AIは暗号資産トレーディングに変化をもたらす【コラム】

ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)に、LLMの選び方を質問すると、次のような回答が返ってくる。

「大規模言語モデルを選ぶことは、スピードデート(訳注:男女が短時間会話をして相性を見極めるマッチングイベント)に似ている。いくつか質問し、ウィットと知性で感銘を与えてくれることを願い、そして、仕事などでずっと使いたいかどうかを判断する」

金融の世界では、需要と供給の原則が、あらゆる資産の、ある時点での公正価格を決定する基本的メカニズムとして機能する。この経済的コンセプトは、買い手が求める量と売り手が供給する量が一致した時、資産の価格は均衡するというものだ。

伝統的分析手法が通用しない

従来の株式市場を評価する場合、ファンダメンタルズが長年、きわめて重要な役割を果たしてきた。投資家は企業の財政的健全性、業界でのポジション、全体的な経済状況を分析し、企業の内在的価値を見極める。利益、収益、負債資本比率などの主要な指標から、企業のパフォーマンスの明確なイメージを読み取ることができ、投資家は買い/売りの決断を下すことができる。

しかしそのような指標は、急速に進化を続ける暗号資産の世界ではまだ手に入らない。

従来のような決算報告書の欠如や、新興テクノロジーのインパクトを推定する難しさから、伝統的な手法で暗号資産の価値を見極めることは困難。さらに、価格ボラティリティがきわめて高いため、ファンダメンタル分析の効率性は一段と低下する。

伝統的な価値評価手法が存在しないため、価格は多くの場合、暗号資産市場全体、あるいは特定の暗号資産についてのセンチメントによって決定されているようだ。市場参加者の見方や感情的な反応が、価格を動かしたり、投資判断を形成することに重要な役割を果たすことが多い。

合理的なトレーダーにとって、市場のセンチメントを素早く正確に捉えることができれば、そのような非合理性はチャンスとなる。だが長年、センチメントを扱うことはあまりに難しいことと考えられてきた。

デイトレーダーは主に、暗号資産のニュース、ディスコードでの内部関係者のチャットや発表に頼ってきた。システマチックトレーダーは、平均的なセンチメント分析ツールを開発することにすら、かなりの労力を費やさなければならなかった。テクノロジーの限界が、グローバルメディアが生み出す膨大なデータを処理、理解することを困難にしていた。

大規模なセンチメント分析が可能に?

しかし、機械学習モデル「Transformer」と大規模言語モデル(LLM)の進化によって、トレーダーは大規模にセンチメントを扱い、手作業でのスコア付けやWord2Vecモデルを使った伝統的な手法よりもはるかに優れた成果を得られるようになった。

最高のLLMを目指したテクノロジー企業の競争は現在、急速に進化している。下図は、現在進行中のレースの状況を伝えるもので、キープレイヤーやその取り組みを記している。

LLMの概況(Teza Technologies)

これらのLLMは、規模の拡大、パフォーマンスの改善を続けており、LLMの開発者自身すら驚かせている。LLMが汎用人工知能(AGI)の最初のサインなのか、ただのオウム返しロボットに過ぎないのかの議論が続く一方で、さまざまな業界、特に金融における活用は加速していくばかりだろう。

TransformerやLLMがもたらし得る革命は、暗号資産トレーディングも大きく変化させるかもしれない。大規模に市場センチメントを評価する力を手に入れたトレーダーは、市場の不合理さから、効果的に利益をあげることができるようになるかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Michael Dziedzic/Unsplash
|原文:AI Can Generate a Trading Edge in Crypto Markets