もはや、以前テック系の人々の間で話題となったバズワードではないかもしれないが、「メタバース」は金融機関から注目され始めている。
若く、技術に詳しく、金融にはまだあまり馴染みがないユーザー層を持つメタバースは、デジタルネイティブでフィンテックを好んできた消費者との関係を構築するユニークな機会を銀行に提供している。また、銀行にとって、このような人材を将来の雇用に活かせることも重要だ。
メタバースへの投資
世界中のさまざまな地域の大手伝統的金融(TradFi)機関が、メタバースに店舗を構え始めている。JPモルガン・チェースは「Onyx(オニキス)」というブランド名でディセントラランド(Decentraland)に登場した。同社によるとオニキスは「ホールセール決済取引のためのブロックチェーンベースのプラットフォーム」だ。
昨年3月には、HSBCがザ・サンドボックス(The Sandbox)の仮想土地を購入し、メタバースで顧客と関わり、新たな体験を提供すると発表している。
また、韓国の4大メガバンクの1つであるKB国民銀行とシンガポールのDBS銀行もメタバースに参入し、さまざまなサービスの提供を開始している。
KB国民銀行は、メタバースベースの金融サービスを独自開発し、1対1の顧客サービスも提供している。また、従業員研修や若年層向けの金融教育も予定している。
DBS銀行は、ザ・サンドボックス上に広大な仮想土地を購入し、よりサステイナブルな世界を促進することを目的としたインタラクティブ体験の開発を進めている。同行によると、ザ・サンドボックスとのパートナーシップは、Web3の可能性を追求し、重要なESG(環境・社会・ガバナンス)の問題に対する認識を広めるための取り組みの一環という。
カナダでは、トロント・ドミニオン銀行(TD)とカナダロイヤル銀行(RBC)が、メタバースのパイロットプログラムを実施し、テクノロジーを理解し、顧客にサービスを効果的に提供できるよう、取り組みを進めている。TDは今年、1月から4月にかけてパイロットプログラムを実施、カスタマーエクスペリエンスに関する取り組みなども行った。
Web3金融サービスにも対応
銀行のメタバースにおける取り組みは、上記のような仮想土地の購入などにとどまらない。
銀行は、ファイナンシャル・アドバイザーやウェルス・マネージャーに、Web3ベースの金融商品への準備をさせている。これには、メタバース・トークンの時価総額の上昇、ミレニアル世代・X世代・Z世代の顧客による暗号資産投資へのシフトに後押しされたメタバースETFやメタバース・インデックス商品なども含まれる。
コンサルティングファームのキャップジェミニ(Capgemini)が発表したレポート「Wealth Management Top Trends 2023」を見ると、世界の富裕層(High-Net-Worth Individual:HNWI、100万ドル以上の投資可能資産を持つ個人と定義される)の70%がデジタル資産に投資しており、40歳未満のHNWIの10人中9人以上が暗号資産を「好みの投資資産クラス」として選んでいる。
メタバースが金融サービス分野に与える影響は、銀行と資本市場の次の進化を示している。金融関係者の多くは、最も影響力のある暗号資産であるビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)のみならず、暗号資産について幅広い教育が必要と考えている。
そして、暗号資産に精通した銀行が増えるなか、メタバースにどれほどのことが可能か、どれだけの価値があるかが重要になってきている。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
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|原文:Banks Have Come to the Metaverse