ブロックチェーンについて煮え切らない態度を取っている国がもうひとつある。ロシアだ。
ツイッターに投稿された現地レポートによると、病的に自己中心的なリーダーが率いる戦争中のこの国は、国営の暗号資産(仮想通貨)取引所を設立する計画を破棄したようだ。ロシア下院議員アナトリー・アクサコフ(Anatoly Aksakov)氏は、民間セクターによる暗号資産取引所の運営を可能にする規則を整備する予定だと語ったと報じられた。
諸刃の剣
国営暗号資産取引所の計画は2022年、プーチン大統領が国内の暗号資産を使った支払いを禁止する法案に署名した頃にまでさかのぼるだろう。当時、ロシアの議会と中央銀行は、暗号資産を規制するか、それとも中央銀行が望むとおり完全に禁止するかをめぐる議論で身動きが取れなくなっていた。
それ以来、ロシア政府は、暗号資産を輸出入の取引で使えるようにし、暗号資産マイニングや国際的な暗号資産決済は「特殊機関」に任せるという「実験的な法体制」の導入を検討してきた。ロシアはまた、ビットコイン(BTC)などの国家とつながりのない通貨やパーミッションレスなステーブルコインを国際的な制裁回避に使うというアイデアにも寛容になってきている。
ロシアが国営暗号資産取引所の計画を破棄して、厳重に監視された民間企業に参入を許すことは、ソ連崩壊後に根付いた縁故主義の蔓延を見事に象徴しているようだ。さらにこの方針転換は、暗号資産に対してロシアが取っている奇妙な立場の典型例でもある。
独裁政権が、仲介者や独裁者を不要にするテクノロジーである暗号資産に対して、態度をコロコロ変えるということも驚きだ。プーチン大統領は、弱体化するルーブルを支えるために国内では資本統制を実施したが、それが暗号資産を禁止するという決断にも影響を与えた。一方で、海外で力を誇示するために暗号資産を利用しようとする側面もある。統制の効かない暗号資産は、ロシアにとって諸刃の剣だ。
利用か、禁止か
暗号資産は、国際政治の世界で興味深い立場を占めている。ロシア市民はテザー(USDT)をはじめとするステーブルコインを使って、国外とのお金の移動を行なってきた。それでもおおむね、アメリカもEUも制裁回避に暗号資産が使われることをあまり懸念していないようだ。
ロシアの指導者たちが、暗号資産の利用は避けられないもので、禁止するよりも規制した方が良いと理解し始めたのはほんの最近のようだ。特に、米ドルを基軸とした国際的な経済インフラからロシアが事実上切り離されていることが、そのような認識をさらに促している。
ロシアの大手マイニング企業ビットリバー(BitRiver)のオレグ・オジエンコ(Oleg Ogienko)氏は「制裁のリスクを最小にする」という理由で、国営暗号資産取引所計画の破棄という財務省の決断を称賛した。面白いことに同氏は、ウォッカと同じくらいオリガルヒ(新興財閥)で有名なロシアにおいて、民間の暗号資産取引所は「市場独占の可能性を排除する」とも語った。
どの暗号資産取引所が運営を許されるのか、どのような内部統制に従わなければならないのかまだわからない。ロシアの新聞『イズベスチア』は、中央銀行が「おそらく」暗号資産プラットフォームを監督するだろうと報じた。管轄機関は財務省になる可能性もある。ロシアの暗号資産取引所は、アメリカ国民やその他世界の大半の国民とは関与しないだろうということは、言うまでもない。
暗号資産は間違いなく、ボラティリティの高い自国通貨や政府による差し押さえから資産を守りたいと考える世界中の市民にとって、ますます便利なツールとなっている。それでも業界は、現行秩序に対してほとんど脅威とはなっていない。暗号資産は大げさな約束をして、実際には期待通りの結果を残せない傾向にある。国家の権力を弱体化させるという点では、特にその傾向が顕著だ。
暗号資産の価値とは
ブロックチェーンはむしろ、政府が利用できる最も強力な金融に関する捜査ツールの1つとなっている。北朝鮮がランサムウェア攻撃やインターネット攻撃からどれくらいの利益をあげているか推計できたり、アメリカの捜査当局がデジタル時代の大物麻薬売人を捕まえることができる理由の1つが暗号資産だ。
国際的な犯罪において暗号資産が占める割合はわずかだが、ブロックチェーンが関わったすべての犯罪が、ハニーポット(犯罪者をおびき寄せるために意図的に設置されたおとり)になる可能性がある。
さらに重要なことに、個人に力を与えることに暗号資産が成功したことこそが、総合的に見れば暗号資産が脅威ではない理由となっている。
ロシアが本当に、暗号資産は資本規制を逃れるために大規模に使用されると考えたとすれば、暗号資産エコノミーに無数の人たちが完全に参加することを妨げているUX/UIの問題を理解していないか、暗号資産へのオンランプを徹底的に管理することが可能であることを理解していないかのどちらかだろう。
暗号資産は、すべてを心得ていて、監視の目をすり抜けようとしている場合なら、善良な人にとっても悪人にとっても驚くほど強力なツールとなり得るが、それ以外の普通の人にとっては、単に人気決済アプリの不便なバージョンに過ぎない。
暗号資産は主にシンボルとして機能する。アメリカの理想の極地である個人の自由と自立に強く影響を受けたシンボルだ。そのような暗号資産をアメリカが抹殺しようとする一方で、ロシアが徐々に寛大な態度を見せているのは、悲しむべき事態だ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Should Russia Bolster or Ban Bitcoin?