XRPアーミー、なぜ戦い続けるのか(前編):部屋の中の大人たち

ブラッド・カイムズ(Brad Kimes)はプロのドラマー。30年間、ロック、ファンク、ブルース、R&Bなど、いろいろなバンドで演奏してきた。起業を志した彼はバンド活動の合間をぬって、ビーチで使えるベビーサークルを発明。中国で業者を見つけ、国際的な輸入取引を行うことになった。国境を越えた支払いのために、彼は 「SWIFT」と呼ばれる不便な国際金融システムを使うことを余儀なくされた。

SWIFTは時間がかかった。コストもかさむ。「追跡番号がないんだ」とカイムズ氏は語り、「6日後に支払いが相手に到着すると、その間に為替が動いていたことがわかる。そうすると、差額を支払わなければならないんだ」と続けた。

もっと優れたソリューションはないだろうか?

ビットコインよりもXRP

そこで、暗号資産(仮想通貨)の登場だ。

これは暗号資産ではよく聞く「誕生秘話」。私はこのような話をたくさん聞かされてきた。伝統的な金融を使って何かシンプルなことをしようとすると、面倒な事態に直面して失望。そこからひらめいて、「そこでビットコイン(BTC)を発見したんだ」となる。

だが、カイムズ氏はすでにビットコインを知っていた。でも、ビットコインを適切なソリューションとは思えなかった。その代わりに、より安く、より速く、より効率的だと彼が信じる、もっと新しいものを見つけた。

エックス・アール・ピー(XRP)だ。

主にリップル(Ripple)を共同設立したチームによって作られ、当初はジェド・マッカレブ(Jed McCaleb)によって「マイニングのないビットコイン」として構想されたXRP。銀行や企業、金融システムを念頭に置いて設計されている。

ビットコインの非公式モットーが「自分自身の銀行になろう」ならば、XRPのモットーは「銀行を改善しよう」という、少し控えめなもの。XRPは、暗号資産業界の支配的なイデオロギーの大半とは相容れない。何年もの間、XRPは暗号資産業界の多くから無視され、見過ごされ、完全に軽蔑されてきた。

ジョン・ディートンとその娘(Twitter)

「テクノロジーはちゃんと機能する。できると言っていることをきちんと実行してくれる」とカイムズ。さらにリサーチを重ね、彼はXRPが、銀行のきわめて非効率なプロセスをいとも簡単に解決してくれるツールになり得ると確信した。しかも、エネルギーを大量に消費するプルーフ・オブ・ワーク(PoW)モデルのマイニングを必要としない。

「ビットコインは同じ問題を解決するために、はるかに多くのお金がかかる」

しかし、ビットコインは「何が可能であるかを私たち皆に示してくれた」ので、ビットコインに対して敵意はないとカイムズ氏は続けた。ビットコインは言うなれば、ポケベルや初期の折りたたみ式携帯電話のような、重要な足掛かりとなるテクノロジーと考えているのだ。しかし「もう誰も初期の携帯電話を使っていないだろう」というのがカイムズの考えだ。

ビットコインの理念には共感

カイムズは、ビットコインの理念に共感している。「ホワイトペーパーに描かれているビットコインは、アンチ銀行、アンチ体制的」とカイムズ。

「私の中のリバタリアン(自由主義者)は、そこに大いに惹かれる。私の中のリバタリアンは、そこに夢中だ。そうだ! 既得権益を打倒しよう!という感じだ」

その後、カイムズはひと呼吸おいた。そして、重要な免責事項を付け加えた。「私も大人だ」と、52歳のカイムズは語り、次のように続けた。

「大人として、既存の企業、システム、政府、世界各国の中央銀行が、そのような戯言を相手にしないことは理解している」

カイムズは銀行や政府は好きになれないかもしれないが、ビットコインのような分散型マネーが実際に、そのようなシステムを転覆させると想像することは馬鹿げているとも思っている。彼に言わせれば、政府は「(サトシ・ナカモトという)名前もない人物に好きに仕切らせる前に、戦車や銃を持ち込んでくるだろう。そんなことは起こり得ない」。

カイムズは今、XRPについて毎日伝えているコンテンツ「Digital Perspective」で、そうしたメッセージを語っている。ドラマーである彼は今、なぜXRP、そして銀行システムとの親和性の高さが、ビットコインのアンチ体制的な精神よりも成功する可能性が高いかについて、ドラムを叩くかのように派手に宣伝している。

カイムズはビットコインについて、「体制側はテクノロジーを止めることはできないが、課税して規制し、消滅させてしまうことはできる」と語った。

XRPアーミー

カイムズは「XRPアーミー(XRP Army)」と呼ばれるXRPコミュニティの中心人物。XRPアーミーは、暗号資産業界の多くの人が嫌っている。XRPは長い間、「本物の」暗号資産プロジェクトではないと嘲笑されてきた。

※「アーミー」は熱烈な支持者・ファンを意味する。暗号資産では「柴アーミー(SHIBArmy)」も存在する。人気K-POPグループ「BTS」のファンが「BTSアーミー」と呼ばれることはよく知られている。

BTSのアーミーたち

(批判者の主張では)真に分散化しておらず、流通する1000億XRPの大部分をリップル・ラボ(Ripple Labs)が保有し、それを決まったスケジュールで流通市場で売却し続けているからだ(XRP支持者は「中央集権的すぎる」という批判はかつては的を射たものだったかもしれないが、今はそうではなく、リップル・ラボはXRP Ledgerのほんの一部しかコントロールしていないと反論している)。

XRPアーミーは、外部の人間からはリップルの批判者たちへの攻撃、FUD(fear、uncertainty、doubt:恐怖、不確実性、疑念)への抗議、そして価格吊り上げに対する称賛で知られている。アーミーはときに「リップルやXRPを無視することは、自己責任で」といった、威嚇的でどことなく脅迫的なツイートをする。

このような状況は何年も前から続いている。XRPアーミーは非常に影響力が強く、2018年には米CoinDeskが毎年発表する「暗号資産で最も影響力のある人物」に選ばれたほどだ。

「XRPアーミーは主にその規模と組織力によって、他とは一線を画している。他のコインの場合、その長所に疑問を投げかけても、一握りの反発が生まれるだけ。しかしアーミーの攻撃は、数、強さ、持続時間、一貫性の点で比べものにならない」と米CoinDeskのデイビッド・フロイド(David Floyd)は当時の記事で指摘している。

フロイド記者がそれを知っていたのも当然だ。彼がこの記事を書く前から、XRPアーミーが彼を攻撃するために動員され、彼を「雇われ者の暗殺者」、絶望的なほどに「嫌いな人物」「妄想性障害」に苦しむ人物と呼んでいた。

「部屋の中の大人」

さらに最近では、フォーチュンの編集者ジェフ・ロバーツ(Jeff Roberts)が『Ripple and XRP may finally be for real(リップルとXRPがついに本物になるかもしれない)』と題した、XRPにおおむね好意的な記事を書いた時でさえも、XRPアーミーの一部は、ツイッターで彼を攻撃した(ちなみに、私は攻撃されてはいない。取材を申し込んだXRPアーミーの一部に無視されたが、敵意を向けられることはなかった)。

XRPアーミーには有害なツイートを行うような声高な過激派がいるのが事実なら(そもそも暗号資産業界にはそうした人は数多い)、カイムズのような現実主義者が多くいることも事実。

現実主義者たちはユーティリティを重視し、自分たちを「部屋の中の大人」(この表現は、取材の中で何度も耳にした)と考えている。ラスベガスで先日開催された、カイムズ主催のXRPコンベンションを例に取ってみよう。

ビットコイン・マイアミには、魔法使いの格好で来た人もいたが、ベガスにやって来たXRP信奉者の多くは、スーツを着た年配の男性だった。ビジネスマンだ。ある参加者は私に「私は37歳で、部屋の中では最年少者の1人だった」と語った。

グローバル・ステーブルコインに

ベガスにやって来たXRPインフルエンサーの1人が、XRPについてのコンテンツを毎日伝えている、DAIこと「Digital Asset Investor(デジタル資産投資家)」だった。彼は数年前、Coinmarketcap.comをスクロールし、トップ30の暗号資産とそのリーダーチームについてリサーチして、リップルのプロジェクトに魅了された。

「MITやハーバードの学位を持つ起業家たちが集まっていたのは、リップルだけだった」とDAIは振り返り、「彼らは皆、血統書付きのシリコンバレーの大物たちだった。私は『これは何か違う。何か特別だ』と感じた」と語った。

DAIは、この「部屋の中の大人たち」が文字通り、他の有力者と同席できるような大人たちである点が気に入っている。ビットコインがアウトサイダー(部外者)のものであるならば、XRPはインサイダー(関係者)のためのもの。

「(リップルCEOの)ブラッド・ガーリングハウスがスイスで香港中央銀行の人物と同席していたことを知っている。彼はロシアの中央銀行の人物とも同席したことがある」とDAIは述べ、「わかって欲しい。これは私たちが5年間リサーチし、夢中になってきたことなのだ」と続けた。DAIはリップルは「世界中の50もの中央銀行と協力してきた」と考えている。

XRPの魔法は、(中央銀行のような)組織が大規模な流動性プールを持つ必要がなく、決済のための即時的なツールを提供できることだとカイムズは語る。リソースが自由になり、お金を節約することができる。このためカイムズとDAIは、いつの日かXRPは世界のステーブルコインに指定される可能性があると強気だ。XRPはドルや人民元、ユーロに取って代わるものではなく、これらすべての架け橋となるというのだ。

ここまでの話はすべて、XRPアーミーがXRPの現実世界でのユーティリティに純粋に強気であることを伝えるための前置き。彼らは、XRPが現在のシステムを改善し、広く採用され、価格が最終的に 「月に届くほど高騰」すると期待している。

低迷する価格

しかし、XRPアーミーは不満も抱えている。

問題は、XRPが月に行っていないこと。近づいてすらいない。2018年1月、ビットコインが当時の史上最高値2万ドル近くを記録した頃、XRPは3ドル強。その後の弱気相場で価格は低迷。2021年にビットコインが復活した時には、XRPアーミーは自分たちの保有するXRPも同じようになるだろうと期待した。

ビットコインは6万ドル超え、つまり前回のサイクルの史上最高値の3倍にまで上昇した。同じロジックなら、XRPは9ドル、もしかしたら10ドルに到達するはずだった。

XRPの2019年からの価格推移(CoinDesk)

しかし、2ドルを超えることすらできなかった。

価格は50セント程度に低迷し、XRPアーミーの多く、特に1ドル以上で購入した人たちは、不満で苦々しい気持ちにさせられた。

価格低迷の明らかな理由は、2020年12月のリップル・ラボに対するSECの提訴。こちらは最近になって、ようやく解決に近づいているように思える。

しかしこれは、話の一部に過ぎない。カイムズ、DAI、そしてXRPアーミーは、XRPがビットコインとイーサリアムに遅れをとった理由について、異なる仮説を持っている。それは、コミュニティを活気づけるような爆発力のある仮説だ。XRPアーミーの外で語られることはほとんどない。

それは、CoinDeskが記事にすることは決してないだろうと彼らが思っていたほど、刺激の強い仮説でもある。「ETHGate」と呼ばれている。(後編に続く)

※敬称略

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why the XRP Army Keeps Fighting