ブラックロックのビットコインETF申請は一大事

世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)が暗号資産(仮想通貨)取引サービスを計画していると初めて報じられたのは2022年2月のこと。そして先週、ついに動きがあった。

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ブラックロックのETF(上場投資信託)ブランドであるiシェアーズ(iShares)が6月15日、スポット(現物)のビットコイン(BTC)をベースにしたETFの承認を米証券取引委員会(SEC)に申請した。

信託かETFか

オンラインでの議論にはつきものだが、多くの人が言い回しにばかり囚われて、中身のない議論に終始している。つまり、申請されたこのファンドは、本当にETFなのか、それとも単なる信託(トラスト)なのか?という議論だ。奇妙な疑問だが、ブラックロックの申請書類の1番上には、申請されたファンドの名前として「iShares Bitcoin Trust」と記載されている。

先へ進む前にはっきりさせておくと、ブルームバーグのエリック・バルチュナス(Eric Balchunas)記者がツイートしたように、「SPDRゴールド・シェアETF」もまさにこのような仕組みなだ。トラストだが、ETFのように機能する。

あまり詳細に触れないで説明すると、もしiShares Bitcoin Trustが承認され、毎日設定と償還が行われれば、ETFと同じように見え、同じように機能することになる。誰が、厳密に「トラスト」かどうかを気にしているのだろう?

答えは「多くの人たち」だ。グレイスケール(Grayscale)のビットコイン投資商品「グレイスケール・ビットコイン・トラスト(Grayscale Bitcoin Trust:GBTC)」を考えてみると、市場は「トラスト」という言葉に不安を感じているようだ。GBTCはビットコインを保有し、顧客は店頭取引で証券の形で原資産であるビットコインに投資することができる。現状、GBTCはビットコイン価格と比べて、大きなディスカウント率で取引されるため、不安が広がっている。

明確に言うと、グレイスケールのウェブサイトによれば6月15日時点で、GBTCの価格は1口あたり13.40ドル(約1900円)に対して、GBTCが保有しているビットコインの価格は1口あたり23ドル(約3260円)となっている。

これは、多くの理由から好ましくない。しかし、ブラックロックのプロダクトは大筋ではETFであるため、同じ問題は起こらないはずだ。とはいえ、厳密にはトラストだが、大筋ではETFであるブラックロックのiShares Bitcoin Trustについて考えるべき興味深い点は、取引所とビットコインに与える影響だ。

取引所への影響

バイナンス(Binance)が今年3月、手数料無料のビットコイン取引サービスを終了して以来、さらにはそれ以前、昨年11月にFTXが破綻して以来、ビットコインの流動性は低迷してきた。FTXに関して言えば、破産処理を担当しているチームは、FTXが顧客に対して保証すべきビットコインをすべて見つけることはできていない。

さらに、言うまでもなく弱気相場が市場参加者を遠ざけている。

市場の流動性が乏しくなるに伴って、価格は変動している。しかし、iSahresのファンドが承認され、ブラックロックがビットコイン市場に参入すれば、流動性にまつわる懸念を一挙に払拭してくれる可能性は大きい。ブラックロックのビットコインETF申請の注目度の高さはすごいものだ。ブラックロックは世界最大の資産運用会社。申請されれば、少なくともビットコインETFに正当性があるというお墨付きが与えられ、多額のお金を呼び込むだろう。

そうなれば、ビットコイン価格も上昇するかもしれない。だが、それ以外にこの先、私が非常に重要になると考えるポイントが2つある。

まず、取引所は少し恐怖感を持つべきだ。新規投資家がビットコインへの投資を考え、ユーティリティなど、ビットコインの魅力となる側面を気にしないとすれば、そうした新規投資家はできるだけ安い価格でビットコインを購入しようとするだろう。

ビットコインを実際に使うことに興味のない投資家が、はるかに手軽にETFを購入できるのに、わざわざ取引所で1%の取引手数料を支払うだろうか?

ビットコインの供給上限を超える

次に、ビットコインの供給量には上限があるため、ブラックロックの現物ETFが登場すれば、“ペーパー”ビットコインの拡大が加速するかもしれない。

ビットコインプロトコルでは、一定数のビットコインしか存在し得ないことになっているが、金融市場はもちろん、そんなことは言っていない。金融市場はあらゆる量のビットコインをはじめ、ほぼ何でも表せてしまえる金融プロダクトを可能にしてしまう。

ビットコインのドル建て価格は、ビットコインに対して取引所がどれだけのドルを支払うかによって決まり、その額は市場が決める。そうなると、ビットコインの実質的な供給量を、その供給量上限を超えたものにしてしまうようなデリバティブ市場に対する大規模な投機から、市場が影響を受けないようにする手立てなどあるだろうか? 潜在的には何もない。

もちろん、SECがブラックロックの申請を承認するかどうかはわからない。これまでのところSECは、申請されたすべてのビットコインETFを却下している。その理由は、ビットコイン市場が操作される可能性があるからだ。

しかし、申請されたブラックロックのETFには、市場監視機能の強化が記されており、初のビットコインETFが誕生すると見ているアナリストもいる。そしてなんと言っても、申請者はブラックロック。SECがブラックロックにノーと言ったりするだろうか?

ビットコイン価格が上がっても、下がっても、適正価格に落ち着くとしても、iShares Bitcoin Trsutが承認されることになれば、一大事だ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:pbk-pg / Shutterstock.com
|原文:BlackRock’s Bitcoin ETF Would Be a Big Deal