やって来るのは「より人間らしさが問われる時代」──ギタリストMIYAVI氏らが語り合ったWeb3メタバースの可能性

コインチェックが2023年内に公開予定のメタバース「Oasis TOKYO」。そこに展示するボクセルアート作品を募集した「Oasis TOKYO × The Sandbox『実験解放区』クリエイターコンテスト」の受賞発表イベントが3月3日に開催された[受賞者インタビューなどはこちら]。

イベントでは「トップクリエイターが語るWeb3の可能性」と題して、審査員を務めたサムライ・ギタリストのMIYAVI氏、ボクセルアーティストのVEN Mashu氏、コインチェック常務執行役員の天羽健介氏によるトークセッションも行われ、登壇者たちはそれぞれの立場から、メタバースやNFTへの取り組みと、そこに見出した可能性を語った。

取り組む理由は「まず自分がワクワクしていたいから」

ギタリストとして、ライブ・ツアーで世界中を飛び回り、ファンたちに感動を与えてきたMIYAVI氏がデジタル空間での表現を一層深化させたきっかけは「コロナ禍」だった。リアルなライブが開催できなくなるなか、VRやネット配信を駆使して、ファンたちに音楽とメッセージを届けていった。

MIYAVI氏は「この先、ライブができるのか、できないのか。元のような時代に戻るのかなど、先が見えないなかでバーチャルライブをはじめました。NFTとの連動して、アルバムのデジタルブックレットやミュージックビデオを作ったり。これから、『Oasis』の舞台でもパフォーマンスをしていく予定です」

いまの「メタバース」をMIYAVI氏はどういうフェーズだと捉えているのか。

「世界的に実験をして、試行錯誤している段階だと思う。僕もその中で何ができるのかを考えています。こういうものが爆発するのは、ハードウェアとソフトウェアの両輪が噛み合ったとき。今はまだ、ソフト側がやろうとしていることに、機器の性能やネットの回線速度が追いつこうとしている。まだ、その段階に僕たちはいる。僕も、アーティストとしてどんなことを実現できるのか、どんどん(試行錯誤を)やっていきたい」

さらに積極的にデジタル世界でのパフォーマンスに取り組む理由について、MIYAVI氏は次のように語る。

「その先に何かがあると感じるから。失敗もたくさんするし大変だけど、バーチャルライヴにしてもワールドツアーにしても、やり続けることに意義がある。今は日本の若手アーティストたちがどんどん出て行くようになった。自分の存在意義として、次の世代に何かを残したいという気持ちは強くあります」

「ただ根幹にあるのは、まず自分がワクワクしていたいから。清水寺でのライブパフォーマンスも、和太鼓や三味線などを入れて、ドローンを駆使して撮影し、バーチャルならではの表現ができた。YouTubeやTwitchなどでのライブも、自宅からやってみたり、個人で世界に向けて発信できる時代になったことを実感しました」

挑戦し続けるMIYAVI氏は、これからのメタバース展開についても「ムーブメントが起きて何かが生まれるのは、点と点が繋がって、みんなが寄り添ったときだと思う。その一端を担いたいという気持ちは大きいですね」と意気込みを述べていた。

「失敗しても大丈夫」という土壌が挑戦を生み出す

ボクセルアーティストのVEN Mashu氏は現在、The SANDBOXに参入しようとするアーティストたちに向け、サポートを提供している。VEN氏はかつて子供向けの玩具の企画開発をしていたが、企業名ではなく自分の名前でユーザーに直接作品を届けられる点に魅力を感じて、Web3やメタバース世界へのコミットを深めていったという。

Oasis TOKYOが展開されるメタバース「The SANDBOX」の特徴のひとつは、そこがあくまでプラットフォームであることだ。世界の「街」や「登場人物」たちは参加ユーザーが作り上げていくもので、そこには無限といえる可能性が存在する。もちろん創造には苦しみや失敗も存在するが、そういったものも受け止めてくれる優しい空気がThe SANDBOXにはあるという。

VEN氏は「そもそもSANDBOXという名前は『砂場』という意味で、そこには失敗しても大丈夫だという土壌がある。Oasis TOKYOに設置される『実験解放区』も同じで、そこに強く共感している」と語る。そういう姿勢を保つことで、思い切った挑戦を後押ししている。

表現者として「メタバース」と向き合うには?

今後、広い意味での「メタバース」は、確実に発展していくことだろう。その世界と、表現者はどう向き合っていくのか?

MIYAVI氏は「試行錯誤していく以外に道はない」と。

「そこに可能性があることは確かで、自分たち人間がそこにどうアジャストしていけるかの問題。たとえば僕の子供たちは、学校が終わって友達と待ち合わせをするのはFortniteのようなゲーム世界の中。ゲームの中でコミュニケーションができて、仲間と共通の何かを達成するという目的があることで、ゲームのメタバースとしての存在価値が強くなったと感じます。これまでにも、そうした取り組みはあったが、実用性が高くなり、コミュニケーションもしやすくなっている。(クリエイターとして)その世界観の中でしかできない表現にトライしたい」

MIYAVI氏は「メディア(媒体)が変われば、自分たちの表現の仕方も変わってくる」とも指摘する。「音楽でもラジオにはラジオ向け、TikTokにはTikTok向けの表現があり、メディアが変わることで作品の輝き方も変わる。アーティストはそこにアジャスト(適合)していかなければいけない」という。

コインチェック執行役員の天羽氏は「メタバースでは、アバターを使うことで自分自身の外見など、普段は逃れられないしがらみから解放される。それがきっかけとなって、新しいチャレンジができるのもいいところだ」と述べる。

天羽氏はさらに、人はそもそも多面的な存在だと続けた。

「これまでも家、職場、学校など、いま誰とどこにいるかによって、『自分自身の人格』はちょっとずつ変わっていたし、使い分けていたはずだ。Oasisなどの『メタバース』も、その中のひとつに加わるという捉え方をしている。将来的にはいろいろなメタバースで、いろいろな人格を使い分ける世界が到来するのではないか」

今後は多様なメタバースが登場すると言われているが、なかでも「Web3メタバース」はどんな展開を見せていくのか。天羽氏は2022年にニューヨークで開催されたNFT.NYCの盛り上がりを振り返りながら、こう指摘する。

「NFTのイベントでは、同じコレクションのNFTを持つユーザーたちが作り上げるコミュニティと、そこに存在する『つながっている感』を体感できた。持っているNFTが値上がりすれば経済的なリターンもある。Web3メタバースの特徴は、その中で循環した経済圏が成り立つことだろう」

VEN氏も「たとえば従来のゲームではどれだけ時間を費やしても、(プロゲーマーを除いて)現実世界の利益にはつながらなかった」と指摘。しかし「そこに経済圏が成り立っていれば、今後参加するユーザーやクリエイターはどんどん増える。今後は成長分野になってくると思う」と期待を語った。

 Web3メタバースの本格到来に向けて、いま何をすべきなのか?

では、いま、これからのメタバース展開を考えていくクリエイターや企業はどんな準備をすべきなのか?

VEN氏は「まずはDiscordやTwitterなどに参加して情報収集し、そのうえで『自分からも発言をしていくこと』がかなり大切」という。VEN氏は自らクリエイター集団「VOXEL RANGERS」を発足させ、企業がWeb3に参入するために必要なサポートを提供している。

MIYAVI氏は「バーチャルライブをするなかで、『完璧なもの』の価値は下がり、逆に人間らしさみたいなものの価値が上がってきていると感じています。身体や容姿、生まれつきの背景と関係のないところで勝負ができる。僕はそこに可能性を感じるとともに、そこで求められているのは『己』、『自分って何なの』ということではないかと思う。逆にそれが強くないと、他人とコネクトしても何も生まれない」と述べる。

デジタルの世界では、逆に「個の力」が問われてくるというわけだ。

MIYAVI氏は「まず、自分が何を発信したいのか。そこを充実させることが何よりも大事になってきている。それぞれが個人レベルで自分の道を探す時代になってきている」と強調していた。

MIYAVI氏やVEN Mashu氏らが審査員を務めた「Oasis TOKYO × The Sandbox『実験解放区』クリエイターコンテスト」の優秀作品賞3点と、作者インタビューは以下から。

●IMAGINATION賞 Air Lay(エアレイ)氏

https://coincheck.com/ja/article/559#i2

●ORIGINALITY賞 いまから氏

https://coincheck.com/ja/article/559#i3

●CREATIVE賞」Büro氏

https://coincheck.com/ja/article/559#i4

|テキスト・編集:coindesk JAPAN
|写真:N.Avenue