ビットコイン(BTC)の対ドル相場は、3月の米銀行連鎖破綻を端に発する金融不安、および米連邦準備制度理事会(FRB)の緊急レンディンファシリティ(Bank Term Funding Program)によるバランスシートの拡大や、積極的な利上げ観測の後退などを追い風に3月後半には2021年安値となる28,800ドルまで戻した。
一方、その後は底堅く推移するも、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で年内利下げ開始の可能性が否定されたことや、米商品先物取引委員会(CFTC)によるバイナンス提訴などの材料が相場の重石となり、28,000ドル周辺での揉み合いが3週間ほど続いた。
しかし、4月に入ると、上海(シャペラ)アップデートを控えたイーサリアム(ETH)相場が急伸し、昨年8月ぶりに1,900ドルに乗せると、今夏に半減期を控えるライトコイン(LTC)相場も後に上昇し、アルトコインの上昇を追い風にBTC相場も連れ高となると、ショートのロスカットを伴い30,000ドルの回復に成功。さらに、上海アップデート通過後にETH相場が2,100ドルに乗せると、BTCは昨年6月ぶりに31,000ドルにタッチした。
一方、足元では31,000ドルがBTC相場のレジスタンスとなると、ウォーラーFRB理事の5月追加利上げを支持する旨の発言を受け失速。17日には利益を確定する動きも見られ、相場は心理的節目の30,000ドルの維持に失敗している。
3月の米銀行連鎖破綻を契機に、FF金利先物市場では6月からの利下げ開始が織り込まれたが、3月のFOMCを経て米国債利回りは底固めとなり、向こう数カ月の市場の金利見通しはFOMCの見通しと同じ水準まで引き上がった(第2図)。こうした状況でもBTCが底堅く推移している背景には、アルトコイン相場の上昇の他に、5月での利上げ打ち止め期待があるからと指摘される。
FOMCは金融不安が燻るなかでも3月に利上げを決定し、年内利下げ開始の可能性を否定したが、FOMC議事要旨からは3月の利上げ見送りが議題となっていたほか、米銀行の与信環境の変化が経済に与える影響を懸念していたことが明らかとなっており、これまで以上に慎重な姿勢が垣間見えた。
加えて、FOMC声明では「進行中の利上げが適切」との文言が「幾分の引き締めが適切かもしれない」という曖昧な文言に変えられており、利上げ打ち止めに向けた準備が着々と進んでいることが窺えた。
一方で、3月の米消費者物価指数(CPI)は、ヘッドラインが2月の6.0%から1%ポイント低い5.0%となった一方、食品・エネルギーを除いたコア指数は5.5%から5.6%に加速した(第3図)。中長期的なインフレのトレンドを示すトリム平均PCEインフレ率も昨年10月に頭打ちとなったが、それ以降は4%台後半でジリジリと低下しており、物価上昇率は依然として高止まりしている。
こうした状況で本当に5月で利上げ打ち止めとなるか疑問も若干残るが、この先は銀行の与信環境の変化が利上げに代わって総需要を圧迫することが期待される。周知の通り、3月に米国の商業銀行からは巨額の預金引き出しがあったわけだが、それに伴い銀行の融資にもブレーキがかかり始めている。
積極的な利上げ局面においても一般消費者向け融資はジリジリと右肩上がりとなっていたが、直近では横ばいとなり、昨年末から横ばいで推移していた商工業向け融資は3月に比較的大きく下げた。こうした与信の逼迫は消費の減速や企業のコスト削減を促し、結果的に物価上昇圧力を抑える可能性があることから、FRBとしても景気を冷やす過ぎないよう、利上げに慎重になる必要があるだろう。
足元のFF金利先物市場は6月にも利上げが実施される可能性を2割強織り込んでおり、暫定的にでも5月に利上げ打ち止めが発表されれば、BTCにとって追い風となろう。また、5月の利上げの可能性は既に9割弱も織り込まれており、5月2・3日のFOMCに向けて利上げを警戒した売りは限定されよう。
足元のBTC相場は緩んでいるが、30,000ドル乗せの時点でテクニカル的な過熱感もやや確認されたため、さらに上値を伸ばすには調整も必要だろう。今年の相場は押し目をつけてから反転上昇してきており、5月は30,000ドル台定着が視野に入る。
長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。