なぜEUでは規制の整備が進み、アメリカでは混乱が広がっているのか

欧州議会はついにやり遂げた。暗号資産規制のための画期的な「暗号資産市場規制法案(Markets in Crypto-Assets:MiCA)」が4月20日、長年の議論と少なくとも2度の延期を経て可決された。欧州議会はさらに、暗号資産事業者に、より強力な監視、身元確認要件を課す「資金移動規制(Transfer of Funds)」も可決した。

「世界初」の画期的法案

欧州委員会のイリード・マクギネス(Mairead McGuiness)委員はこれらの規制を「世界初」と形容。緑の党のアーネスト・ウルタスン(Ernest Urtasun)氏は「暗号資産の開拓時代の終わり」と呼んだ。

この法案は、国家レベルで施行される。欧州理事会での公式な承認を待つ必要はあるが、来年の施行に向けて、ほぼ準備は整った。理事会は昨年、すでに法案の文言を確認しているため、承認は形式的なものだ。

多くの人はMiCAを暗号資産業界が前進するための重要なステップになると考えている。暗号資産関連企業に対して包括的なルールを提供する初の大規模な取り組みであり、27カ国が加盟するEUで事業を行う場合に、何が許され、何が許されないのか、どのような責任を負うかが明確になる。

EUとしてはMiCAによって、国際的な基準を確立することを望んでいる。それは裏返すと、世界の他の地域で同様のルールが採用されない場合、MiCAの有効性が懸念されることでもある。

MiCAはウォレットを手がける企業や取引所などの暗号資産企業に対して、EUに居住する顧客を相手にビジネスを行う場合には、EUからのライセンスを取得すること、さらにマネーロンダリングやテロ資金供与を防止するためのルールに従うことを義務付ける。顧客の安全や国家安全保障の名のもとに、暗号資産ユーザーのプライバシーが犠牲になることが明確な報告義務に関しては、一部から批判もある。

しかしここ10年、規制の不明確さによって業界の成長が妨げられてきたことを考えれば、MiCAによってある程度の透明性と安定性がもたらされることは歓迎すべきだろう。

暗号資産取引所バイナンス(Binance)のチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)CEOはMiCAを「実用的なソリューション」と呼んで支持を表明。バイナンスもMiCAを遵守するとした。

中国とアメリカの動き

MiCAに見るEUの暗号資産に対するスタンスは、他の2つの巨大暗号資産市場、アメリカと中国とは対照的だ。

中国は少なくとも名目上は、あらゆる暗号資産アクティビティを正式に禁止しているが、最近では(少なくとも香港では)その姿勢が軟化する気配も見えている。中国は暗号資産取引やマイニングを完璧に撲滅できておらず、一部のビジネスの合法化は中国への帰還を目論む人たちにとっては朗報となる。

アメリカでは、議員、規制当局、官僚、さらには米連邦準備制度理事会(FRB)やバイデン政権が協力して、暗号資産をアメリカ経済から締め出そうしているようだ。これはどうやら、2022年に暗号資産業界の最悪の部分が露呈する以前、その年の初めに大統領令において表明された、暗号資産に取り組むための「政府一丸となったアプローチ」と呼ばれるものの一環らしい。

暗号資産を合法化し、規制しようと取り組む動きもまだ残っているが、米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長などは新しいルールの策定に反対している。

ゲンスラー委員長によれば、分散型テクノロジーの新しく、ユニークな特質を網羅するには、すでに存在する金融ルールで十分らしい。暗号資産が本領を発揮できるよう時間の猶予を与えたいと考える勢力と、業界を狙い撃ちして潰してしまおうとする勢力の間の政治闘争によって、暗号資産業界全体が疲弊してしまった。

規制の不明確さからアメリカ脱出も?

例えば、イーサリアム(ETH)は今、“シュレーディンガーの猫”状態だ。ゲンスラーSEC委員長がETHは、証券かどうかの判断に使われる「ハウィー(Howey)テスト」の要件を満たすかもしれないし、満たさないかもしれないと言ったために、合法でもあり、違法でもある状態だ。

そうした規制上の不明確さから、アメリカ最大の暗号資産取引所コインベース(Coinbase)のブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)CEOはアメリカからの移転の可能性を口にした。

コインベースのビジネスが、アメリカの顧客からの手数料を中心に回っていることを考えれば、口先だけの脅しなのかもしれないが、同じような発言をしている人は他にもいる。

関連記事:コインベース、規制の明確さがないままならアメリカからの移転もあり得る:アームストロングCEO

確かにゲンスラー委員長は、ますます力を強める金融インフラに対して常識的な規制を呼びかけているに過ぎない。取引所はSECに登録し、顧客の身元確認システムを強化するようにという委員長の要求は、EUの新しい規制とさほど変わらない。

もちろんEUとアメリカの間には、一方は暗号資産に対して「政府一丸となった」アプローチを実際に行ったことに対し、他方はそうすると言っているばかりという違いがある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Juliana Kozoski/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Why the EU Has MiCA and the U.S. Has Securities Law Confusion