Consensus 2日目、3つの超ビッグアイデア【Consensus 2023】

暗号資産の大きなセールスポイントの1つは、業界が新しいアイデアにあふれていることだ。1990年代、インターネットを中心に緩やかに形成されたコミュニティと同様に、暗号資産はなぜか、異端な考え方をする人や革命を起こしたい人を惹きつける傾向がある。

その理由の1つは、コードを基盤とした仕組みを構築するという、まったく新しい方法を提供するテクノロジーそのものの性質にある。もう1つの理由は、Web3の悪名高い参入障壁。つまり、この業界にたどり着いた人たちは、コミットメントが高く、率直に言って、価値ある資産をセルフカストディしていても破産しないような賢い人たちだ。

一方で、4年近く業界を取材してきて感じることは、同じようなアイデアをまた耳にしている気がすること。暗号資産市場はおそらく、他のどの業界よりも関係者が「ナラティブ」と呼ぶものにしがみついている。これは、ブロックチェーンテクノロジーが何の役に立つ(可能性がある)のかについて、自分たちや他の人たちに聞かせるストーリーのことだ。

しかしときどき、本当に現状を揺り動かすような(あるいは、少なくとも楽しくなるような)人やアイデアが登場する。今日「Consensus 2023」の会場を歩き回って耳にした、超ビッグアイデアを紹介しよう。

銀行の未来は過去にあり

インフォーマル・システム(Informal Systems)の創業者イーサン・バックマン(Ethan Buchman)氏は、革命を起こしたいと考えている。

中央銀行は、支えるはずの経済の取り扱いを間違え、「オイルダラー」は計り知れない苦しみを生み、通貨システムのあらゆるレイヤーに腐敗が蔓延している。ブロックチェーンはそこに解決策を提供する。しかしその方法を説明する前に、ブックマン氏は過去に思いを巡らせて欲しいと呼びかける。

複式簿記が発明されて少し経った頃、16世紀のジェノバの銀行家になったと想像してみて欲しい。ブックマン氏によれば当時の銀行業界は、近代化、グローバル化していく経済に(おそらく世界で初めて)クレジット(信用取引)を提供するために登場した、複数の家族経営の組織で構成されていた。中央銀行も預金金融機関もなく、銀行券もまだほとんど存在しなかった。

その代わりに銀行家たちは当時、ベルギー北部のアントワープにいる人がサウジアラビアのメディナにいる人と取引できるようにする「トレード・クレジット」と呼ばれるものを提供していた。信用レベルが高い環境だったため、ときには銀行が集まり、帳簿のバランスを取っていた。

文字で説明するのは難しいが、AさんはBさんにお金を借りているとしよう。そしてBさんはCさんに、DさんはAさんにお金を借りている。その際、追加で現金をやり取りすることなく、全員の借金を一度に清算できるよう、債務をマッピングする方法が存在した。

ブックマン氏は、このアイデアを現代に復活させたいと考えている。コラボレーションとコミュニケーションを必要とするこの仕組みが機能するのは、負債を決済する(=実際に資産を動かす)ことなく、清算する(=帳簿上帳消しにする)ことができるからだ。

共同体として機能するインフォーマル・システムは、コミュニティがパーミッションレスかつ自動的にこうした清算を実現できるように、コスモス(Cosmos)を基盤にしたスマートコントラクトとアルゴリズムを開発している。

「負債を記帳した帳簿を持って見本市(当時の銀行カンファレンス)に参加し、知り合いたちとやり取りして、負債を清算してしまっていた」とブックマン氏は説明した。現代の銀行も実際、クリアリングハウスを利用して、ほぼ毎日同じようなことを行っている。

「なぜ銀行だけがその楽しさを独占しているのだ?」とブックマン氏は述べた。

インフォーマルが「コレボレーティブ・ファイナンス(collaborative finance)、あるいは「CoFi」と呼ぶこの仕組みは、まったく機能しないかもしれない。同社はまだ、完全なホワイトペーパーを発表していない。

しかし、我々の世代が奨学金ローンに苦しみ、国際貿易の不均衡が何世紀もの搾取の結果としての「経済における権力と生産の構造」を反映している時代においては、新しい代替オプションについて考えてみる価値はあるだろう。

このアイデアについてさらに詳しく知りたい人はこちら(英語)、ブックマン氏にインスピレーションを与えた論文はこちら(英語)。

ゼロ知識証明とAI

ChatGPTがベンチャーキャピタルからの資金提供と、シリコンバレーを拠点としたスタートアップ創業の波を生み出したことの解説や、人工知能(AI)を使った実験の失敗の歴史は省きつつ、暗号資産業界の多くの人が今、AIについて真剣に考えていることだけは伝えておこう。

専門用語ばかりの業界を多くの人に理解してもらうためのチャットボット開発など、用途の一部は退屈なものだ。プログラマーに代わってプログラミングを行い、Web3スタートアップをスリムなチームにするなど非人道的な用途もある。

そしておそらく何よりも最悪なアイデアは、事実とは異なる内容や文脈と無関係な内容を生成してしまう「ハルシネーション(幻覚)」に陥ってしまいがちなシステムに、スマートコントラクトの監査を任せるというものだ。

それでも、金融モデリングプラットフォームのガントレット(Gauntlet)の創業者で、暗号資産業界きっての頭脳派として知られるタルン・チトラ(Tarun Chitra)氏は、ブロックチェーンはAIにとって有用なものになり得ると考えている。簡単に言うと、多くの情報がAIによって生み出されていくことに伴って、データの源を知ることはますます重要になってくる。

1980年代に提案され、暗号資産業界からの資金提供で急速に研究が進んでいる暗号技術の一分野「ゼロ知識(ZK)証明」を使えば、持っている情報をすべて明かさずに、ある命題が真であるかどうかをチェックすることができる。よく使われる説明は、バーに来た若者は、IDを提示しても自宅の住所を知られてしまうことなく、20歳以上であることを証明できるというものだ。

ゼロ知識証明を使って、ある新しいデータが人間によって、あるいはAIによって、あるいは特定のデータセットにアクセスできるAIによって生成されたかどうかを証明できるようになる。

「特定のアウトプットは…(中略)将来のIP(知的財産)になるため、これは非常に重要だ」とチトラ氏は説明する。

チトラ氏によれば、ゼロ知識証明ベースのシステムは運営のために必ずしも暗号資産を必要としないが、ブロックチェーンはデータ来歴の変更不可能な記録を提供することで、重要な役割を果たし得るという。検証可能性は、トラストレスとなる時代において強力なパワーを持つ。

スタートアップのマーケットプレイス

NEAR財団は26日、ウーバー(Uber)とスタートアップアクセレレーターを掛け合わせたような新プロジェクト「ホライズン(Horizon)」を発表。スタートアップのアイデアを持った人なら誰でも、資金をクラウドファンディングし、専門家からのアドバイスを募ることができるようになる。

このシステムは、ウーバーからインスピレーションを受けた双方向のマーケットプレイスを活用する。ホライゾンの共同創業者ローラ・カニングハム(Laura Cunningham)氏によれば、アドバイザーから受けたサポートのレベルをスタートアップが評価し、アドバイザーも創業者チームを評価できる「評価グラフ」と呼ばれる仕組みが組み込まれる。

もちろん、ビジネスアイデアの中には明らかにダメなものもあり、すべてのスタートアップが成功するわけではない。しかしスマートコントラクトを使ってプロセスに少しの可視性を加えれば、皆にとって学びの機会となるかもしれない。

暗号資産業界が示してきたとおり、アイデアはときに、まだ実現されていないものでも価値がある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:CoinDesk
|原文:3 Giga-Brained Ideas From Consensus Day 2