NFT、ハリウッドを破壊──“Film3”が台頭【コラム】

今年、アカデミー賞の短編実写映画賞を受賞したのは『アイリッシュ・グッバイ(An Irish Goodbye)』。手がけたのはクラウドファンディングで映画製作を行う“Film3”企業のファースト・フライツ(FIrst Flights)だ。

この映画の製作は同社がNFTを導入する以前に行われたが、先日完了した次の短編映画のための資金調達からわかるとおり、同社はWeb3導入に全力を注いでいる。

データは嘘をつかない

NFTは暗号資産業界の外でもよく知られるようになっており、業界関係者が思っているよりも、はるかに多くの人たちに認識されている。しかし、ハリウッドはブロックチェーンテクノロジーとWeb3の可能性を探求し始めたばかり。この先、より進展する余地があることを認識することは重要だ。

NFTは買い手と発行者の間に、他にはないような1対1の関係を生み出し、複数の業者に依存することなくコミュニティを構築することをサポートする。企業はここ数年でコミュニティの力を理解するようになっているが、そのROI(投資利益率)の数値化に苦戦している。

「データは嘘をつかない」とよく言われており、少なくともエンターテイメント業界の成功に関してはこれは本当だ。多くの人たちは、成功のためには1000人の熱心なファンがいれば十分と考えているが、本当に有用なデータを手に入れられる人はほとんどいない。

私は動画配信サイト「Vimeo」で働いている時に、ユーザー獲得、視聴者ベースの構築、動画流通に関するコミュニティの重要性について価値ある知見を手に入れた。当時、Vimeoは約1000チャンネルを抱え、サブスクライバーは360万人ほどだった。

ニッチコンテンツとコミュニティ

リサーチを通じてわかったことは、より広範な層に訴えかけるマス向けチャンネルの方がサブスクライバーを失う可能性が高いこと。平均解約率は28%だった。

マス向けストリーミングチャンネルは、ユーザーごとのライフタイムバリューも低く、わずか21ドル(約2800円)ほどだった。

一方、特定のニッチなテーマに重点を置いた、特定のコミュニティ向けのストリーミングチャンネルは、解約率がはるかに低く12.7%、ライフタイムバリューは50ドル(約6600円)だった。

ニッチなチャンネルはエンゲージメント率も高く、平均視聴時間は506分。一方、マス向けエンターテイメントチャンネルはわずか73分だった。さらに、サブスクリプション料金の値上げはニッチなチャンネルの解約率には影響を与えなかったが、一般的なエンターテイメントチャンネルの解約率は急増した。

こうしたデータは、コミュニティ・エンゲージメントのパワフルな影響力を裏付けるもので、クリエーター、特にニッチなコンテンツを作る人たちにとってのコミュニティ形成の重要性を強調する。

ニッチなコンテンツは、特定の視聴者の関心やニーズに合わせたコミュニティを象徴する。同様にニッチなコンテンツを作る独立系の映画製作者たちは、クリエイティブなビジョンや価値観をともにする視聴者とつながり、自らの作品を中心にして独自のコミュニティを構築することができる。

映画製作のターニングポイント

映画業界はコミュニティを作り出し、ニッチなコンテンツを収益化するためにWeb3テクノロジーを活用しており、クリエーターは大手配給会社や配信会社に対して、かつてないほどの影響力を手にしている。

Web3テクノロジーは映画製作者たちが資金調達、知的財産権保護、観客のエンゲージメントなどの大きな課題を克服することに役立つ。そのようなツールを手にすればクリエーターたちは、現在のストリーミング競争のなかでも、これまでにないような影響力を築くことができる。

写真家で映画製作者でもあるジュリー・パチーノ(Julie Pacin)氏は、型破りな映画『I Live Here Now』の資金調達で困難に直面した。諦めることを拒んだ彼女は、NFT発行を通じて資金を賄うことを決意。その試みは素晴らしい成功を収めた。NFTで映画の全資金を調達したのはパチーノ氏が初めてだった。

非営利団体Decentralized Picturesはサンダンス映画祭において、ブロックチェーンテクノロジーが支える10万ドル(約1340万円)のAndrews/Bernard Financing Awardの初めての受賞者としてミゲル・ファウス(Miguel Faus)氏を発表した。これによってファウス氏の映画『Calladita』は、NFT戦略によって全資金が賄われる初のヨーロッパ系映画となった。

取り上げられることが少ない人たちのために、より公平なプラットフォームを提供することで映画業界を変容させることを目指すNFT主導の取り組み、“Film3”ムーブメントの立役者はクリエイティブスタジオ「The Squad」の創設者でリーダーのジョーダン・ベイン(Jordan Bayne)氏だ。

クリエイターがクリエイトできるように

私たちはついにクリエイターに力を与え、コラボレーションやイノベーションを促し、より公平なエコノミーを築くことで、コミュニティが交流したり、コミュニティがエコノミーに参加する方法を変容させる可能性を秘めたテクノロジーを手に入れた。

NFTはまだ比較的新しいコンセプトだが、クリエイターが作品から直接利益を得たり、クリエイティブ業界に存在してきた権力の不均衡を解消するなど、コミュニティやエコノミーに与える影響はすでに伝わり始めている。

脚本家のストライキが心配されるなど、映画業界が困難に直面するなか、ますます多くのクリエイターがエンターテイメントと収入確保の新しい手段を模索するようになるだろう。Web3テクノロジーとNFTの台頭は、伝統的なコンテンツ製作と流通モデルに対して完璧な代替オプションを提供し、独立系映画製作者が視聴者とより直接的な関係を築き、自らの作品を一段とコントロールできるようにする。

映画業界が岐路に立つなか、これらの新しいテクノロジーを受け入れ、視聴者とより意義深く、持続可能な関係を構築することを可能にするその潜在力を探ることが大切だ。

映画製作の新しい時代がやって来る。

そのプロセスにおいてクリエイターをサポートすることは、私たちの情熱にフイットした新しいエクスペリエンスにつながる。

アンドレア・ベリー(Andrea Berry)氏:分散型動画配信ネットワークを手がけるTheta Labsのビジネス開発責任者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:NFTs Are the Ultimate Disruptor of Hollywood’s Entertainment Status Quo