米政府が銀行救済を秘密裏に進めていた日、ビットコイン取引数は過去最高を記録していた【コラム】

4月30日、米政府が水面下で2つの銀行と救済案を練っていた頃、ビットコインネットワークは1日あたりの取引数が過去最高を記録した。2017年の強気相場の中で達成したこれまでの記録を超え、14年の歴史の中で確定された取引数が最多となった。翌5月1日には、ファースト・リパブリック銀行が公的管理下に置かれ、その後、JPモルガン・チェースが預金と資産を買収。アメリカ史上、2番目の規模の銀行破綻となった。

偶然の一致

ビットコインの利用増加と、アメリカ金融業界の最新の惨事という2つの出来事は、正確には関連性はない。だが、このタイミングの一致は、暗号資産業界の未来とますます機能不全に陥る経済におけるビットコイン(BTC)の可能性について何かを示唆している。規制当局や政治家が広範な経済への暗号資産の浸透を妨げようと取り組むなか、民間銀行セクターは自力でやっていけないという事実を露呈している。

数週間にわたる不透明感と株価低迷後、ファースト・リパブリック銀行は連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行。取り付け騒ぎとその影響の拡大、FDICの準備資産の枯渇というリスクの可能性を防ぐための措置だった。

FDICは即座に「(ファースト・リパブリック銀行の)預金のすべてと実質的にその資産のすべて」を米銀最大手のJPモルガン・チェースに売却。JPモルガンは取引を完了させるために、500億ドル(約6兆8500億円、1ドル137円換算)の融資も受けた。1日に市場が開く前に急いでまとめられたと報じられる今回の取引に、民主党議員たちはおそらく異議を唱えるだろう。

「政府が私たちや他の銀行に協力を呼びかけた。だから、そうした」とJPモルガンのジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは語った。同氏は最も有名なブロックチェーン支持者として知られ、また長年ビットコインを批判してきた人物として知られている。

大きな動きの一部

ファースト・リパブリック銀行の破綻は、ビットコイン誕生のきっかけにもなった2008年の世界金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual)に次ぐ史上2番目の規模。ファースト・リパブリック銀行の経営陣にもある程度の責任はあるが、同行の破綻は少なくとも部分的には、シルバーゲート銀行やシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行を破綻に追い込んだ利上げと米連邦制度理事会(FRB)によるタカ派的金融政策が原因だという点でエコノミストの意見はおおむね一致している。

この状況とビットコインが特に関連しているのは、暗号資産業界がポピュリズムに向かう広範な政治再編の一部である点だ。中央銀行の権威や既得権益に挑むムーブメントは暗号資産だけではない。多くの人はファースト・リパブリック銀行の救済を、利益は一部の民間企業に移され、損失が社会に転嫁される新たな事例と見るだろう。

FDICの準備資産が大幅に減少することを避けるために、政治家たちはすべてのアメリカの銀行は大き過ぎて潰せないと言ってしまったも同然だ。これは、一部の階級の人たちを、自らの決断から生じた結果から守るというある種の道徳的なジレンマだ。

ビットコインはオルタナティブな通貨システムとして台頭し、多くの人はビットコインは最終的には現在の米ドルのような世界の基軸通貨になり得ると考えている。(米ドルをコントロールする政治的利益や金銭的利害とは異なり)ビットコインは社会的コンセンサスで決定した固定された発行スケジュールをはじめ、事前に決定されたルールに従っているため、一部の人には魅力的に映る。

オープンソースという自由さ

ビットコイン価格は前回の一連の銀行破綻の間に着実に上昇した。今回も上昇するかもしれない。だからと言って、ビットコインは金融界の混乱に対する「ヘッジ」だというわけでも、人々がますます信頼を失っている銀行よりも「トラストレス」な金融システムを選んでいるというわけでもない。

ビットコインブロックチェーンが今回マイルストーンを達成したタイミングは、純粋に偶然。ビットコインの取引数は、ビットコインがNFTに対応できるようになったBitcoin Ordinalsのスタート以降、増加していた。

デジタル資産メディアBlockworksが引用したグラスノード(Glassnode)のデータによれば、これまでに239万のOrdinals(=ビットコインNFT)が作成された。しかし、ビットコインNFTは現在、ビットコインネットワーク上の取引の約半分を占めているが、すべてのビットコイナーがNFTへの対応は価値ある機能だと思っているわけではない。

通貨としての用途だけを守り、NFTなど取るに足りない考えているビットコイン純粋主義者は多い。だが申し訳ないが、ビットコインはオープンソースネットワーク。つまり、人々は好きなようにこのテクノロジーを使う自由がある。ビットコインが将来のグローバル経済で役割を果たせるとすれば、それは人々が好きなように使うことができる自由があればこそだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Set New Record of Daily Transactions the Same Day the U.S. Government Quietly Engineered a Bank Buyout