニー氏は、マイニング企業が今後の決算報告で「マイニング機器やインフラを含めたマイニング関連の資産と保有デジタル資産の双方において、現金以外の多額の減損損失」を計上すると予想している。
業界大手のライオット・プラットフォームズ(Riot Platforms)は2022年、1億4740万ドルの暗号資産の減損損失を計上。前年は3650万ドルだった。ハット・エイトも2022年、1億1390万ドルのマイニング機器での損失を計上した。マイニング機器の価格はおおむね、暗号資産価格を反映する。
ジャオ氏はより多くのマイナーが「強気相場が戻ってくるまではハイブリッド戦略を続ける」と考えている。「しかしそうなると、100%保有する戦略に立ち戻って、また同じことを繰り返すのだろうか?」と疑問を提起した。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:DALL-E/CoinDesk
|原文:Crypto Winter Ends Era of Bitcoin Mining ‘HODLers’