アメリカの暗号資産企業がシルバーゲート銀行とシグネチャー銀行の代わりとなる銀行を必死に探している今、ヨーロッパはこの危機をチャンスに変えることができるかもしれない。
ヨーロッパは暗号資産イノベーションにおいて、アメリカに追いつくことに苦戦した時期があった。ステーブルコイン、取引高や普及など、暗号資産の誕生以来、アメリカが中心と思われてきた。
規制の明確さで先を行くヨーロッパ
しかし、アメリカの銀行が暗号資産企業に対してオープンな姿勢を示す、つまりシルバーゲート銀行に預けられていた数百万ドルの資金を受け入れる姿勢を示すことに時間がかかればかかるほど、規制がより明確で、法定通貨との決済もより簡単なヨーロッパのような地域を暗号資産企業が選ぶ可能性は高くなる。
「暗号資産市場規制法案(Markets in Crypto-Assets Act:MiCA)」がもたらすヨーロッパの規制の明確さは、毎日のように企業が新しい規制上の逆風に直面するアメリカの曖昧さとは著しい対照をなしている。アメリカの暗号資産の組織運営にとって、ますます困難な環境となっている。新規参入者、既存の参加者にとって、規制の明確さの地域差は考慮すべき大きなポイントとなっている。
さらにアメリカの政治家は、暗号資産への法定通貨の流入を押さえつけようと全力を尽くしているようで、世界の他の地域がアメリカに対する競争力を獲得するチャンスを大きく作り出している。
トレーディングに関して言えば、投資家にとってはありがたいことに、ここ数年で法定通貨への依存度はますます小さくなっている。シルバーゲート銀行が危機を迎え、投資家が法定通貨ではなくステーブルコインを選ぶなか、中央集権型取引所での取引にステーブルコインが占める割合は史上最高を記録した。昨年だけでもステーブルコインが占める’の取引高の割合は79%から90%超えまで増加し、取引所の取引高の大半を占めている。
法定通貨への依存度の低下はつまり、アメリカの銀行の“暗号資産離れ”の影響を投資家が直接受ける可能性が低くなることを意味する。ただし、暗号資産投資家は取引手段としてステーブルコインを使うようになっているが、プラットフォームを手がける企業はそうではない。銀行からの切り捨てのダメージを最初に感じるのはそうした企業だ。
アメリカの銀行にアクセスできないことは、取引所などの企業が提供するサービスに対するアプローチを変えなければならないことを意味する。例えば、取引時間。取引所が年中無休のドル決済システムにアクセスできないとなれば、アメリカの取引所はアメリカの取引時間中だけしかサービスを提供できない可能性がある。この場合、アメリカの投資ファンドも取引時間外の取引戦略を逃すという機会コストに苦しむことになる。
ユーロが得るもの
ユーロの取引高は、ある地域でのマイナスは、別の地域のプラスになっていることを示している。シルバーゲート銀行が問題に見舞われるなかでビットコイン(BTC)とユーロの取引ペアは取引高が上昇し、アメリカの銀行の暗号資産離れによってユーロは大きな勝利を収めるかもしれないと初期の指標は示していた。BTC/ユーロの取引ペアは、ドルと比較したシェアが11月の7%から、直近では21%まで上昇した。
問題は、アメリカの銀行が暗号資産企業の預金を歓迎するかだ。仮に答えがしばらくはNoなら、ユーロ取引高の上昇トレンドは続く可能性がある。
アメリカの銀行が暗号資産企業を顧客として積極的に獲得するかどうかは、極めて重要だが難しい問題だ。大手銀行には今、暗号資産企業の預金を引き受けるインセンティブがない。現在、銀行セクターで大手銀行の統合が進むなかでは、なおさらだ。
ますます寡占化が進む市場において、JPモルガン・チェースなどの大銀行との競争に苦戦している小規模な銀行こそが、新たな預金を必要としている。理想的なシナリオとしては、複数の小規模な銀行が暗号資産企業に扉を開き、これまでのように少数の銀行に暗号資産企業の預金が集中するのではなく、さまざまな銀行により均等に分散することが望ましい。
しかし、小規模な銀行は、シルバーゲート銀行とシグネチャー銀行のことを取り付け騒ぎをある程度は防ぐことができるレベルまで預金を多様化できなかった銀行の事例として捉え、暗号資産企業に扉を開く銀行が登場するのは、しばらく先になるだろう。
つまり、ヨーロッパとユーロにとっては暗号資産業界の中で関連性を獲得する絶好のチャンスとなる。
コナー・ライダー(Conor Ryder)氏:暗号資産データ企業カイコ(Kaiko)のリサーチアナリスト。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Mufid Majnun/Unsplash
|原文:U.S. Banking Cutoff Presents Opportunities for Crypto in Europe