最後の「暗号資産の冬」を楽しもう【オピニオン】

スキー板は履いているだろうか? まだならしっかり履いて、楽しんで欲しい。最後の「暗号資産の冬」になるのだから。これまでに「暗号資産の冬」は2、3回あったが、今回が最悪で、最もフラストレーションが溜まるものだった。

だがありがたいことに、これが最後の冬になりそうだ。理由は、暗号資産とブロックチェーンは、規制された普通のビジネスになりつつあるから。兆候とノイズを区別することは常に非常に難しいが、未来に向けて、3つの大きなポジティブなサインが見えている。

1.法執行機関による執行措置の急増

暗号資産とブロックチェーンは常に2種類の人たちの間の気まずい関係に悩まされてきた。希望に目を輝かせた善良な人間(私もその1人だ)と、思いついたものを売り込むために業界のメッセージを乗っ取る、容赦ないご都合主義者だ。

長年にわたって最もフラストレーションが溜まることは、一部の暗号資産、ブロックチェーン投資についての危険で投機的、まったくバカげた性質について私たちが発してきた警告が見過ごされることだ。

EY(アーンスト・アンド・ヤング)は、2018年と2019年に新規コイン公開(ICO)の無惨な結果について警告したが、そうした懸念を表明していたのは私たちだけではなかった。執行措置は、警告やソーシャルメディアでの論争よりもはるかに効果的だ。

2.政策の矛盾と非一貫性

アメリカをはじめとする多くの国が、複雑で分散化した規制システムを抱えている。ブロックチェーンに関わるすべての人が、どのような政策を望むかについて合意できないなら、規制当局がすぐに完全に合意できないことい驚くべきではない。

有用なのは、法律がどのように適用されるのかについて、法システムが一貫性のある意味を持たせようとすること。そうした場合、規制当局は法律の意味について、明確で一貫した意見を表明しなければならない。明確さが形成されるには時間が必要だが、もうすぐだ。

3.業界のリーダーシップとプロダクトの成熟

テック業界のバブルとバブル崩壊のサイクルは、期待や興奮がプロダクトを実際に生み出し、利益をあげる企業の能力をはるかに上回ってしまった場合に生まれる傾向がある。1980年代はじめ、ゲーム機とパソコンが登場したが、まだ企業への普及を進めるのに適切な使いみちを見出す前、テック業界ではそうした事態が起きていた。

2度目のはるかに大きなバブルがやってきたのは1990年代後半。ネットワークテクノロジーとインターネットが大きな興奮を生んだが、利益はあまり生み出していなかった頃だ。2018年〜2022年のブロックチェーンや暗号資産の多くのビジネスモデルと同様に、ドットコムバブルでも企業は有意義な収入源や、ときには十分な事業計画さえ持たずに上場し、何億ドルもの資金を調達していた。

ドットコムバブルとバブル崩壊との現状との類似点は、覚えておく価値がある。どちらの業界でも、将来の能力について不可能と思えるような約束に基づいて投資と評価額が大きく成長した。

1999年、約3500億ドル(約48兆円)相当のオンライン取引が行われたが、その大半はブラウザ経由の消費者向けeコマースではなく、EDI(電子データ交換)などの既存B2Bシステムを使ったものだった。

大手投資銀行や学会、調査会社がドットコムバブルのピーク時に立てた大胆な予測は、2005年までにオンラインコマースの規模は年間4兆ドル〜6兆ドルに達するというものだった。

だが予測はバカげたものだった。2005年、消費者によるウェブブラウザ経由のeコマースは、1050億ドルだった。市場の評価が急落し、潤沢な資金提供を受けた企業の多くが破綻したのも驚きではない。

2000年だけで、テック市場の時価総額は約1兆7500億ドルを失った。これは現在(2023年)では約3兆ドルに相当し、ブロックチェーンエコシステム全体の時価総額を上回る。

そして、話はここから面白くなる。現在、eコマースとオンラインビジネスは1999年に予測されたとおりになっている。2022年、eコマースでの消費額合計は5兆ドルに迫った。アメリカだけでも1兆ドルを超えた。また世界のトップ10テック企業の時価総額合計は約7兆ドル。アメリカの株式市場において、テック株は金融セクターとエネルギーセクターの合計を上回っている。2000年以降、浮き沈みはあったが、テックバブルは一度も起きていない。理由はシンプルだ。テック業界が、評価額が夢のような将来予測ではなく、収益と利益の成長を基準にした普通の業界になったからだ。

普通の業界

ブロックチェーンと暗号資産関連のプロダクトや企業にも成熟のサインが現れ始めている。全体としてはまだ初期段階だが、NFTはコレクティブルのみならず、デジタルトロフィー、チケット、参加証明としてユーザーおよび企業エコシステムの中に永続的な用途を見つけたようだ。NFTは発行が非常にシンプルで簡単になり、今では誰でも提供可能だ。

EYでは、サプライチェーンマネジメント、プロダクトトレーサビリティ、炭素排出トラッキングのようなビジネスが成長している。企業が、金融エンジニアリングとは無関係なユースケースに向けてブロックチェーンを活用しているためだ。プライバシーテクノロジー(匿名性と混同してはならない)は、機密情報を共有せずに、共有のパブリックテクノロジーインフラを活用したいと考える企業間で実用的なユースケースを切り開く鍵となった。

「暗号資産の冬」の残骸のなかで道を切り開いているなか、ブロックチェーン業界にも同じ明るい未来が到来している。悪人たちは牢屋に入れられる。ルールは一段と明確になりつつある。そして何よりも重要なことは、このエコシステムに携わる企業は真のプロダクトを構築し、収益と利益に基づいた評価を受けつつある。

その結果、ブロックチェーンと暗号資産は普通の業界になり得る。普通の業界として、今後も浮き沈みはあるが、バブルとバブル崩壊のようなことはもう起こらないだろう。だからこの「暗号資産の冬」を楽しんで欲しい。これで最後だ。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Please Enjoy the Final Crypto Winter