イーサリアムブロックチェーンの大型アップグレード「シャンハイ」が完了した。シャンハイはいずれ、イーサリアム(ETH)にとってプラスの出来事だったと記憶されるようになるだろう。
しかし、これまでETHのステーキング利回りよりも高い利回りを獲得してきた世界の主要なETHクオンツトレーダーの多くは、ステーキングされたETHの引き出しがついに可能になったことで、ETHの流通量が大幅に増え、短期的には価格は中立、あるいは下落方向に向かうと考えている。
「シャンハイ」がもたらす影響
長期的に見れば、イーサリアムブロックチェーンのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への完全移行は、ネットワークとETH価格にメリットしかもたらさないだろう。時価総額トップのビットコイン(BTC)を王座から引き下ろすことができるかもしれない。
筆者が勤務するアンフィビアン・キャピタル(Amphibian Capital)は、さらに一歩踏み込んで、ETHは次の10年で世界の最も価値ある資産トップ3の1つとして君臨するのではないかと予想している。「シャンハイ」アップグレードは、それに向けたきわめて重要なステップであり、ETHの流動性と取引高を高め、より多くの機関投資家の資本を暗号資産エコノミーに引き入れる可能性もある。
まず「シャンハイ」アップグレードによって、ユーザーはイーサリアムブロックチェーンのバリデーションプロセスに参加しやすくなる。ステーキングはよりアクセスしやすく、効率的なものになる。ビーコンチェーン(Beacon Chain)メカニズムは、ステーキングプロセスを民主化し、ネットワークへの参加を拡大する。これはネットワークの安全性と分散化の高まりにつながる強気要素だ。
「Merge(マージ)」アップグレードによってイーサリアムブロックチェーンはすでに、PoSコンセンサスシステムに移行している。そしてEIP(イーサリアム改善提案)1559によって、ETHはデフレ資産となった。EIP1559は予測しやすく、安定した取引手数料メカニズムを導入し、取引手数料の一部の焼却を可能とした。ETHはデフレ的なものになり続け、時間とともに価値は高まることになる。
機関投資家の投資熱
これらすべては、暗号資産の機関投資家への普及拡大の基盤となる。私たちはすでに、ポートフォリオの多様化とインフレ圧力に対するヘッジを模索している機関投資家からのETHへの関心の高まりを目にしている。マージによるPoS移行によって、多くの機関投資家を遠ざけていたイーサリアムブロックチェーンのESG(環境・社会・ガバナンス)面での懸念が解消された。
ステーキングの引き出しが可能になれば、機関投資家は従来の資本市場における債券のような固定金利商品に似た形でステーキングを行い、利回りを獲得できるようになる。シャンハイ実行後、ステーキング利回りは従来の資本市場が資産の値付けに使う「リスク・フリー・レート」に相当するものになり得る。
シャンハイが2020年以来ステーキングされていたETHを含め、大規模なETHの売却を引き起こすかもしれないという予想に、投資家は不安を感じるだろう。しかしデータによれば、そうした分析は誇張されている。
CryptoQuantによれば、ステーキングETHの60%にあたる約1030万ETHが現在、含み損を抱えている。一方、ステーキングを手がける組織の中で最大規模のLido DAOは、ステーキングETHの30%を平均含み損1000ドル(約13万円)で保有している。
一般的には、投資家が大きな利益を抱えている場合は売り圧力が生じるが、現在のステーキングETHはそうした状況になってはいない。これはつまり、短期的にはETH市場における売り圧力は限定的なものになる可能性があるということだ。
さらに、市場情報プラットフォームのSantimentが報じた通り、ETH全供給量の約90%はセルフカストディされている。保有者たちは2022年9月以降、ますますセルフカストディに向かっている。
暗号資産取引所FTXが11月に破綻した後にその傾向は加速し、取引所に保管されているETHは大幅に減少した。投資家が様子見となることで、直近の売り圧力は緩和され、将来的な売却も限定的となると予想される。
さまざまな戦略
暗号資産が進化するに伴って、投資家は多くのETHを集める新しい方法を常に模索している。流動性ステーキングを手がけるLidoの利回りは現在、年換算で5.4%。イーサリアムブロックチェーン上でバリデーターになる選択肢もあるが、そのためには32ETHが必要だ。
ETH建てクオンツヘッジファンドへの投資など、高リスクと高額な手数料と引き換えに、大きなリターンを提供する専門的な投資システムを選ぶ投資家もいる。
これらの戦略にはすべてメリット、デメリットがあり、究極的には個人の好みとリスク許容度次第。投資判断を下す前に徹底的にリサーチを行い、リスクと報酬の可能性を理解することが大切だ。
いずれにせよアンフィビアン・キャピタルは、エコシステムの観点からも、価格と時価総額の観点からも、ETHの長期的な展望についてきわめて強気を維持している。
ジェームズ・ホッジス(James Hodges)氏:ETHベースのファンド・オブ・ファンズを手がけるアンフィビアン・キャピタル(Amphibian Capital)のマネージングパートナー。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Ethereum’s Shanghai Upgrade Will Permanently Alter ETH Economics