ビットコイン、取引手数料が「高過ぎる」ことはあり得ない【コラム】

2015年から2017年にかけて、ビットコインのブロックサイズ戦争を戦ったベテランたちは今週、不思議なシーンを目にした。ビットコイナーたちが取引手数料の高さに文句を言っていたのだ。なにが不思議なのかわからない人のために、簡単に歴史を振り返っておこう。

ブロックサイズと取引手数料

ブロックサイズ戦争で勝利した「スモールブロッカー(小ブロックサイズ陣営)」は、分散化の維持に必要な代償として、混雑時の取引手数料の存在を支持してきた。一方、ビットコインキャッシュ(BCH)とビットコインSV(BSV)に分裂して行った「ビッグブロッカー(大ブロックサイズ陣営)」は、取引手数料を低く抑えることを目指していた。しかしこのトレンドは最近、一部のビットコイナーの間で逆転している。

ビッグブロック(および低手数料)支持者のロジャー・バー(Roger Ver)氏は5年前、ビットコインのコア開発者たちがブロックサイズの上限引き上げ(および手数料低減)を拒んでいるために「壊滅的な被害が出ている」と嘆いていた。

ビッグブロッカーの主張の中心は、より多くの取引を処理するためにはより多くのブロックスペースが必要という考え方。理論的には取引手数料は下がり、ブロックチェーンを世界中のあらゆる少額決済に利用できるところまでスケーリングすることが一段と簡単になる。

一方、スモールブロッカーは、制限の重要性を説き、ビットコインブロックチェーンをできる限りコンパクトに保つことで、最大限の分散化と検閲耐性を保とうとした。

大規模なブロックチェーンは、大規模な組織しかノードを運営することができず、国家や企業などにたやすく吸収されてしまうと考えられていた。ビットコイナーは、スケーリング戦争において取引手数料を短期的に軽減するために、ブロックスペースを拡大するのではなく階層的なアプローチを採用した。

実際、決済を先送り(階層化)していくことは、あらゆる決済システムにとってスケーリングのための方法だ。タバコ代の支払いに銀行振り込みを使ったりしない。ビザのようなネットワーク──バッチ方式で、決済を先送りし、最終的にACH(自動送金決済センター)を通じて提携銀行で決済するようなネットワークを使う。銀行振り込みは、決済の完了性(ファイナリティー)が重要になる高額取引(例えば、住宅の頭金など)に使われる。

私はスモールブロッカーの考え方に共感しており、ビットコインキャッシュよりもビットコインを支持してきた。そして、イオス(EOS)やソラナ(Solana)などのアプローチには懐疑的だ。より小さなブロックを受け入れるということは、ブロックチェーンが混雑した時には取引手数料の大幅な高騰を許容することを意味する。

ビッグブロッカーはこれまで、ブロックチェーンの混雑を自らの主張の優位性を裏付ける証拠としてきた。そのため、(スモーブブロッカーである)ビットコイナーは悔しさを押し殺しながら、利便性は分散化と引き換えに手に入れるほどの価値はないという、より哲学的な主張に頼らざるを得なかった。

2017年、スモーブブロッカーで、おそらく最も影響力のある開発者のグレゴリー・マクスウェル(Gregory Maxwell)氏は、ビットコインの取引手数料が初めてブロック報酬を上回った時に「祝杯を上げた」と言われている。

新しい時代

今、2017年に起きたことが再び起きている。だが今回は多くの筋金入りのビットコイナーが態度を変え、スケーリング戦争の時に反対していた「取引手数料は低くあるべき」との意見を受け入れている。

今回の取引手数料高騰の原因は皮肉にも、ビットコインブロックチェーンのアップグレード「タップルート(Taproot)」自体にある。(おそらく意図せず)、ユーザーがブロックチェーン上に任意のコンテンツを記録することを可能にした。

ビットコインNFT(Ordinals)が注目を集めているが、今回の取引手数料高騰の直接的な要因は「BRC-20」規格の登場だ。BRC-20は「焼却済み手数料の証明」というメカニズムで発行され、新しいトークンを発行するためにユーザーは取引手数料を犠牲にしなければならない。

そのため取引手数料は短期間で驚くような高水準となり、従来の用途に使う人たちが手を出せない状況となっている。一部のビットコイナーは(新しい)こうしたブロックチェーンの利用を意図的な「サービス拒否(DoS)攻撃」などと呼んでいる。

ありがたいことに取引手数料の高騰は一般的には長く続かない。歴史が参考になるとすれば、現在のBRC-20トークンブームは比較的すぐ落ち着くだろう。永続的なものというよりも、一過性の出来事のように思える。

しかし、数日で落ち着いたとしても、ビットコインNFTがブロックスペースに対する莫大な潜在需要を掘り起こし、構造的により高い取引手数料になる新しい時代に突入したことは間違いないだろう。

私は明確に良いことだと考えている。ビットコインのブロックスペースは、2021年夏から2023年はじめまで、不毛な土地となっていた。

マイナーは何らかの形で報酬を受け取る必要があり、(来年、半減期を迎えて)ブロック報酬がさらに減少すると、失った収入を取引手数料で補う必要がある。

取引手数料がマイナーにとって十分な収入源となっていないことは、プロトコルの長期的リスクを認識している私を含めた多くのビットコイナーの一番の懸念事項だった。

だから私は、ビットコインNFTがブロックスペースに対する新しい需要のトリガーとなったことを歓迎している。これまで放置されてきたブロックスペースをクリエイティブに活用するこうしたアイデアは、ブロック報酬を持続可能なものにする可能性があると考えている。

取引手数料は市場が決める

取引手数料の高騰によってビットコインを少額決済に使っていた人たち、特にエルサルバドルやアフリカなどのグローバルサウスの人々が排除されてしまうという主張に私も共感する。だがビットコインはすべての人に対して、永遠に低い取引手数料を提供しなければならないと考えることは間違いだ。

ビットコイナーは熟考を重ねたうえで、バリデーション(検証)を安価にするために、ブロックスペースに上限を設けるという決断を下した(実際、特にグローバルサウスの人々が、可能な限り、バリデーションを実行できるようにした)。メカニズム的には、混雑が生じると取引手数料は上がることになる。だがビットコインの設計上、避けられない結果だ。

自由主義経済を主張する人たちにとって、ブロックスペースの価格を「高過ぎる」と評価することは矛盾にあたる。取引手数料は市場が決めるもので、高過ぎると考えることは、介入主義や中央集権的な計画を支持することになる。ビットコインはどのようなタイプの取引に使われるべきかについて、ある判断基準に基づいた考え方を押し付けるものであり、パーミッションレスシステムとは相容れない。

コモディティの市場価格が「間違っている」ことはあり得ない。価格は単に、すべての市場参加者のスタンスを反映しているだけだ。「高過ぎる」というロジックは、原油価格は1バレル20ドルにすべきで、そうすれば最貧困層でもガソリンを手に入れることができると主張することと同じだ。

そうしたスタンスは、大衆を惹きつける魅力があるかもしれないが、コストは誰かが負担しなければならない。ビットコインの場合、低い手数料の代償は無制限なブロックスペース(分散化の観点からは不利)と、永続的なブロック報酬となるだろう。取引手数料が「高過ぎる」と言っているビットコイナーは事実上、低い手数料はノードオペレーターと、長期的にはビットコインプロトコルの永続的なインフレによって支えるべきと主張していることになる。

取引手数料が高過ぎて、新規参入者を参加させることができないと落胆している人たちは、単にネットワークの性質を誤解しているだけだ。ビットコインを使った決済は有限のコモディティであり、永遠に安価であることは望めない。求められる決済の確実さは、取引の性質に見合ったものであるべきだ。コーヒーを買うことに銀行振り込みレベルの確実性は不要で、友人に5ドルを送金するためにビットコイン取引は必要ない。

ビットコイナーが文句を言うとしたら、ビットコインのレイヤー2開発の遅さに文句を言うべきだろう。データを見ると、2017年と2021年にも取引手数料は一時、50ドルを超えていた。

これには誰も驚かないはずだ。取引手数料は常にブロックスペースに対する需要を反映しており、希望する用途に取引手数料が合わないとしたら、ビットコインはその人の用途に適したネットワークではないだけだ。

マキシマリストたちの怒り

より不可解なのは、スモールブロッカーで、リーダー的立場を自認するジャコモ・ズッコ(Giacomo Zucco)氏やフランシス・プリオット(Francis Pouliot)氏といった人たちが、取引手数料高騰について文句を言っていることだ。

彼らにとっては、ビットコインの用途には2つのタイプがあるということなのだろう。OrdinalsとInscriptionsは自分たちとは異なる「外部の集団」によって支持され、NFTの発行や取引、新しいトークンの投機に使われているということだ。

ビットコイン以外のものも保有することを絶対に認めない筋金入りの原理主義者にとって、これは許しがたい行為だ。現在のビットコインマキシマリスト(至上主義者)の考えでは、ビットコインは通貨としての取引だけに使われるべきで、しかもビットコイン以外の資産の取引には使うべきではない。

彼らの強情な考え方では、北朝鮮が制裁回避のためにビットコインを使うことは道義的に問題ないが、アーティストがビットコインNFTを発行することは許されない。こうした考え方を奇妙で一貫性がないと感じるなら、ビットコインマキシマリストのイデオロギーがきわめて受動的で、技術的には退行的、そして知的一貫性よりもイデオロギー的な純粋性を重視しているためだ。

マルチチェーンの未来に向けて

2017年から現在に至るまで知的一貫性を保ってきた少数のスモーブブロッカーにとって、現在の取引手数料高騰は歓迎すべきものだ。ライトニングなどの確立されたレイヤー2ネットワークと、さらにライトニングを補う他のレイヤー2システムの普及のきっかけとなるからだ。

あらゆるコモディティと同様に、高価格は高価格自体の解決策となる。ベンチャーキャピタリストとして、私は最近出会った起業家たちが斬新なレイヤー2の開発を始めていることに勇気づけられた。特にイーサリアムブロックチェーン上で明確なプロダクトマーケットフィットを持つロールアップは、ビットコインブロックチェーンにも追加できるだろうと期待している。

ライトニングは万能薬ではなく、高頻度の少額取引に向いている。

ドルを移動させる方法は1つではない。銀行振り込み、ACH、クレジットカード、デビットカード、米連邦準備制度理事会(FRB)のFedNow、現金、非公式金融網のハワラ、郵便為替、フィンテックアプリなどがある。さらにこれらは、「プッシュ/プル」アプローチ、即時決済と繰延決済、グロス決済とネット決済に分類できる。それぞれに一長一短があり、取引スピードと決済の確実性も異なる。

1つのスケーリングネットワークだけでビットコイナーの多様な取引ニーズを満たすことができると考えるのは甘過ぎる。ビットコインの長期的な未来には、多数のスケーリングアプローチが必要だ。

そして重要な点は「1つのベースレイヤー決済・1つの支払いモデル」から、より経済的な幅を持った「1つのベースレイヤー決済・多くの支払いモデル」への移行だ。これがスケーリングの正しいあり方だ。すべてのノードオペレーターがすべての取引を把握しなければならないブロックチェーンのようなシステムが、世界規模での使用までスケーリングするには、この方法しかない。

ビットコインNFTをめぐる取引の急増とその結果としての取引手数料の高騰は、こうした効率的な未来への移行を加速させるもので、歓迎すべきものだ。BRC-20ブームは多くの人たちを困惑させているが、ここしばらくの間でビットコインに起こった最高の出来事の1つだ。

ニック・カーター(Nic Carter)氏:パブリックブロックチェーンに特化したベンチャーファンド「キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)」のパートナーで、ブロックチェーン分析企業「コインメトリックス(Coin Metrics)」の共同創業者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:There’s No Such Thing as High Fees on Bitcoin