クロス・リバー銀行(Cross River Bank)が、暗号資産フレンドリーだったシルバーゲート銀行やシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行の破綻を受けて、暗号資産業界で注目を集めている。
同行はベンチャーキャピタルの支援を受け、米連邦預金保険公社(FDIC)の保護対象にもなっている米ニュージャージー州の地方銀行。金融機関であると同時にフィンテック企業でもある。
サークルとパートナーシップ
破綻に伴い、シグネチャー銀行のリアルタイム決済インフラ「SigNet」は運営停止したと思われたため(実際はそうではなかった)、顧客でステーブルコインのUSDコイン(USDC)を手がけるサークル(Circle)は決済のために別の方法を見つけることを余儀なくされた。サークルのジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)CEOは12日、自動決済のためにクロス・リバー銀行と新たにパートナーシップを結んだと発表した。
3つの銀行の破綻は、長引く「暗号資産の冬」に苦しむ暗号資産業界がとりわけ不安定な時に発生した。昨年、流動性危機や大手暗号資産取引所FTXの破綻など、暗号資産業界はニュースを賑わす多くのスキャンダルに見舞われた。今回の一連の銀行破綻によって、暗号資産フレンドリーな銀行に対する規制当局の監視の目も強化される可能性が高い。特に、バランスシートの健全性に注目が集まるだろう。
「直近の戦いをモデルにする傾向のある規制当局は、クロス・リバーを含めた銀行が十分な資本を持っているかを確認するために、今、間違いなく警戒態勢にある」と、フロリダ大学の金融学教授ジェイ・リター(Jay Ritter)氏は述べた。
クロス・リバー銀行とは?
公式ウェブサイトによれば、2008年創業のクロス・リバー銀行は総資産99億ドル(約1兆3400億円)まで成長し、これまでに融資総額は1000億ドル(約13兆5000億円)以上にのぼる。
州の認可を受けた同行は、大半のフィンテック企業とは異なり、融資を組成するための規制とコンプライアンスをクリアしたインフラや、暗号資産から法定通貨への交換をいつでも行えるリアルタイム決済システムなどのインフラを備えている。
多くのベンチャーキャピタルは破綻した3つの銀行と取引しており、クロス・リバーも大手ベンチャーキャピタルと関係があることから、移行先として自然な選択となるかもしれない。
クロス・リバーは2017年、バッテリー・ベンチャーズ(Battery Ventures)やアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)、リビット・キャピタル(Ribbit Capital)などの大手VCの支援を受け、2800万ドル(約38億円)を調達した。
2018年には約1億ドル(約135億円)の資金調達ラウンドが発表され、そのうち7500万ドル(約100億円)は米大手ファンドのKKRからの投資だった。バッテリー・ベンチャーズ、アンドリーセン・ホロウィッツ、リビット・キャピタルも再び資金を投じた。
しかし、シルバーゲート、シリコンバレー、シグネチャーの3行を破綻に追い込んだ取り付け騒ぎの一因は、伝統的テック企業が3行の顧客として、高金利下でハイリスク資産となっていたことにある。
クロス・リバーもテック業界と深い関係があり、コインベースやストライプ(Stripe)などに金融インフラを提供し、後払い決済サービス(BNPL)を手がけるアファーム(Affirm)などのフィンテックに融資を行っている。
これまでの経緯
シルバーゲート銀行の破綻は、監査人や会計事務所の懸念によって決算報告書を提出できないと伝えられたことで明らかになったが、暗号資産および一般的なテック業界で人気のあったシリコンバレー銀行の破綻は突然だった。
そして、シリコンバレー銀行の取り付け騒ぎがシグネチャーの取り付け騒ぎを引き起こす一因となり、こちらも数日後に破綻に追い込まれた。
「シリコンバレー銀行は、資産と負債のデュレーション・ギャップから問題を抱えた。より満期の長い国債と住宅ローン担保証券にかなりの投資を行い、金利が上がると(そうした債券の)価格は下落した。だが銀行の会計では、現在の市場価格を表さず、それまでのコストでバランスシート上にその多くを保有することができた」とリター教授は指摘。
「しかし、規制当局が現在の市場価格に注意を払うことができず、時価評価した場合にどれほどの資本が失われるかを見極めることができない、ということではない。クロス・リバーの場合、金利で賭けに出て負けたシリコンバレー銀行と同じ問題に陥らないよう、規制当局はそこに注目することになるはずだ」
規制当局による監視
暗号資産企業が取引先として検討しているのは、クロス・リバーだけではない。サークルはUSDCの準備資産を米金融大手のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)に移した。
トライブ・キャピタル(Tribe Capital)のマネージングパートナー、ボリス・レブシン(Boris Revsin)氏は、暗号資産企業に決済インフラを提供できる「イノベーティブな銀行」の1つとして、アリゾナ州にあるウェスタン・アライアンス銀行(Western Alliance Bank)をあげた。
とはいえ、破綻した3つの銀行の穴を埋めるいかなる銀行も、より慎重な目で監視されることになるだろう。
リター教授は「詐欺や盗難事件の多さから、誰もが暗号資産を比較的リスクの高いものとして捉えてきた。FTXの破綻も間違いなく、規制当局の監視の目を強めることになった。規制当局は銀行を金利の影響をどれくらい受けるか、暗号資産との関わりはどれほどあるかという点で見ていくだろう。1週間前に比べて、銀行が隠し事をすることはかなり難しくなっていると思う」と続けた。
CoinDeskはクロス・リバー銀行もコメントを求めているが、当記事執筆時点までに返答はなかった。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Wikimedia
|原文:What Is Cross River Bank, USDC Stablecoin Issuer Circle’s New Partner?