米証券取引委員会(SEC)が先週、最大規模の2つの暗号資産(仮想通貨)取引所を提訴したことは、訴状に記載された19のトークンに萎縮効果をもたらし、これらのプロジェクトは世界の他の地域への移転を余儀なくされるかもしれないと、法律の専門家たちは指摘。だが同時に最終的な影響はまだ不透明と述べた。
その間、業界でもよく知られたプロトコルのネイティブトークンは、1つを除いて過去7日間で2桁の下落を記録するなど、低迷が続いている。
データ会社ファンドストラット(FundStrat)のデジタル資産リサーチ責任者ショーン・ファレル(Sean Farrell)氏は「今回の提訴は、SECの最近の戦略を注視してきた人にとっては驚きではないだろう」と述べ、「SECは、大きな法的負担でオンランプを抑えつけ、海外に移動するように仕向けている」と続けた。
SECは先週、バイナンス(Binance)とコインベース(Coinbase)を未登録の証券を提供したなどの容疑で提訴した。提訴は、暗号資産が「証券」なのか「コモディティ(商品)」なのか、あるいはそれ以外の何かにあたるのか、以前から提起されてきた疑問を浮き彫りにしている。
早い段階での警告
SECは今年3月、コインベースに「ウェルズ通知(Wells notice)」を送り、提訴する可能性があると警告、4月にはコインベースが通知に対して回答していた。ウェルズ通知とは、SECが企業に対する執行措置を計画していることを知らせる通知。バイナンスについては、SECは何年も前から監視を続けていた。
バイナンスに対する訴訟では、同プラットフォームの独自暗号資産のバイナンスコイン(BNB)、バイナンスに関係するステーブルコインのバイナンスドル(BUSD)を取り上げている。
暗号資産アナリストは、アメリカの大手取引所は規制当局との衝突を恐れて、BNBの上場を避けているのではないかと推測。あるアナリストは「各取引所はおそらく、バイナンスネットワークの集中化を踏まえ、BNBを証券と見なして、上場していないのだろう」と述べた。
どちらの訴訟も、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、ポリゴン(MATIC)、コティ(COTI)とアルゴランド(ALGO)、ファイルコイン(FIL)、コスモス(ATOM)、 サンドボックス(SAND)、アクシー・インフィニティ(AXS)、ディセントラランド(MANA)、ボイジャー(VGX)、チリーズ(CHZ)、ニア(NEAR)、フロー(FLOW)、ダッシュ(DASH)、ネクソ(NEXO)、インターネット・コンピューター(ICP)など、数多くのトークンは証券にあたると指揮している。
「これらのトークンは現在、やや宙に浮いた状態に置かれている」と、イギリスに拠点を置く法律事務所Clifford Chanceの弁護士ジェシー・オーバーオール(Jesse Overall)氏とスティーブ・ガッティ(Steve Gatti)氏は述べる。
「司法判断が下されるまでの間、トークンを取引する市場やその他の市場参加者、そして場合によっては開発者にとって、アメリカにおいては不確実性と一定のリスクが生じることになる」と弁護士らは続けた。
ただしオーバーオール氏とガッティ氏は、SECがトークンの作成者を追及するのではなく、トークンを上場させた取引所を提訴したことに注目している。
アメリカ撤退
SECが勝てば、暗号資産取引所はアメリカ市場からの撤退を余儀なくされると考えるアナリストもいる。
「問題は、この戦いが法廷に持ち込まれるかどうかであり、そうなれば、暗号資産が証券であるかどうかという問題を解決するうえでは、SECよりも裁判官の方が客観的だろうと業界関係者の多くが考えている」とSECの法律専門家ロン・ゲフナー(Ron Geffner)氏は語った。
「SECが勝利した場合、取引所、発行業者、多くのサービス提供事業者は、アメリカで事業を継続したいかどうか再検討する必要があり、継続する場合には、過去の活動や将来の取引に関連して、連邦証券法を遵守できるかどうか、どのようなやり方が最善かを決定する必要がある」(ゲフナー氏)
ゲフナー氏と同様にファレル氏も、SECが勝利した場合、トークンがアメリカで上場され続けるとは考えていない。ファレル氏は、議会が最終的に「一定期間内に徐々に分散化していくようなトークンを立ち上げるチームのために、セーフハーバー(猶予規定)を作る法案」を可決することを望んでいると述べた。
プロトコルの反応
ソラナ財団は声明の中で、SOLは証券ではないと考えているとして、次のように述べた。
「SOLは、堅固でオープンソース、コミュニティ基盤のソフトウェアプロジェクトであるソラナブロックチェーンのネイティブトークンであり、分散化したユーザーと開発者の関与に頼って拡大、進化している」
同様にNEAR財団も先週、ブログでNEARを訴状に含めたSECの判断に同意しないと主張し「財団は適用されるアメリカの証券法に違反していないと考えている」と述べた。さらに「財団はスイスで規制を受けており、NEARトークンはスイスの法律では、(証券としてではなく)決済トークンに分類されている」と指摘した。
カルダノの開発会社IOGも、ネイティブトークンであるADAが証券であるというSECの主張に反論。「どんな場合においても、ADAは連邦証券法上の証券では決してない。これまで証券であったことは一度もない」とIOGは提訴を受けて述べた。
ポリゴンラボ(Polygon Labs)は、MATICは「アメリカ国外で開発」され、「アメリカ国外で展開」され、「幅広い層の人が利用できるが、いかなる時もアメリカを対象としない行動のみにおいてである」と述べた。
しかし、人気取引アプリのロビンフッド(Robinhood)は6月9日、ADA、SOL、MATICを6月27日に上場廃止にすると発表。これらのトークンを上場しているアメリカの他の取引所は、今のところまだ行動を起こしてはいない。
コインベースとバイナンスを相手取った訴訟は、将来の似たような提訴を避けるために、他の取引所が特定のトークンを上場廃止にするきっかけとなるかもしれない。
法律事務所Linklaters LLPのアメリカフィンテック責任者兼ブロックチェーン・デジタル資産責任者、ジョシュア・アシュリー・クレイマン(Joshua Ashley Klayman)氏によると「バイナンスとCZ(バイナンスのCEO)に対するSECの訴えは、他の取引プラットフォームや市場参加者が今後直面する可能性のある告発のロードマップとなる」可能性が高い。
価格
バイナンスへの訴状で言及された12のトークンはすべて、ここ1週間で下落。特にディセントラランドとサンドボックスが最も大きな打撃を受け、それぞれ26%、27%下落した。
コインベースに対する訴状で言及されたトークンも下落し、チリーズは30%近く下落した。
ファレル氏は、下落は買いのチャンスとなるかもしれないとして、次のように述べた。
「これらの訴訟とそれに続く下落は、売りを促し、今後数日の間には堅実な再参加のポイントを作り出すかもしれない」
STORMのマネージングパートナー、シェラズ・アフメド(Sheraz Ahmed)氏は、短期的な売りは予想されていたことであり、回復を見込んでいるとして、次のように続けた。
「これらのトークンの多くがブロックチェーンの優良プロジェクトに関連していることを忘れてはならない。コインベースの株価が13%下落した後、まるで提訴などなかったかのように素早く以前の水準まで回復したことと同様に、これらのトークンもしっかり回復すると予測している」と続けた。
未知の領域
オーバーオール弁護士とガッティ弁護士は、開発者やユーザーが今回の提訴にどう反応するかは、まだわからないとし「トークンのユーザーは、トークンが設計されたそもそもの目的である使い方で、さまざまなアプリやプロトコルでの利用をやめるのだろうか?」と問いかけた。
「これらの資産は伝統的な証券ではないため、法的には未知の領域にあると言っていいだろう。当初、投資契約の一部として提供されたかもしれない資産の二次取引に連邦証券法がどのように適用されるのか、あるいはこの問題について司法判断が下されるまでの間、その資産がどのように扱われるべきかを示す判例はほとんど存在しない」とオーバーオール弁護士とガッティ弁護士は指摘した。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Nikhilesh De/CoinDesk
|原文:SEC’s Binance, Coinbase Suits Create Uncertain Future for Listed Tokens: Legal Experts