バイナンス、米以外の地域責任者にテン氏を任命──CZの後継者として有力視

アメリカ以外のバイナンス(Binance)の地域市場を監督する地位にリチャード・テン(Richard Teng)氏が任命されたことで、2017年に世界最大の暗号資産(仮想通貨)取引所を設立したチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)の最も可能性の高い後継者として、かつてアブダビの規制当局にいたテン氏が注目されることになるだろう。

この権限の移譲は、通称CZとして知られるジャオ氏が、同社のアメリカ部門であるバイナンスUSの所有権を減らすことを検討しているという5月の報道を受けたもので、アメリカの規制当局に対する宥和策のようなものだと見られている。

当局に目をつけられることの多いバイナンスは、暗号資産の黎明期における行為に関連する執行措置の強化に対処することを試みている。テン氏の規制当局者としての知識と経験は、アジア、ヨーロッパ、中東、北アフリカを監督する新しい役割で生かされるだろう。

テン氏は、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)で金融サービス規制当局を率いる前は、シンガポール取引所(SGX)の最高規制責任者を務め、シンガポール金融管理局(MAS)で13年間を過ごしていた。

インタビューの中で、テン氏は、46歳のCEOから手綱を取るように仕向けられたという考えを否定した。

「そのようなことを推測するのは時期尚早だ」と52歳のテン氏は米CoinDeskに語った。「我々は非常に強力な経営陣を擁し、多くの強力なリーダーがビジネスのさまざまな部分を担当している。私はその一員となり、会社の方針と目標達成をサポートできることをうれしく思っている」。

彼の新しい役割は、昇進でもなく、「CZが特定の事柄に目を向けるのを助けるための責任の拡大」だと彼は指摘した。

しかし、ジャオ氏自身が2021年8月にテン氏を採用した際に、同社には後継者についての計画があると述べたことは覚えておく価値がある。テン氏は当初、シンガポール事業のCEOとしてバイナンスに入社し、暗号資産セクターの激動の時代に急速に出世した。

匿名のバイナンス元従業員は米CoinDeskにこう語った。「上層部と規制当局は、リチャード・テン氏がCZの立場に立つことができる唯一のリーダーであり、業界と規制当局の間に存在するギャップを埋めながら、彼のビジョンの中で会社を構築し続けることができると非公開で話し合ってきた」。

テン氏は、バイナンスが「過去の物事についてオープンで率直」であると考えており、同社がまだ非常に若いことを指摘している。まもなく6歳の誕生日を迎えるバイナンスは、テクノロジー企業としてスタートし、当時はまだ規制も適切な指導もない時代だったとテン氏は言う。現在では、他のどの取引所よりも多い約750名のコンプライアンス担当者を抱えていると彼は付け加えた。

「この1年半から2年で、当社はコンプライアンスを重視する方向へ大きく舵を切った。しかし、我々は過去に問題があったことを認めている。我々は、それぞれの当事者と責任ある方法でそれらの課題をすべて解決し、我々が新しい組織であることを示すために動き出したいと思っている」。

一方で暗号資産は、技術的な発展においても、地域の法に及ぼす変動という点においても、進化を続けている。このような世界的な背景から、アメリカの規制当局による締め付けによって、暗号資産のハブが他の場所で芽を出し、繁栄することになるのではないかという議論も成立するだろう。

例えばドバイでは、暗号資産専門の規制機関を設置する意欲が示されているとテン氏は言う。ヨーロッパでも暗号資産市場規制法(MiCA)の枠組みの構築が進んでおり、暗号資産企業を誘致しようとするフランスの戦略が強化されている。

「パリで行われていることを見れば、ビジネスにとって非常に好都合なことがわかる。我々だけでなく、多くの暗号資産プレイヤーがパリをヨーロッパの拠点として利用しようとしている」とテン氏は述べた。

また、香港が暗号資産取引に門戸を開き、企業にライセンスを提供することについて、バイナンスは「胸が躍る」と述べた。バイナンスが香港でビジネスを行う準備が進行中かどうか尋ねられ、彼は「その時が来れば、発表する」と述べている。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:井上俊彦
|画像:リチャード・テン氏(Binance)
|原文:Binance Hands Rising Star Teng Key Role to Replace CEO Zhao at Largest Crypto Exchange