コインベース(Coinbase)、バイナンス(Binance)、ジャスティン・サン(Justin Sun)、ド・クォン(Do Kwon)氏、さらにはカストディア(Custodia)…。この1週間はニュースが盛りだくさんだった。しかも、ほとんどがアメリカの話。
だが最も興味深いのはバイナンス。何が起きたか(米商品先物取引委員会が提訴)だけではなく、何が起きていないか(米司法省は提訴していない)からだ。さらに商品先物取引委員会(CFTC)の技術諮問委員会は3月22日に会合を開いていた。
概要
CFTCは3月27日、バイナンスと創業者のチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏、さらにいくつかの組織をアメリカの顧客に未登録の暗号資産デリバティブオプションを提供しながら、「商品取引員(futures commission merchant:FCM)」として登録していなかったとして提訴した。
なぜ重要か
提訴の内容はかなり衝撃的で、バイナンスはアメリカの規制を回避するために注力していたことを示している。CFTCの主任弁護士グレッチェン・ロウ(Gretchen Lowe)氏はバイナンスの行為を「アメリカの法律を意図的に回避」したものと形容した。だがこれらはまだ法廷で立証されていない申し立てに過ぎない。
ジャオ氏は27日、訴状には「事実の不完全な列挙」が含まれていると反応した。
深刻な疑惑
とはいえ疑問は残る。これはバイナンスにとって、一大事なのだろうか? ここからは憶測に過ぎないので、その点に注意して読んで欲しい。
答えはYESだろう。CFTCの提訴内容そのものが理由ではない。CFTCは罰金を課すことも、ジャオ氏が将来的に先物取引員の幹部になることを禁止することもできる。ジャオ氏が幹部になることに興味を持っていればだが。
CFTCの提訴内容は、犯罪・制裁関連の問題に対して強い影響を与えることになる。
パレスチナの武装組織ハマスなど、制裁対象となっている組織がバイナンスで取引を行っていることをバイナンスが認識しながら、大きな問題ではないと考えていたなど、訴状の内容の一部は、司法省と財務省外国資産管理局の規則に抵触することになるだろう。
「(バイナンスの元最高コンプライアンス責任者)サミュエル・リム(Samule Lim)氏は同僚に『多額の資金はマネーロンダリングに相当する』ため、テロリストは通常『少額』を送金すると説明した」と訴状には書かれている。
「リム氏の同僚はそれに対して『600ドルではAK47(自動小銃)を買うのがやっと』と答えた。ロシアの顧客など、特定のバイナンスの顧客に関してリム氏は、2020年2月のチャットの中で次のように認めた。『そんなことはわかっている。彼らは犯罪のために使っている』と。バイナンスの(マネーロンダリング通報担当責任者は)『悪いことだとわかっているが、目をつぶる』と同意した」(CFTCの訴状)
さらに訴状は、バイナンスが事業のためにアメリカのサービスを使っていたことを強調し、Google Suite、Webex、WeWork、Amazon Web Services(AWS)を例としてあげた。
「Amazon Web Servicesからバイナンスが購入し、アメリカのバイナンスに提供したサービスには、『AWS CloudFront』がある。Amazon Web Servicesによれば、これは『グローバルコンテンツデリバリーネットワーク』である」と訴状は記している。
バイナンスが日本でAWSを使っていたことは、数年前、AWSの障害がバイナンスに影響を与えたことで以前から知られていた。
司法省の出方
パズルの最後のピースは、司法省の対応だ。司法省がこれまで、ランサムウェアの配布や「有料のサイバー攻撃サービス」の提供に関与したとされる企業やウェブサイトをどのように追及してきたかが参考になる。
そのような場合、米政府はドメインを押収する。ユーザーがサービスにアクセスすることはできなくなる。
つまりアメリカが本当にバイナンスは犯罪組織であると考えたとしたら、バイナンスを閉鎖させるために必要な条件はすでに揃っている。
念のために言っておくと、バイナンスに関して、司法省や外国資産管理局が何らかの対応を取るという差し迫った情報はない。
しかし、テラフォーム・ラボ(Terraform Labs)の創業者ド・クォン氏やFTXの創業者サム・バンクマン-フリード氏で見てきたように、司法省はときに、容疑者が逮捕されるまで公表されない極秘の起訴を行うこともあり、今は待機状態にあるだけの可能性もある。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Nikhilesh De/CoinDesk
|原文:That Binance Suit Sure Seems Bigger Than Just a CFTC Case