米証券取引委員会(SEC)が大手暗号資産(暗号資産)取引所のバイナンス(Binance)とコインベース(Coinbase)に対して対決姿勢を強めているが、欧州連合(EU)の欧州議会は4月に「暗号資産市場規制法案(Markets in Crypto-Assets Act:MiCA)」を可決。ブロックチェーン・イノベーターに明確さを提示すると当局者らが言う、まったく新しいフレームワークを提示している。
アメリカよりも優位に
Web2の世界で圧倒的な影響力を持つインターネット大手企業には、EUを本拠地にしている企業はほとんどない。しかしEU内には、他の地域よりも先に規制を整備して、市場の反応を見るアプローチをヨーロッパが採用することで、優位に立つことができるのではないかとの意見もある。
つまり、MiCAによってアメリカとの競争が有利になると主張する人がいる。アメリカでは、SECが明確なルールを設けることなく執行措置を連続させているとの不満が大手暗号資産企業から出ている。
「企業から聞こえてくることは、現在その多くが成長や安全性の確保、リスク管理を求めていること」と欧州委員会の経済成長担当首席エコノミスト、ヨアヒム・シュヴェリン(Joachim Schwerin)氏は指摘。
「アメリカではこの先、何が起こるかわからない。だから、こちらにやって来る。これは我々にとって良いことであり、競争上良いことだ」
SECは5日にバイナンス、6日にコインベースを提訴。既存の法律の下ではソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、ポリゴン(MATIC)などの暗号資産は有価証券にあたるとして、暗号資産の取引、清算、仲介サービスを提供するためにはSECに登録すべきだったと主張している。
バイナンスUSはSECの主張について「根拠がない」と反論。コインベースの最高法務責任者ポール・グレワル(Paul Grewal)氏も、アメリカの競争力を損なうものだと述べている。
一方、EUのシュヴェリン氏は「我々は、規制当局がオフィスに座って誰かがアドバイスや情報を求めてやって来ることを待ち、その人が出ていく前に逮捕するかどうかを決めることができるとは考えていない」「それは我々がヨーロッパで行っている分業ではない」と述べた。
異なる規制アプローチ
EUはアメリカとは異なるアプローチを採用し、個別のテーラーメイドの仕組みを法制化。推進者らは、暗号資産が目的としていることによりマッチしていると述べている。
MiCAの主要交渉人で、経済的にリベラルな「欧州刷新党(Renew Europe)」代表のオンドジェイ・コヴァジーク(Ondřej Kovařík)議員は、MiCAはアメリカで見られるような不確実な執行措置は排除するとの見方に同意しているようだ。
コヴァジーク氏は、米当局の態度は「好きにさせておいて、その後で止めさせるもので…(中略)EUにはそのようなアプローチはない」と述べ、最近のSECの動きはヨーロッパにとって「チャンスになり得る」と続けた。
MiCAが提供する新しい枠組みを求めて、複数の企業がヨーロッパへのシフトを検討するかもしれないと聞いており、一方で、法律は良い形で施行される必要があると強調した。
EUおよび加盟各国の規制当局は、今後12~18カ月の間にMiCAの詳細について策定する予定。コヴァジーク氏は「うまくいかなければ、こうした方向での取り組みは簡単に覆される可能性がある」と述べた。
フランスは、MiCA可決前から最も発展した暗号資産ライセンス制度を持っていたと考えられており、海外移転するアメリカ企業は「歓迎」と同国の規制当局は述べている。
一方、アメリカでは、共和党のパトリック・マクヘンリー(Patrick McHenry)議員が、暗号資産はイノベーションを後押しする可能性が高いため、ヨーロッパが暗号資産関連の立法化において相対的に成功していることは「アメリカ人の背筋を凍らせるはずだ」とコメントしている。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:林理南
|画像:Ralph/Pixabay
|原文:U.S. SEC Enforcement Could Boost Europe’s Crypto Chances, Officials Say