レジェンド開発者のギャビン・ウッド(Gavin Wood)氏がイーサリアムを去った後に開発したブロックチェーン、ポルカドット(Polkadot)は新しいプライバシー機能を手に入れた。
ロールアップベースのスケーリングツールLineaと協力して、ゼロ知識証明やソウルバウンドトークン(ヴィタリック・ブテリン氏が考案した譲渡できないNFT)を使い、ユーザーがオンチェーンで取引するときに自らのデジタルアイディンティティ(DID)を選択的に公開できるようにする「ゼロ知識ソウルバウンドトークン」(zkSBT)を開発した。
一方、コスモス(Cosmos)は、相互運用可能な新しいNFT規格を発表。イーサリアムのNFT規格であるERC-721にちなんで「ICS-721」と名付けられたコスモスの新しいNFT規格は、ブロックチェーンを超えて取引できるNFTを可能にする。
この2つのストーリーに直接的な関係はない(異なるテクノロジー、異なるチェーン、異なるユースケース)。だが、暗号資産における大きなトレンドの一部であることは共通している。すなわち、「冬」は開発に本腰をいれる時期だ。使い古された表現かもしれないが、繰り返し思い返す価値がある。暗号資産の世界に広がる創意工夫と協調のレベルを明らかにするからだ。
オープンソースの真骨頂
情報共有が当たり前になっている業界は他にもあり、「フリーなオープンソース」というムーブメントは数十年続いている。だが、その相互作用が本領を発揮するのが暗号資産の世界だ。
イーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリン氏は2022年半ばに、ソウルバウンドトークン(個人の業績を生涯にわたって記録した、取引や売買のできないブロックチェーンベースの履歴書のようなもの)のアイデアをブログで披露し、誰もが実験できるようにした。
ソウルバウンドトークン(SBT)は多くの注目を集め、そのアイデアにインスピレーションを受け、SBTがいかに社会を変革するかについて考察する人たちも出てきた。
アイデアはお金がかからず(インスピレーションは思いがけずに浮かぶもので、お金で何とかなるものではない)、開発は難しい。だからこそ、ソウルバウンドトークンが実際に展開されることを目撃することは非常に興味深い。
まだ資金が潤沢にあるためか、暗号資産業界が惹きつける人たちのためか、この業界では無数の技術的な実験が生まれている。
例えば、ゼロ知識(ZK)証明テクノロジーの暗号資産への応用だ。コンピューターサイエンティストのシャフィ・ゴールドワッサー(Shafi Goldwasser)氏、チャールズ・ラコフ(Charles Rackoff)氏、アルゴランド(Algorand)創設者のシルビオ・ミカリ(Silvio Micali)氏が1980年代半ばに名付けたときから少し前までは、学術研究の一分野に過ぎなかったテクノロジーだ。
コンセプトはシンプル──ある人がある命題が真であることを伝えるために、真であること以外、 何の知識も伝える必要なく証明できるようにするシステム──だが、ZK証明を広範な商業的用途に応用したのは、暗号資産業界が初めて。今では、イーサリアムのスケーリング、ウォレットの保護、そしてポルカドットベースの新しいツールに使われている。
デメリットに勝るメリット
確かに功績は、オープンソースコードのパイオニア的な推進者たちにあるだろう。ソフトウェアの可能性、そして同時にソフトウェアを商品化しようとする圧力に気づき、開発者たちに自らの業績をシェアし、一方的利用を許す著作権ライセンスのもとでコードを公表するよう呼びかけた。
例えば、Linuxのリーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏、O’Reillyのティム・オライリー(Tim O’Reilly)氏など、現在のインターネットの開発に貢献した人たちだ。
暗号資産もその多くはオープンソースであるため、業界は悪者にもオープンになっている。低俗なレベルで言えば、スパム詐欺を行う人たちがミームコインを生み出すために、プロジェクトを際限なく生み出すことが可能になってしまう。
より恐ろしいレベルでは、北朝鮮のような国家がオープンソースのブロックチェーンツールを悪用して、主要な収入源にしている。
だが、イーサリアムは無料のテクノロジーリサーチプロジェクトでビットコインに応用できるかもしれないという理由だけでイーサリアムは良いものだと考えるビットコイナーにとっても、ユーザーに自分のコンピューターのコントロールを与えることは道徳的に必要不可欠と考えるフリー・オープン・ソース・ソフトウェア(FOSS)推進者にとっても、オープンソースコードにはデメリットよりもメリットの方が大きいだろう。
オープンソースと暗号資産
暗号資産が規制当局(少なくともアメリカでは)にしつこく取り締られている今、暗号資産のメリットを強調しておくこともよいだろう。
暗号資産ハードウェアウォレットを手がけるレジャー(Ledger)のパスカル・ゴウティエ(Pascal Gauthie)CEOは先日、同社の製品をさらにオープンソースにするためのロードマップを発表した。暗号資産コミュニティから、同社のソフトウェア「Ledger Recover」のアップデートについてプレッシャーを受けてのことだった。
オープンソースは透明性を高め、競争を引き起こし、コストダウンを実現する可能性が高い。テクノロジー企業は、フリー(無料)になってしまうかもしれないプロダクトをお金を出してもらいたければ、イノベーションを推進する必要がある。
今、ChatGPTで大きな注目を集めているOpenAIがその典型例。OpenAIは、オープンソースのAIモデルを準備中と伝えられている。グーグルもオープンソースが脅威になると語っている。
「オープンなコラボレーション」のメリットについて、誰もが納得するわけではないだろう。兵器に使える核の濃縮方法のような一部の技術は隠しておくべきであり、基本的な知的財産権の保護は必要だと私も理解している。
しかし、人々がもっとシェアするような世界に住みたいと思いませんか?
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Michael Dziedzic/Unsplash
|原文:Crypto’s Open Source Ethos Yields Results