ビットコイン(BTC)マイニングが環境に与える影響が、再び話題になっている。マイナー(マイニング事業者)の電力網への参加を制限するテキサス州の法案と、マイニング業界を批判するニューヨーク・タイムズの記事が原因だ。
ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センター(Cambridge Centre of Alternative Finance:CCAF」)のデータによれば、ビットコインマイニングが1年間に消費する電力は約145テラワット時(TW/h)で、国際エネルギー機関(IEA)によれば、これはスウェーデンの消費電力に匹敵する。
批判的な人にしてみると、ビットコインのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)アルゴリズムは、電力需要が継続的に増大するような電力浪費型の仕組み。ビットコイン支持者にしてみれば、バグではなく仕様であり、分散化を確保しつつ、ネットワークの安全性を保つ方法だ。
ビットコインのエネルギー問題をチャンスと捉える第3の陣営もいる。既存インフラの上にイノベーティブなソリューションを加えることで、マイナーがよりサステナブルになることをサポートし、環境負荷を軽減しようとする新しいプロダクトや企業が多数存在する。
こうしたプロジェクトの中には、ビットコインをより「グリーン」にする取り組みにインセンティブを与えるために、市場の仕組みを作り出したり活用しているものもあれば、データセンターが生み出す熱を再利用することで効率や相乗効果を高めることを中心とした技術的なものもある。代表的なものを見ていこう。
再生可能エネルギークレジット
機関投資家向け流動性プロバイダーのブロックフィルズ(BlockFills)がイスラ・ベルデ・キャピタル(Isla Verde Capital)の支援を受けて手がけるプロダクトは、マイナーだけでなく投資家がエネルギー利用の「グリーン」なソリューションを見つけることをサポートすることが狙い。ビットコインマイナーおよび暗号資産業界に、再生可能エネルギークレジット(Renewable Energy Credits:REC)を提供する。
森林再生などのプロジェクトを通じて削減された温室効果ガスを表し、取引可能なカーボンクレジットはよく知られている。だが同時に批判も多い。再生可能エネルギークレジット(REC)は、風力、水力、太陽光などを使った再生可能エネルギーの1メガワット時(MWh)ごとの電力の所有権を表す。
ブロックフィルズは、マイナーのニーズに合わせてRECとカーボンクレジットの購入をカスタムメイドで行い、マイナーのカーボンオフセットをサポートする。
RECはビットコイン投資家もターゲットにしている。さまざまな大手資産運用会社が今、「ビットコインに注目しているが、サステナビリティ上の責任がある」とブロックフィルズのジョン・ディバイン(John Divine)氏は指摘。RECによって、サステナビリティにまつわる懸念を解消して投資できるようになる。
結果的にREC価格が上昇する可能性もあるが、そうなれば「再生可能エネルギーテクノロジーへの投資に直接的なインセンティブを与える」ことになるとディバイン氏は語る。
サステナビリティにインセンティブ
スイスにあるブロック・グリーン(Block Green)は、分散型レンディングプロトコルを通じて持続可能なマイニングにインセンティブを与えようとするプロジェクト。同プラットフォーム上では、ビットコインネイティブの投資を探している流動性プロバイダーが、将来の特定の時期のレートを購入できる。
同プラットフォームには、会計報告書、事業データ、エネルギー調達や戦略についての「マイナー確認」情報が含まれている。ブロック・グリーンでは、プラットフォーム上の市場メカニズムによって、流動性プロバイダーはサステナブルな事業を行うマイナーを選び、資本コストを下げることで、サステナブルなマイニングにインセンティブを与えることができると考えている。
「私たちは現在、アメリカとカナダの最大規模のマイナーたちと協力」し、ビットコインに対する「透明性が高く、スケーラブルなリターンをユーザーに与えようとするカストディアン、取引所、資産運用会社などの企業との提携を始めた」とブロック・グリーンの広報担当者は語った。
クリーンなビットコインのトークン化
クリーン・インセンティブ(Clean Incentive)とサステナブル・ビットコイン・プロトコル(Sustainable Bitcoin Protocol:SBP)も、金銭的なインセンティブを使ったソリューションを手がけている。
両社は、マイナーが取引できるブロックチェーンベースの新しい資産を生み出し、再生可能エネルギーの利用から利益を得られるようにすることで、「クリーン」なビットコインへの投資を推奨しようとしている。環境に配慮していることが検証できるビットコインを保有したいと考える投資家に適した資産だ。
SBPの場合、マイナーは第三者の監査機関にクリーンなエネルギーの利用を検証してもらい、レジストリに追加してもらう。その後、獲得するブロック報酬ごとに、機関投資家に売却することができるブロックチェーンベースの資産「Sustainable Bitcoin Mining Certificate(サステナブル・ビットコイマイニング証書)」を受け取る。SBPは2月、初の取引を完了させた。
クリーン・インセンティブも同様に、マイナーのネットワークから「ESG(環境・社会・ガバナンス)の特性を収集・検証・トークン化」しようとしていると、創業者兼CEOで再生可能エネルギー業界での経験を持つデータサイエンティストのケイシー・マルティネス(Casey Martinez)氏は語った。
同スタートアップはまだステルスモード(未公表の段階)にあるが、すでに複数のマイナーをオンボーディングしており、マルティネス氏によれば2022年11月に、カナダの小規模マイナー、オーシャン・フォールズ・ブロックチェーン(Ocean Falls Blockchain)と提携している。
効率的な冷却
各社が提供する技術的なソリューションには、ハードウェア関連、ソフトウェア関連の両方がある。
浸漬冷却(Immersion cooling)を手がけるリキッドスタック(LiquidStack)は、ビットコインマイニングに使われるコンピューターが利用するエネルギーを40%削減し、利用するスペースを3分の1に縮小できるハードウェアベースの冷却ソリューションを提供している。
データセンターでのコンピューティングに使われるエネルギー1メガワット(MW)につき、リキッドスタックのソリューションが冷却に使うエネルギーは0.02MW。同社によれば、他社の場合は0.1MW〜0.7MWが消費されるという。
業界でも古株のリキッドスタックは3月、2022年の収益が160億ドル(約2兆円)の加熱・冷却業界で150年の歴史を誇るトレーン・テクノロジーズ(Trane Technologies)から資金提供を受けた。
「リキッドスタックが魅力的なのは、ビットコインマイニングを含めてデータセンターのサステナビリティを改善する可能性と、そのイノベーションだ」と、トレーン・テクノロジーズのアンバー・ムリガン(Amber Mulligan)氏は語った。
リキッドスタックのテクノロジーによって、熱の再利用は一段と簡単に、効率的になり、マイナーにとってのさまざまな相乗効果への扉が開くとムリガン氏。その理由は、伝統的な空冷ではなく、液体によって熱を管理するため、熱を捉え、別の用途に活用することがより簡単になるからだ。
熱の再利用
ソフトウェア面では、カナダのバンクーバーにあるマイニングサービス企業リンコイン(Lincoin)が、デマンド・レスポンス・プログラムや、熱の再利用など、マイナーが自らの事業をより効率的、かつ収益性高く運営するために使えるプログラムを手がけている。
デマンド・レスポンスとは、マイナーや他のエネルギー消費者が、需要のピーク時に事業を停止し、電力網が需要ニーズに対応できるようにするものだ。マイナーは多くの場合、そうした協力に対して対価を受け取る。
熱の再利用は、マイニング事業から生まれる熱を温室での農業といった別の用途に活用することを指す。
レールズ(Rails)と呼ばれる同社のソフトウェアは、アメリカとカナダの9つの規制緩和電力市場の2万を超える電力網ノードからリアルタイムにデータを取り込んでいる。
「大規模マイナーは、収益性のリアルタイム監視、事業の管理と最適化、タスクの効率化、補助的電力網サービスへの参加のためにリンコインを使っている。小規模マイナーは、温室の熱管理や太陽光発電の余った電力の売却、あるいはシンプルにマイニングをインテリジェントに行い、イノベーションを生み出すためにリンコインを活用している」と、CEOのメディ・ナセリ(Medi Naseri)氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Here Are Six New Projects Looking to Mitigate Bitcoin Mining’s Energy Footprint