Web3とデジタル資産の未来を考える国内有数のコミュニティ「btokyo members」とcoindesk JAPANは5月18日、「Consensus 2023 報告会──企業のWeb3参入、規制(世界が注目する日本)、AIとブロックチェーン、RWAのトークン化、NFTやDAO」をオンライン開催した。
コロナ禍での2回のオンライン開催を経て、2022年に続いて今年も米テキサス州オースティンで開催され、開発者や事業担当者、投資家、VC、規制当局が一堂に会し、意見を交わす機会となった「Consensus by CoinDesk(コンセンサス・バイ・コインデスク)2023」。
報告会では、アクセンチュアの唐澤鵬翔氏が現地で注目を集めていたテーマをピックアップ。日本での取り組みや動向をテーマとした「Why Japan Is Embracing Crypto」に登壇した金融庁の牛田遼介氏、Astar Network Founder/Startale Labs CEOの渡辺創太氏を交えて現地での議論を振り返った。
モデレーターは、同じく現地に参加したN.Avenue/coindesk JAPAN 代表取締役CEOの神本侑季が務めた。
唐澤氏がピックアップしたテーマは以下の6つ。
- Enterprise is taking main stage
- Regulation is necessary but how is an issue
- GenAI is the best friend of web3
- The line of virtual and real is blurring once more
- Stop talking about NFTs and DAOs
- It’s time to restart post-Lehman innovation
それぞれ、順に見ていこう。
1.Enterprise is taking main stage
唐澤氏は1つ目のテーマとして「大企業がメインステージにやって来ている」ことをあげた。昨年は大企業がWeb3について語るシーンはほとんど見られなかったが、今年はさまざまな大企業が自社のWeb3に関する取り組みについて紹介していたと述べた。
さらに具体的なトピックとして、以下の4点について解説した。
- レボリューション(革命)ではなくエボリューション(進化)
- 顧客ロイヤルティ3.0
- 顧客中心カルチャー
- ブロックチェーンは依然として「問題」
●レボリューション(革命)ではなくエボリューション(進化)
分散型で非中央集権型であるWeb3は、大企業と相反するものとして捉えられることも多いが、そうではなく、今後、企業がビジネスを作り出していく際に不可欠なツールと捉えられていると指摘。その意味で今、多くの企業がWeb3を「レボリューション(革命)」ではなく、「エボリューション(進化)」と捉えていると述べた。
●顧客ロイヤルティ3.0
アメリカではWeb3テクノロジーを顧客ロイヤルティプログラムに活用する動きが広がっている。ブロックチェーンを「Giant CRM」と呼ぶ人もいるという。つまり、Web3は顧客ロイヤルティを進化させるテクノロジーと捉えられており、こうした動きを唐澤氏は「顧客ロイヤルティ3.0」と呼んだ。
●顧客中心カルチャー
その一方で、成果はもちろん重要だが、Web3に取り組むことは、もはや「顧客中心カルチャー」からは不可欠になっているという考え方も見られたと述べた。
●ブロックチェーンは依然として「問題」
さらに、ブロックチェーンには依然として解決すべき課題や問題が多く、技術面が普及のハードルとなっているという反省も聞かれたと指摘した。
唐澤氏のまとめを受けて、金融庁の牛田氏は、Consensusについて「もっとキラキラ」したものと予想していたが、地に足がついた事業者やソリューション提供者が数多く参加しており、規制当局者の1人としては、望ましい印象を持ったと述べた。
渡辺氏は、現在3回目の「暗号資産の冬」が来ていると言われているが、今回は大企業が暗号資産業界に参入していることが大きな違いと指摘。過去2回の「冬」が氷河期だとしたら、今回は「暖冬」と話している人も多かったと業界はポジティブであることを紹介した。
参入している大企業の業種について唐澤氏は、コンシューマー向けブランドや日用品を扱っている企業が多かったと振り返り、当初、Web3への参入は、ラグジュアリー系ブランドが目立ったが、今では飲料大手のペプシコ(PepsiCo)やアンハイザー・ブッシュ・インベブなどがWeb3に積極的に取り組んでおり、Web3がより市民権を得てきていると語った。
2.Regulation is necessary but how is an issue
2つ目のテーマは、まさにアメリカの暗号資産業界にとって喫緊の課題となっている「規制」について。
大企業はもちろん、スタートアップからも、規制を拒絶するのではなく、むしろ正しい規制の方法や原理原則を定めていくべきという意見が多く出たという。またその際には、プロダクトの進化のスピードに規制が追いつくことは不可能であり、規制の明確さ(Clarity)を求めるのではなく、予測可能性(Predictivity)が重要と指摘した。
牛田氏は、規制とイノベーションをいかにバランスさせるかが重要と指摘。日本の現状について、日本は利用者保護を含めて規制が整っていると述べた。さらに、他国はこれから規定が厳しくなっていくフェーズだが、日本はこの先、規制が大きく変わることはなく、規制の安定性がメリットになるのではないかと語った。
渡辺氏は、日本にとって追い風で有ることは確かだが、中国や香港の動きが活発化していることへの注意を促した。
3.GenAI is the best friend of web3
3つ目のテーマは、生成AIとWeb3について。
唐澤氏は、暗号資産は冬を迎え、生成AIの話題が盛り上がっているため、Web3はもう下火なのではないかという見方もされているが、Consensusでは生成AIはWeb3と相性が良いテーマだと指摘。より具体的には、
- Web3は生成AIの「トラスト」レイヤー
- 生成AIはWeb3の複雑さを解決する
- 生成AIの透明性
をあげた。
●Web3は生成AIの「トラスト」レイヤー
今後、生成AIによってコンテンツが爆発的に作成されることが予想されるが、それによってオリジナルであることの希少性がより重要になり、それを証明するためにWeb3テクノロジーは必須になると唐澤氏は述べた。
●生成AIはWeb3の複雑さを解決する
一方で、Web3にはトランザクションの解析など、複雑でユーザビリティが悪い面もあり、そうした複雑さを生成AIで解決できるのではないかと指摘。
●生成AIの透明性
さらに生成AIが、トレーニングデータとして何を使っているかは明確でなく、著作権の訴訟に発展した事例もあることなどから、生成AIに透明性をもたらすことにWeb3テクノロジーが使われることになるだろうと述べた。
渡辺氏は、世の中を本当に変えるには時間がかかると語り、今話題のOpenAIも設立は2014年と指摘。唐澤氏もそれを受けて、何十年も研究されてきたAIに対して、Web3はまだテクノロジーとしては「若造」であり、「まだまだこれから」と語った。
牛田氏は規制当局の立場としては、どのような技術かは関係なく、技術を使って実現されるビジネスやサービスがユーザーにとって良いものなのか、リスクはないのかに着目していると述べた。ブロックチェーンのユースケースにはまだキラーアプリがなく、今後に期待していると語った。
4.The line of virtual and real is blurring once more
4つ目のテーマは、数年前に盛り上がったセキュリティトークン、さらには現実資産(Real World Asset)のトークン化というテーマが再び盛り上がってきていることについて。
唐澤氏は、トークンへの投機だけでは一般への普及は見込めず、現実世界での価値に紐付けていくことが重要と述べた。
牛田氏は「DeFi(分散型金融)とTradiFi(伝統的金融)が近づいている」との認識を示し、セキュリティトークンに関しては、日本は法整備も進み、プライマリー市場もセカンダリー市場もこれから積極的な取り組みが進むだろうと述べた。
渡辺氏は、現状ではまだWeb3はリアルとのつながりが乏しく、Web3で作ったものを、Web3の中で回していると指摘。リアルとつなぐ場面では、エンタープライズ(大企業)の強みが生きるはずと述べた。
5.Stop talking about NFTs and DAOs
5つめは、NFTとDAOについて。
唐澤氏はNFTやDAO自体をテーマにして議論する場面は減ったと報告。NFTやDAOはあくまでもツールであり、どのように活用するかに議論は移っており、特にNFTでは、NFTアートが高額で取引されたという話は聞かれず、保有者にどのようなユーティリティを提供できるかがメインテーマになっていたと述べた。
渡辺氏は、DAOの議論はマーケット環境に左右されるのではないかと指摘。弱気市場のときにはDAO的な動きではなく、逆に強いリーダーシップが求められているのではないかと述べた。
牛田氏はDAOについて、ガバナンストークンの上昇を期待してコミュニティに参加することでは持続可能性が弱いのではないかと述べた。
6.It’s time to restart post-Lehman innovation
最後のテーマは、Consensusを通して感じた総括的な内容となった。
唐澤氏は、インフレの進行や、アメリカでの銀行破綻など、既存の金融の仕組みに不信感が生まれている点が、かつてのリーマンショックの時期と似ていると指摘。社会のパラダイムシフトとテクノロジーがセットになって、世の中が大きく変わっていく時期なのではないかと述べた。
渡辺氏は「アメリカが停滞していることは、アジアにとってはチャンス」であり、日本、そして日本人がどのように時代をリードできるかが重要と述べた。
牛田氏は、インターネットは商用化まで長い時間がかかったが、暗号資産は早い段階から資金が流入したため、それが逆にノイズになって着実な技術発展を阻害した部分があるかもしれないと指摘。Consensusでは、今は逆にノイズが減って事業や開発が進めやすくなっていると語った事業者もいたと述べた。
唐澤氏が盛りだくさんの内容を的確にまとめ、牛田氏、渡辺氏が現地で感じたリアルな感想や、常に問題意識を持って考えていることを語った「Consensus 2023 報告会」。
ここで紹介できた内容は、ほんの一部分。唐澤氏のスライドや3人のリアルな発言をご自身で確認したい方は、ぜひ「btokyo members」に登録(無料)のうえ、アーカイブを確認してください。
|テキスト:btokyo members
|編集:coindesk JAPAN
|画像:N.Avenue