多くのビットコイナーが、ビットコインブロックチェーンでの取引急増による手数料高騰に憤っている。手数料は競争入札的なプロセスで決定されるが、5月8日には、シンプルなビットコイン(BTC)取引1件につき驚きの30.19ドル(約4000円)まで高騰。それ以前は、2021年7月以降ほぼ2年にわたって、2ドル(約270円)付近で推移していた。
BRC-20ブーム
事態は、一部のビットコイナー、特に「マキシマリスト」と呼ばれる人たちが「Ordinals」という新しい発行方式を利用したBRC-20トークンなどの検閲を提案するほどに事態は緊迫している。
これら資産は、ビットコイン取引にデータを記述する新しい機能を活用したもので、手数料高騰の原因となっているとされている。BRC-20トークンなどの発行の倫理的な側面について語ることは多々あるが、マキシマリストのリーダーとも言うべき、マイクロストラテジー(MicroStrategy)元CEO、マイケル・セーラー(Michael Saylor)氏がなんと驚いたことに、BRC-20トークンなどの台頭を「強気」要素と宣言する展開になった。
「ビットコインは何のためにあるのか」という点は脇に置いておくとして、ここにはきわめて明確なポイントがある。すなわち、ビットコインはスケーリングしておらず、Ordinalsを批判してもその現実は変わらない。
仮に世界中で今よりも大規模にマネーの取引のために使われるようになれば、ビットコインは同じスケーリングの問題に直面することになるだろう。つまりBRC-20をめぐる騒動は皮肉にも、究極的にはビットコインの非通貨的用途に現在抵抗している「マキシマリスト」なビジョンに対する打撃だ。
メムプールの混雑
ビットコインブロックチェーン上のBRC-20トークンへの爆発的な関心の高まりは、ベースレイヤーネットワーク上の取引を急増させ、取引手数料を高騰させた。混雑を分析する方法は数多く存在するが、非常に優れた指標の1つが、ビットコインメムプール(mempool)の混雑だ。
メムプールは、取引が検証されるのを待つ場所で、取引に対して提示される手数料に応じて検証の順序が決まる。メムプールが混雑している場合、次のブロックに取引を入れてもらうための競争が激化する。
データを見てみると、数多くの点で驚かされる。今回は、スマートコントラクトセキュリティを手がけるCertoraのリサーチャー、ヨヘン・ホーイニケ(Jochen Hoenicke)氏によるシンプルだが優れたメムプール視覚化ツールを使った。
まず、取引件数を見てみると、メムプールがこれほど混雑したことはいまだかつてなかったようだ。2021年4月の前回のピーク時には、待機中の取引件数は20万。だが5月8日は45万(ホーニケ氏のノードは2017年以降しかトラッキングしていないが、前回の強気相場以前、ビットコインの混雑や手数料は軽微なものだった)。
そして注目すべきは、取引の多くが小口であること。bitinfochartsによれば、ビットコインの平均取引サイズがここ最近、大幅に縮小している。
小口取引の爆発的増加は、需要の急増が、実験的な「BRC-20」規格を使って躍起になってトークンを発行している投機家(および将来のラグプル仕掛け人)たちによるものだということを裏付けているようだ。BRC-20トークンは現在盛り上がっており、トレーダーたちはペペコインをはじめとするカジノ的トークンを12ブロック先や14ブロック先ではなく今すぐに手に入れようと、必死になっているようである。
これらのトークンはギャンブルとほとんど変わらない「ミームコイン」が大半であるため、この手数料高騰は短期的なものに終わる可能性が高い。実際手数料は5月10日までには、8日のピーク時より少し下がっている。
小口取引の増加に対応できるか?
Coinmarketcapによると、BRC-20規格が公表されてからわずか数週間で、8500という驚異的な数の新しいトークンが発行されたという。だがそのほとんどは『ミームコイン」であり、取引手数料の高騰は短期間で終わりそうだ。実際、5月10日には手数料は8日のピークから少し低下している。
だが、問題は残っている。つまり、仮に数百万人が定期的にピア・ツー・ピア(P@P)送金のためにビットコインを使おうとした際にも、まったく同じ状況に陥る。しかも、この場合は一時的なものではなく、永続的な問題となる。
マキシマリストが取引の検閲を求めることは、多くの哲学的理由から一貫性を欠いているが、この現実的な矛盾が最も印象的だ。トレーダーたちが一時的に手数料を高騰させていることに憤慨しているビットコイナーたちは、日常的にビットコインを使うユーザーたちが招く長期的な手数料高騰という差し迫った問題を解決することにエネルギーを注いだ方が良いだろう。
CoinDeskコラムニスト、ニック・カーター(Nic Carter)氏が指摘したとおり、「高価格は高価格の解決策」となる。例えば、バイナンス(Binance)が自社のビットコイン出金フローに、レイヤー2のライトニング・ネットワークを統合したことはその象徴的な例だ。
ライトニングはベースレイヤーから小口取引の負荷を取り除くことを目的として作られているが、P2Pの使用にはかなり複雑な設定が必要になる。つまり同時に、デイビッド・マーカス(David Marcus)氏率いるライトスパーク(Lightspark)などのライトニングサービス企業にとっては、突然、ライトニングを一般ユーザーにも簡単に使えるようにすることに対する需要が増加したようなものだ。
不幸中の幸い
この点で、BRC-20がもたらした取引手数料の高騰は、不幸中の幸いと言えるだろう。継続的な取引増加に備えるための警告とすべきだ。
またもう1つ、別の展開も考えられる。ビットコインブロックチェーン上のOrdinalsとNFTの実現可能性は、まだきわめて不透明だ。例えば先日、Ordinal Inscriptions、いわゆるビットコインNFTに深刻なバグが見つかった。
しかし、Ordinalsのようなテクノロジーがビットコインをスケーリングさせるまったく新しいアプローチを可能にするかもしれない。そこには、イーサリアムブロックチェーンで実現されるレイヤー2テクノロジーも含まれるだろう。
そうした展開はビットコインマキシマリストにとっては、メムプールをビットコインNFTや、BRC-20ブームに乗じてひと儲けしようとするトレーダーたちと共有することよりも不快なことだろう。だが、ビットコインブロックチェーンのスケーリングを本当に考えているなら、もっと大きな視野で考える時期かもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:If Bitcoin Can’t Handle a Few JPEGs, How Can It Handle the World?