米債務上限問題が合意すれば、ビットコインにはマイナスの影響か【コラム】

米債務上限問題の議論が行き詰まり、市場も先行きが見えにくくなっているなか、一方で、合意が実現すれば、暗号資産市場はダメージを受けるかもしれないと警告するアナリストもいる。

アメリカは1月19日、法律で定められた31兆4000億ドルの債務上限に達した。政府を動かし続けるために、財務省は非常手段に頼り、政府預金口座(TGA)の残高を使うことを余儀なくされている。そのため、米ドルの流動性の変動に敏感なビットコイン(BTC)のような資産は、政府のデフォルト(債務不履行)と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ継続の懸念のなかで買われ続けてきた。

経済関連のデータを提供するMacroMicroによれば、TGAの残高は2月初めには約5000億ドルだったが、先週には680億ドルまで減少。ゴールドマン・サックスでは残高が6月上旬には必要最低限の300億ドルまで減少するとみており、壊滅的なデフォルトを避けるためには、それまでに債務上限問題について合意に達する必要がある。

国債発行増の影響

合意に達し、債務上限が引き上げられれば、財務省は国債を発行して、TGAの残高を再び増やそうとする。国債発行数の増加は、国債の価格を押し下げ、利回りを押し上げる傾向があるため、国債を購入する動きが強まり、市場から流動性が失われかもしれない。ちなみに、ビットコインは国債の利回りと逆方向に動くことで知られている。

つまり、債務上限問題の合意は、大きな経済的不透明感を取り除くかもしれないが、米ドルの流動性に強く依存したビットコインのような資産にはマイナスとなるかもしれない。

「国庫を強化するために国債を発行すると、逆の影響も生まれる。つまり、資金は現金やリスク資産から米国債に移動する。特に、供給量の増加を相殺するために国債の利回りが上昇するからだ」とCoinDeskのコラムニスト、ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は語った。

「これは、利回りが高くなると理論的には値下がりする(高利回りの環境は利回りゼロの資産にとっては不都合な傾向)ビットコインやゴールドにとっては好ましくないかもしれない。さらに、米国債をさらに発行すれば、公的支出が増えるが、これは経済にとっては好ましく、利下げの可能性をさらに遅らせることになる」(アチェソン氏)

市場の予想は現状、2020年3月に新型コロナウイルス感染拡大がきっかけで市場が暴落し、ビットコインが50%以上下落したときと同じように、デフォルトがパニック売りと世界的な現金への需要を引き起こすだろうというものだ。一方、合意はリスクオンの動きを促進すると見られている。

ビットコインは今年3月のアメリカの銀行危機の頃、安全な避難先として投資家たちを集めたが、テック株のような金利の影響を受けやすい資産も好調だった。

米財務省政府預金口座(TGA)残高(MacroMicro)

リスク回避につながる?

インドのICICIバンクの金利トレーダー、サティアカム・ゴータム(Satyakam Gautam)氏は、財務省がこの先数カ月で7000億ドルの国債を発行し、大規模なリスク回避の動きを引き起こすと考えている。

「債務上限の交渉合意後に、短期的には米ドルが不足すると予想される。社債市場やプライベートクレジットは、既存の満期となった資金を再び投資することは難しくなり、商業用不動産向けの資金調達、ジャンク債の発行者は窮地に陥るだろう。これが、アメリカの金利市場が求めていた本当の暴落となるかもしれない」とゴータム氏は指摘した。

さらに「長期金利が長期的に低下したり、アメリカの金利に大幅なスティープニング(短期金利と長期金利の金利差が大きくなること)が起こるかもしれない。そうなれば、日本円やスイスフランのような低リスクな(外為)資産には良い兆しとなるはずだ」と付け加えた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Mathieu Stern/Unsplash
|原文:U.S. Debt Deal Could Weigh On Bitcoin Price, Some Say