イーサリアムの本質を脅かすミームコイン詐欺

価値のないトークンの価格を絶え間なく吊り上げる行為は、イーサリアムブロックチェーンの評判を脅かし、存続に関わる脅威となっている。

インフルエンサー詐欺師

このようなミームコイン・カルチャーは、暗号資産(仮想通貨)業界でも最も慢性的に、影響力に溺れた人たちによるもので、そうした人たちは「インフルエンサーの絶望の穴」の中に存在している。

それはは深く、暗い穴で、詐欺師まがいのインフルエンサーたちがお互いを蹴落としながら登りつつ、最も手頃な個人投資家を標的にする場所。インフルエンサーの穴は、音声配信サービス「Twitterスペース」という形で存在している。しかし、ただのTwitterスペースではなく、人々を衰弱させる場末の酒場のようなところ。そこであなたは、財布をなくしてしまう。

イーサリアムブロックチェーンは誰でも使えるので、どんな人でもイーサリアムブロックチェーンを使えてしまうことは、根本的なパラドックス。イーサリアムブロックチェーンが地元の公園だとしたら、ミームコイナーたちは、捨てられたスピーカーで音楽を聴いている手に負えないティーンエイジャーの集団のようなものだ。

例えば、あなたはゼロ知識(ZK)証明など高度なテクノロジーに取り組んでいる開発者、あるいはL2ソリューションを手がけている組織の代表者としよう。有益な何かに果敢に取り組んでいるが、一方で決してスマートとはいえない人たちがツイートするだけで100万ドルも稼いだと聞くと、歯ぎしりせずにはいられない。

イーサリアムのようなオープンソースネットワークには、常にミームコインが付きものだ。しかし、暗号資産が広く普及するためには、業界は価値のない利益追求の最悪の形態であるミームコインに一致団結して対処する方法を見つけ出す必要がある。

ミームコイン詐欺がもたらすものが、どれほど実のないものかについては、もはや絶望的なものを感じる。

ペペコイン(PEPE)が誕生した時、チームはこのプロジェクトが純粋なミームであることをはっきりと認めた。業界がマスへの普及に向けて努力を続けているなか、ミームコインを生み出した無名のチームのゲームで、他人の不幸を食い物にする人間として生計を立てることはとても虚しい。まるで、車輪を発明したものの、それを使ってぐるぐる回るだけのような、心ないアルゴリズムによる頻繁な売り買いに過ぎない。

ミームコイン詐欺の現状

Twitterスペースはひどい惨状となっている。ミームコイン関連のスペースは、理由もないのに不愉快なほど大声で進行することを法律で義務付けられているかのようだ。

出演者のうち少なくとも3人は、PFP(プロフィール画像)に同じくらいひどいNFTを使っており、1時間の間にいくつかの軽犯罪を犯したことを認める。オーディエンスの少なくとも75%は、DeFiプロトコルの取引で損をしたことがある。

嫌な気分になる前に「インフルエンサーの穴」が何をするのかを思い出してみよう。

個人投資家をだまし、金融的ニヒリズムこそが真実であるという概念を売り込む。ブロックチェーン(あるいは暗号資産やWeb3)は単に投機に過ぎないという考え方を助長し、人生における唯一の選択肢は十分なスピードで必死に稼ぐことと教える。

ここ最近のトレンドは、痛々しいほど陳腐だ。記事にするのも恥ずかしいほど、低俗な詐欺が続いている。インフルエンサー詐欺師たちは、過去にミームコインで儲けている場合が多く、イーサリアムアドレスを投稿して、そこにイーサリアム(ETH)を送るよう指示し、米内国歳入庁(IRS)が検知しないことを祈るだけ。この詐欺の暗黙の了解は「リターンはない」ということ。このような取引をするくらいなら、実際の財布に火をつけたほうがましだ。

このような人道に対する犯罪に対して、どのような罰が適切なのかはわからない。初犯の人は、イーサリアムのTシャツを着て、マイアミで開催されるビットコイン・カンファレンスに出席しなければならないということでいいのかもしれない。

再犯の場合は、もっと厳しい罰、例えば最長2年間は暗い部屋に閉じ込めて、暗号資産起業家リチャード・ハート(Richard Heart)氏のモノローグを繰り返し聞かせるといった罰が必要だろう。

あるいは、インフルエンサー詐欺師全員をどこかの島に流刑にするのもいいだろう。

「NFTピット・アイランド」という偽のカンファレンスを企画し、島民を買収して派手な装飾でインフルエンサーの注意を引き、島から飛行機が出発しないようにすることだけを目的とした分散型自律組織(DAO)を作るというものありだ。

パーミッションレスゆえの歯痒さ

ここには本当の問題が存在している。インフルエンサー詐欺師たちは「あなたは何も得られない」と事前に言っているのに、あなたはそれで満足する。しかしその根底には、もっと暗いメッセージが潜んでいる。私たちは何もすることができないのだ。これは、ブロックチェーン・コミュニティに内在する「パーミッションレス」というパラドックスだ。

パーミッションレスは、イーサリアム・カルチャーにおいては越えてはならない一線、譲れないテーマだ。難しいことは抜きにしても、もしパーミッションレスという特徴を失ったら、イーサリアムは存在しないことになる。

技術的な解決策が禁止されている以上、社会的な解決策という選択肢しか残されていない。イーサリアムブロックチェーンを国際的な都市と想像してみよう。そこには開発者、オーガナイザー、研究者からなる市庁舎がある。DeFi(分散型金融)が行われる金融街もある。NFTのボヘミアン地区も。メインストリートに住む普通の市民もいる。そして、詐欺師たちが暮らす怪しげなダウンタウンもある。

ダウンタウンは、人気NFT「Bored Ape」保有者をソーシャルエンジニアリングしようと企んでいる人たちがいる犯罪多発地区「Skid Row」ほど悪くはない。他の都市と同じように、自分は安全な地域に身を置き、警察が対処してくれるよう期待することもできる。

ただし、イーサリアムには警察が存在しない。分散型でパーミッションレスなカルチャーでは、現実の世界の法律のように制裁を加える人はいない(もちろん、イーサリアムブロックチェーンの外では政府が制裁を課せる)。

つまり、ReFi(再生経済)に携わる人たち「Regen(リージェン)」のカルチャーの長期的なメッセージが、恐れを知らない暗号資産トレーダー「Degen(ディジェン)」たちの近視眼的なカルチャーを凌駕し、未熟な段階に追いやるような雰囲気、文化的背景を作らなければならない。

リージェンとは、イーサリアム・カルチャーの中で、テクノロジーがマイナスの外部性を生むことなく、長期的に社会にプラスの影響を与えるように献身する人たちのこと。

ギットコイン(GitCoin)の創設者であるケビン・オウォッキ(Kevin Owocki)氏の言葉を借りれば、どうすればより多くのイーサリアム支持者を「ディジェン」ではなく「リージェン」に向かわせることができるかを考えなければならない。

イーサリアム議会

ここで私は少し異端なことを提唱したい。私はイーサリアムブロックチェーンは「市民議会」を導入すべきだと考えている。私の母国アイルランドでは、無作為に選ばれた市民が、アイルランド憲法に関連する重要な問題を議論するために召集される。イーサリアムブロックチェーンに憲法はないが、さまざまなステークホルダーが重要な問題を議論するために集まる年次フォーラムには価値があるかもしれない。

オープンソースのコンセプトである「多くの人の目があれば、1人の目よりも早く問題を解決できる」に似て、イーサリアム議会では緊急の問題(例えば、ステーキング分野を支配していると言われる分散型サービスLidoをどうするかなど)だけではなく、積極的な努力によって、人々をディジェンではなくリージェンになるよう促す方法についても検討できるだろう。

バリデーターから開発者、アプリケーション開発者、普通の投資家まで、各ステークホルダー・グループの市民が集まり、詳細な議論を重ねることができる。

そして、何よりも重要な効果は、コミュニティ全体にプロトコルに対する責任感を促し、技術的な問題と同様に社会的な問題も重要だという考え方を紹介できることだ。

あるいは、詐欺師たちにETHを送り続け流こともできるが…

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:カエルをモチーフにしたぺぺコイン(ぺぺコインのツイッターより)
|原文:The Memecoin Grift and How It Threatens Ethereum Culture