「ヒンマン文書」公開で注目──SEC vs リップル社の裁判の行方

「ヒンマン文書」がついに公開された。文書は、米証券取引委員会(SEC)とリップル(Ripple)社の間の法廷闘争において重要な役割を果たすと考える人もいる。リップル社は、エックス・アール・ピー(XRP)13億ドル相当を違法に販売したとしてSECから提訴されている。SECはXRPを「証券」と見なしている。

「ヒンマン文書」の意味

リップル社は、SECが同社を不当に標的にしていることを示すとされるこのヒルマン文書を裁判資料とするために、懸命に戦ってきた。ブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)CEOは、公開は「待つ価値があった」と述べた。

公開された文書がリップル社の主張を証明したと全員が確信しているわけではないが、SEC上層部からの何百もの内部メッセージは、SECがビットコイン(BTC)の後に誕生した暗号資産を規制するかどうか、どのように規制するかについて決して明確な方針を持っていたわけではないことを示している。

ことの発端は2018年、SEC企業財務部長(当時)のウィリアム・ヒンマン(William Hinman)氏がヤフーサミットで講演し、イーサリアム(ETH)はネットワークが誕生時から「十分に分散化」されていたため、本来は証券として分類すべきではないとスピーチしたことだ。

仮にイーサリアムがリリース時には証券だったとしても(トークンセールの実施方法を考えると、その可能性は極めて高いとSECは指摘している)、ブロックチェーンネットワークは進化し、状況は変化し得る。

関連記事:XRP、元SECディレクターのメール公表で一時上昇

リップル社の狙い

スピーチは、当時のヒンマン氏のイーサリアムブロックチェーンに対する理解に基づいており、リップル社はXRPは証券ではないと主張しているが、同社はヒンマン氏の考え方を特に参考にしたわけではない。リップル社は、XRPは時間とともに「分散化」したという同様の理由で主張するのではなく、ヒンマン氏の考え方が連邦証券法の正しい理解に基づいていないことを主張しようとしている。

つまり、リップル社はその後の不統一や齟齬の原因となったことを理由に、これらの文書を公表させるために戦った。ガーリンハウスCEOは、SEC内でコンセンサスが得られていないにもかかわらず、ヒンマン氏がスピーチを行ったことは「間違いなく受け入れがたい」と述べ、「意図的に混乱を引き起こした」と付け加えた。

これは、SECが明確な法的根拠なしに、リップル社と幹部を訴えたという同社の主張を支持するものだという。さらにリップル社は、SECは証券法違反の可能性についての「公正な通知」を行わなかったとして手続き上の問題を指摘している。

SECの過去と現在のスタンス

SECはこの数カ月、ヒンマン文書の公開を避けるよう戦ってきた。同氏の発言は同氏だけのものであり、SECの見解を表すものではなく、裁判とは無関係と主張している。

実際、ヒンマン氏のスピーチに関するSEC内部のコミュニケーション(スピーチ前に同僚に求めたフィードバックなど)は、多くのSEC関係者が足並みを揃えていたことを示しているが、結果的にスピーチは全員の意見を代表していたとは言えないだろう。

例えば、SECのブレット・レッドファーン(Brett Redfearn)取引・市場部長(当時)は「イーサリアムが証券ではないと断言したいのであれば、文言はもっと強くていい(つまり、そう言えばよい)」と述べている。

あるいは、別の人はヒンマン氏のスピーチが「将来的にイーサリアムについて別の立場を取りたい場合」、SECには足かせになるかもしれないと指摘した。だが、今、SECを率いているゲンスラー委員長には、こうした指摘は関係ないようだ。ゲンスラー委員長は、自身の見解と矛盾することにはまったく関心がないようだ。

おそらく、SECでは当たり前のことなのだろう。裁判官は、SECが文書を法廷に出さないようにすることは不道徳な行為だと述べている。

さらに、リップル社の重要な主張の一つは、ヒンマン氏とSECの倫理部門とのメールによると、ヒンマン氏が当時Enterprise Ethereum Allianceに加入していた法律事務所に関係しており、ヒンマン氏のスピーチには明らかな利益相反が見られたというものだ。

リップル社の主張

リップル社は、XRPについていくつかの点を主張している。第一に、同社は何年も前から、ネットワークやトークンを作成したのは自分たちではないと述べている。だがこのチェーンにおける最上位の開発者であり、XRPの普及からおそらく最も実質的な利益を得る組織だ。

さらに、おそらく紛らわしいことだが、同社はXRPはコモディティであり、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)のように、多様な投資家、開発者、企業にとって取引価値のあるリソースの一種だと主張している。

XRPネットワークは時間の経過とともに分散化したという考え方にはいくつか有利な点がある。他のパブリック・ブロックチェーンと同様に、誰でもXRPを使って開発したり、ネットワークを使って、資産を移動させることができる。

2013年後半、リップル社はプログラムをすべて公開し、理論的には特定の関係者の関与なしにネットワークを維持するために必要なツールを提供した。マネーグラム(MoneyGram)のような企業が、ある種のクロスボーダー取引にこのネットワークを利用している。

悪の元凶?

だが「XRPアーミー(熱心なXRP支持者)」以外の多くの人たちにとって、リップル社はブロックチェーン業界にとって悪の元凶ようなものだった。これはおそらく同社のトークン配布計画によるもので、それはまさにSECが疑問視しているものだ。

現在のいくつかのプロジェクトと同じように、リップル社は発行予定の1000億XRPを管理し、コミュニティ、初期投資家、同社創業者に配布することを決めた。

そして、同社は反論するかもしれないが、ネットワークとしてのリップルは、その誕生時点から実際にはあまり分散化されていない。長年にわたり、リップルのすべてのクライアントは、デフォルトでリップルの検証ノードのみを信頼するように設定されていた。

「トラストレスな取引」が存在理由であるビットコインブロックチェーンやイーサリアムブロックチェーンとは大きく異なる。つまり、リップル社がバリデーターをコントロールすれば、基本的にはXRPレジャーをコントロールできる。

裁判の行方は

ここが、SECが提訴する際に指摘した点だ。「XRPレジャーでコンセンサスを達成するプロセスの間、ネットワーク上の各サーバーは、サーバーのUNLとしても知られる、信頼できるサーバーのサブセットから提案されたドランザクションを評価する」とSECは述べ、Unique Node Lists(UNL)、つまりブロックチェーンのコンセンサスメカニズムに参加できる人をコントロールできる仕組みに触れた。実際、ほとんどのユーザーはXRP財団のdUNL(「d」はデフォルトの略)を使っている。

リップル社の訴訟では、このような技術的詳細が議論されることはめったにない。実際、議論のほとんどは同社の戦略に対する完全な誤解に根ざしているようだ。

リップル社の裁判は、ブロックチェーン業界の将来にとって間違いなく重要だ。SECが初めてトークンを「証券」だと主張した2020年、コインベースなどアメリカの取引所はXRPを上場廃止するなど、きわめて大きな影響を与えた。

裁判は具体的には、暗号資産はSECの「ハウィー・テスト」(あるものが証券にあたるかどうかをチェックするテスト)の項目を満たしているという法的解釈が問題になっている。

リップル社は「投資契約」は存在せず、XRPはダイヤモンド、ゴールド、大豆、自動車など、コモディティと共通点が多いとして、XRPは証券にあたるとするSECの主張を否定している。

つまり、リップル社はSECの主張が正しいか間違っているかを危惧している。だが、分散化についてはまったく気にしていない。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:ブラッド・ガーリングハウスCEO(CoinDesk)
|原文:Ripple Does Not Care Whether XRP Is ‘Sufficiently Decentralized’