だから私たちは、いつまで経っても良いものを手にできない。
FTX、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、セルシウス(Celsius)などの破綻から教訓を学んだと思った矢先、ミームコインブームが再び私たちを襲った。
中核的な目的を損なっている?
クレイジーな暗号資産カジノが戻ってきた! カエルの画像をモチーフにしたミームコインで大金を稼ぐ人がいる一方で、手数料の高騰で、大きなダメージを被る人もいる。今回のブームは、欲深い人間の心に広がるだけでなく、世界で最も価値のあるブロックチェーンの機能を混乱させている。
ビットコインブロックチェーンのアップグレード「タップルート(Taproot)」によって実現したBRC-20規格を使って、新しいトークンが作成できるようになったため、ビットコインブロックチェーンを基盤にしたさまざまなミームコインが誕生している。その多くは、他のチェーンで発行され、激しい値動きを見せたコインを真似たものだ。例えば、イーサリアムを基盤にしたぺぺコイン(PEPE)は約500万%上昇した後、その50%を失った。
こうしたミームコインが誕生する前は、Ordinals Protocolの登場によって、ビットコインNFTが台頭してきていた。
ミームコインやビットコインNFTとしての使用は、シンプルなビットコイン(BTC)取引よりもはるかに多くのデータを使うため、ビットコインの取引手数料が高騰している。ビットコインマイナーたちは最近、6.25BTCのブロック報酬よりも多くの収益を取引手数料から得ている。つまり、オンチェーンで少額のビットコインを送りたい場合、マイナーに引き受けてもらえないか、法外な取引手数料を支払うことを余儀なくされる。
エリザベス・ウォーレン米上院議員の「Anti-crypto Army(アンチ暗号資産軍団)」の冷笑が聞こえてくるようだ。「トレーダーたちは金儲けばかりに目がくらみ、より優れた通貨、あるいは価値の交換手段という暗号資産テクノロジーの中核的な目的を台無しにしている」と。
新たな戦い
驚くことではないが、こうした事態はビットコインコミュニティ内での騒動を引き起こしている。ブロックスペースという希少なリソースをめぐる戦いは長年、緊張を生んできた。その顕著な例が2016年から2017年にかけてのブロックサイズ戦争だ。これをきっかけに、小口取引をオフチェーンで処理して、ブロックスペースを大口取引のために取っておくライトニング・ネットワークが生まれた。
今回は緊張度合いがさらに高い。ビットコインの唯一の目的は現状の通貨をリプレースすることと信じる純粋主義者は、ビットコインが軽薄なカエルのJPEG画像のために使われていることに激怒している。一方、新しいBRC-20トークンやOrdinalsを使ったトークンを発行、利用している人たちは、ビットコインの目的を決められる人などいないと反論している。なんと言っても、オープンプロトコルなのだから。
取引手数料の高騰とブロックチェーンの混雑が問題という点では、皆の意見が一致できるだろう。ビットコインのリソース効率性と実用性の中核を揺るがす問題だ。だが、どのように対処すれば良いのだろうか?
リスクを承知のうえで、答えは著名な初期のビットコイン開発者ルーク・ダッシャー(Luke Dashjr)氏の提案にはないと言ってしまおう。
彼はフィルターを導入することで、BRC-20トークンやOrdinalsプロジェクトを事実上、止めてしまうことを提案している。ダッシャー氏に批判的な人たちはこれを検閲と呼んでいる。ビットコインの目的をどう考えているかにかかわらず、検閲耐性は守られるべきだろう。
ビットコインマイニングに対する課税という米政権の提案は、個人のエネルギー使用の選択を差別するものだと語ったビットコイン・ポリシー・インスティチュート(Bitcoin Policy Institute)のトロイ・クロス(Troy Cross)氏の見解を踏襲して、私もビットコインコミュニティがビットコインのブロックチェーンをどんな形態の価値交換に使うかに制限を課すことはできないと主張したい。
投機を制限?
僭越ながら私の意見を言わせてもらえば、ブロックスペースに対する負担を軽減し、ユースケースに関係なくシステムの全体的機能を改善するようなアップグレードが公平な方法ではないだろうか。
ビットコインのスケーラビリティを向上させるのにライトニングでは不十分だとしたら、ZKロールアップやオプティミスティック(Optimistic)のロールアップなど、イーサリアムコミュニティのさまざまなレイヤー2スケーリングプロジェクトから学べることはないだろうか?
あるいは、システム全体の流動性を脅かすような特定の投機的行為に対して、時間やコストの制限を盛り込むことが可能で、適切だろうか? 具体的には短期的な資産の転売を想定している(ちなみにこれは、NFTに限った話。BRC-20トークンに制限を課すことはできない。マネーはこうした制約を受けない)。
私よりはるかに賢い人たちが、私の提案の欠陥を指摘するだろう。実際、資産の転売を槍玉にあげることは、ミームコインを批判するダッシャー氏と変わらないと言われれば、そのとおりだ。ある人の行為はOKで、別の人の行為はNGと判断しているのだから。
個人の権利と集団の利益
それでも、問題の核心は、ビットコインブロックチェーンがカエルの画像のために使われていることでなく、あらゆるタイプの価値の移動のための効率的で第三者を必要としない決済システムとしての価値が、ブロックスペースの混雑によって損なわれていることだ。
CoinDeskのコラムニスト、デビッド・モリス(David Morris)が指摘したように、ビットコイン支持派が望むとおりに、何百万人もの人がビットコインを通貨として使うようになったとしても、同じ問題に直面する。だからこそ、ガバナンスの議論に焦点を当てる必要がある。
個人の権利と集団の利益のバランスをどのように取るかという問題は、すべてのブロックチェーンコミュニティにとって中核的な課題。ビットコインも例外ではない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:カエルをモチーフにしたぺぺコイン(ぺぺコインのツイッターより)
|原文:Frogs, Fevers and Fees: Bitcoin’s New Governance Challenge