ブロックチェーンとビューティ業界の親和性:3つの理由

美容やファッションの世界は、クリエイティブなコラボレーションがすべてだ。ニューヨークのメトロポリタン美術館がその良い例。長年にわたって、いくつもの美容ブランドとパートナーシップを結んできた。例えば、創立150年記念にはエスティローダーのカスタムデザインのアイシャドウ・パレットを発売した。

どの業界でも、優れたコラボレーションは境界線を押し広げ、新しいアイデアや自己表現にチャレンジするよう顧客にインスピレーションを与える。美容業界が変わらず持ち続けてきた野心的なエネルギーとともに、スキンケアやメイクアップのブランドがWeb3に進出しているのも不思議ではない。

美容業界の主要な企業は、新しい形のデジタルアートや最先端の技術的イノベーションを通じて、Web3ネイティブの消費者に声を届け、意義のある体験を作り上げ、さらにはサプライチェーンを整理したいとさえ考えている。

美容業界にとって、ブロックチェーン活用が理に適っている理由を3つ紹介しよう。

新しい顧客層に声を届ける

化粧品会社ロレアル傘下のコスメブランド「NYXプロフェッショナル・メイクアップ(NYX Professional Makeup)」のグローバル・ブランド・プレジデント、ヤン・ジョフレド(Yann Joffredo)氏は、同社は常に、コンテンツクリエーターやブロガー、メイクアップアーティストたちとのコラボを通じて、インクルーシビティを支持してきたと語る。ジョフレド氏はWeb3を、このミッションの次なる進化の過程と捉え、新しい顧客層とつながることができるというさらなるメリットも付与されると考えている。

「ブランドが進化を続けるなか、Web3でも同じように多様性を推進していくことが大切だ。さらに、メタバースにおける美容の世界には、まだ開拓されていない領域があることも理解していた」(ジョフレド氏)

NYXは今年、Web3エコシステム内で美容関連のエクスペリエンスを構築するクリエーターにスポットライトをあてるために、世界初の美容に重点を置いたDAO(自律分散型組織)「GORJS」を発足させた。

「GORJSはWeb3アーティストや美容に熱心な人たちを取り込み、メタバースやその先の世界でデジタル・メイクアップアートにまつわる文化的議論がどんなものになるかをリードしていく」とジョフレド氏は語った。

自己表現の意義ある機会を醸成する

ジョフレド氏はさらに、メタバースにおける透明性や自己表現は、NYXのブランドの価値観の延長線上に自然と存在するものであり、デジタルスペースは、美容ファンに自分を表現したり、製品と関わるユニークな場を提供すると語った。

さらに、政治的に二極化した今日の世界において、デジタルスペースは安全をもたらしてくれる可能性もある。NYXは昨年、インクルーシブなアバター企業のPeople of Crypto(POC)およびメタバースのThe Sandoxと協力して、LGBTQ+の権利を啓発するプライド月間を記念した1週間のイベントを開催した。このイベントは、プライド・フラッグのカラーを使ったメイクを施したジェンダー・ノンコンフォーミングなNFTが目玉だった。

クロスリアリティ(XR)の業界カンファレンス「AWE Live」での討論会では、NYXのデジタルイノベーション・eコマース担当バイスプレジデント、マヤ・コソバリック(Maya Kosovalic)氏が、前述のプライドイベントが、より没入型のデジタルな未来の予兆となったと語った。

「将来のゲームプラットフォームにおける体験においては、自己表現が中心を占める。そのようなプラットフォームでは、単独で孤独なゲームを繰り返すのではなく、若い世代が現実世界の友人とやり取りできるような、より没入型で魅力的な社会的体験が提供される」(コソバリック氏)

スキンやデジタルアイテムを使って自分の性格やアイデンティティを表現することが、美容ブランドやファッションブランドにとってWeb3が非常に興味深いものになる理由だと、コソバリック氏は説明する。

同じ討論会に参加していた、アメリカの美容ストアチェーンUlta Beautyのシニア・イノベーションディレクター、アグスティナ・サルトリ(Agustina Sartori)氏は「美容とは、自分らしくあったり、なりたい自分になったりするための方法。デジタル世界でも、同じことを大切にしない理由があるだろうか?」と問いかけた。

サルトリ氏によれば、Ulta Beautyは2022年以来、Roblox上でデジタルを生かした実験的取り組みを行っている。Robloxは人気のユーザー主導型ゲームプラットフォームで、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)は使わないが、顧客向けバーチャルワールド構築に興味を持つ大手ブランドには魅力的な存在だ。

Roblox上のUltaのバーチャル世界は「Ultaberse」と名付けられている。Ultaは5月、クルエルティフリー(すべての工程で動物実験が行われていないこと)のアイシャドウブランドのUrban Decayと協力して、Ultaverse内でバーチャルパーティーを開催。メイクアップインフルエンサーのEmmy Combs、Leilani Green、Manny MUAがイベントのホスト役となり、50万人ほどの参加者が集まった。

Ultaは、3つのメタバース(Decentraland、Roblox、Spatial)で6月12日〜16日に開催された「Metaverse Beauty Week」への参加を表明した最初の美容ブランドの1つでもある。イベントのウェブサイトには、参加したい人向けに必要な暗号資産ウォレットのセットアップ方法、アバターの作り方などが説明されていた。

信頼の問題を解決できる

最後に、ブロックチェーンは、美容業界が常に直面してきた問題の1つに解決策をもたらす可能性がある。グリーンウォッシングの問題だ。クルエルティフリー、エコフレンドリー、ナチュラルを求める市場からの圧力の高まりのなか、美容ブランドに向けられる監視の目はここ数年、ますます強まってきた。

消費者がお気に入りのブランドの原材料の調達過程を追跡することは、ほとんど不可能だった。しかし現在、ブロックチェーンにはサプライチェーン関連のユースケースが多数存在しており、その多くはまだ新しい。

フランスのラグジュアリスキンケア企業クラランス(Clarins)が作ったブロックチェーンベースのプラットフォームでは、顧客がオンチェーンで製品の製造過程を追跡できる。製品のパッケージについたQRコードをスキャンすることで、原材料の原産地をチェックしたり、製品がどのように製造、梱包されたかまでを知ることができる。

ブロックチェーンが信頼強化に役立つもう1つの方法は「スーパー・フェイク」が広まる世界でますます問題となっている模造品を排除することだ。ラグジュアリファッションの大手LMVHは、ルイヴィトンのバッグやクリスチャン・ディオールの香水が本物であることを証明することに役立つブロックチェーンを立ち上げた。

サプライチェーンとは関係ないが、美容ブランドによるブロックチェーンの試験的利用には、購入するたびにビットコインを提供することでインセンティブを与えるビットコイン・キャッシュバックプログラムなどもある。

エキサイティングだがまだ実験段階

Web3全般に言えることだが、美容業界もまだ、新しいテクノロジーを使って既存と新規の顧客層に長く続く影響を与えるにはどうしたらよいか、実験段階にある。

「これはプロセスであり、時間がかかるものだ」と、メディア企業「Coveteur」のレヤ・カウフマン(Leya Kaufman)氏は述べ、「この新しい分野で顧客を開拓し、エンゲージメントを高めつつ、同時に中核的な顧客層を引き止める必要もある」と続けた。

Coveteurはは、主要Web3インフラ企業のMoonPay、ヘアケア企業のWella Professionalsと連携して、イーサリアム上でゲーム化されたデジタルくじ「The Wella Generator」をスタートさせた。

「既存と新規のWeb3ユーザーにとってシームレスなプログラムを作ることが私たちにとって大切だった」とカウフマン氏は語り、MoonPayとのパートナーシップによってこの取り組みが実現したと説明した。

産みの苦しみはあるが、デジタルアイデンティティがますます私たちの暮らしや性格における大切な要素となっていくなか、人々がオンチェーンでもオフチェーンでも、自分の見た目に自信を持ち、快適なショッピング体験をしたいと考えるのは当然のこと。ブロックチェーンは将来的に、美容ブランドにとって、流行の存在となっていきそうだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:3 Reasons Why Beauty on the Blockchain Makes Sense