証券と分類されたら、暗号資産はどうなる?

米証券取引委員会(SEC)はこれまでに、少なくとも68のトークンを証券と分類している。この数はSECがこの数年間に、暗号資産(仮想通貨)企業、プロモーター、開発者に対して起こしたさまざま訴訟で言及した暗号資産の数を合計したものだ。

ソラナ(SOL)やカルダノ(ADA)といったよく知られたトークンをはじめ、さまざまなトークンが含まれており、合計すると時価総額が1000億ドル(約15兆円)にも達するトークンを、SECは違法に取引されていると主張していることになる。

されに、ゲンスラーSEC委員長は、ほぼすべてのトークンがSECの管轄下にあるという自らの意見を明確に表明している。ただし、ビットコイン(BTC)は例外。そしておそらく、イーサリアム(ETH)も。

時価総額は第2位、アクティブユーザー数はトップのイーサリアムについて、もっと明確さがあれば良いのではないだろうか? 答えは、もちろんイエスだ。しかし、ルールは明確だと繰り返すゲンスラー委員長の主張とは裏腹に、少なくともアメリカにおいては、暗号資産の規制上のポジションについては現在、確証を持って言えることは驚くほど少ない。

「証券」というラベルが与える影響

もっともな疑問をひとつ、例に取ってみよう。証券と分類されたトークンで何ができるのだろうか?

ある意味、言葉は単なる言葉であり、ブロックチェーンが本当に「十分に分散化」していれば、法律でどのように規定されようと、ユーザーはトークンを取引し、オープンソースコードを使用できるはずだ。これらはそもそも国家に縛られないネットワークだ。

それでは、証券と分類されたトークンで何ができるのだろうか? 答えは、証券と分類される前にできていたことすべてだ。

だが、こうした解釈は多くの暗号資産ユーザーが中央集権型の取引所やサービスプロバイダーを使って、暗号資産を購入している事実を無視している。中央集権型の取引所やサービスプロバイダーは基本的にはルールに従わなければならない。取引所やサービスプロバイダーがトークンを上場できないいために、ユーザーがトークンにアクセスできないとすれば、「国家に縛られない通貨」やオープンソースアクセスといった議論は多くの人にとって無意味。

証券と分類されたトークンで何ができるのだろうか? SECが設定する制限に応じて、あらゆることができたり、できなかったりする。

劇的な影響はない?

米インターコンチネンタル取引所(ICE)の子会社で暗号資産サービスを提供するBakkt(バックト)の法務責任者マーク・ダヌンジオ(Marc D’Annunzio)氏は、トークンが証券と分類されることは2つの大きな影響をもたらすと考えている。潜在的投資家に会社が開示しなければならない情報と、資産を提供できる方法だ。

制限は、登録済みのブローカーディーラー、証券取引所、その他の取引システムなど、資産を合法的に提供できるプラットフォームのタイプを限定的なものにし、「適格投資家」以外がトークンを取引できるかどうかにも影響を与える。

「証券と分類されることが、トークンのユースケースに劇的な影響を与えるとは考えていない」とダヌンジオ氏は語る。

しかし、ロビンフッド(Robinhood)やコインベース(Coinbase)、イートロ(eToro)などの企業がトークンへのアクセスを合法的に提供できるかはきわめて重要だ。

ソラナやカルダノへの影響

質問を言い換えた方が良いかもしれない。誠実なアメリカ国民がソラナやカルダノを取引できないような世界に私たちは向かっているのだろうか?

前述の通り、ソラナとカルダノはバイナンスとコインベースに対するSECの訴状の中で証券とされており、一部のトレーディングプラットフォームが上場廃止としたトークンの中でも、時価総額が大きなものだ。トークンを上場したままにするか、上場廃止にするかの判断に使った具体的な判断指標について、弁護士から確かな答えを得ることは非常に難しい。

ソラナとカルダノは少なくとも私に言わせれば、他のほとんどのブロックチェーンと同じくらいに分散化しているといえるが、アメリカでは取引が厳しく制限される可能性はある。これには先例がある。XRPだ。

XRPという前例

SECは2020年、XRPを手がけるリップル(Ripple)を提訴。XRPは証券であり、リップルは10億ドル相当以上のXRPを違法に販売したと訴えた。SECの主張ではXRPは、資産が「投資契約」であるかを判断するために導入された「ハウィー・テスト(Howey Test)」の要件を満たしていた。他人の努力から生まれる利益を見込んで資産に投資していれば、資産は証券と認定される。

その定義であれば、暗号資産は多くの場合、少なくとも証券に類似していることになる。率直に言って、多くの人が暗号資産を購入するのは、他人が開発、維持するネットワークやアプリケーションの成功をもとに利益を上げられると期待するからだ。他のユーティリティ(NFTの場合はアート作品と関連づけられているという「内在的価値」)を持っているとしても、これは否定できない。

しかし、トークンが投機や投資以外の用途で使われていることが明らかな場合は多く、株式や債券、ETF(上場投資信託)などのSECの管轄下にある伝統的資産とは一線を画す、暗号資産の新しい特徴を考慮すべき理由も多い。

ここで重要なことは、XRPは証券だとSECが主張したことで、アメリカの多くの取引所がXRPを上場廃止にしたことだ。

オフショア取引所

だが、CoinMarketCapによると、XRPは今でも健在だ。SECがリップルを提訴してから3年、時価総額はトップ10に入っている。しかし、XRPの取引高のほとんどは、アメリカ国外のオフショア取引所で発生している。

これはある意味、トークンが証券と認定された場合に何が起こるかについての、もっともわかりやすい例だろう。現行の取引所エコシステムを考えれば、アメリカのユーザーはアクセス不可能だが、例えば、ビッサム(Bithumb)、ビットスタンプ(Bitstamp)、クーコイン(KuCoin)のアカウントを持っていれば世界中で(アメリカでは、VPNを使えば)取引可能だ。

取引高No.1の世界最大の暗号資産取引所バイナンス(Binance)が含まれていないことに気づいた方もおられるだろう。敢えて書かなかった理由は、今、SECに訴えられているからだけでなく、次のポイントを明確にするためでもある。

バイナンスのXRP取引高は現在、他の取引所の取引高の合計を上回っている(ただしSECによると、多くのウォッシュトレーディングが行われているという)。

だが仮にバイナンスが存在しなくても、ただ別の取引所に移動するだけだ。ブロックチェーンはオープンであり、トークンは適切なノウハウを持っていれば常にピア・ツー・ピアで取引できる。つまり、十分な需要があれば、トークンを簡単に提供する方法を誰かが見つけ出す。極端な例だが、暗号資産が地球上のあらゆる国家で禁止される壊滅的な事態が起きたとしてもだ。

今後の見通し

現実的には、暗号資産に敵対的な地域もあれば、フレンドリーな地域もある。つまり暗号資産は常にどこかに居場所を見つける。暗号資産にまつわる規制上の不透明感は、業界の中で特に重要なプロジェクトが一般化していることが要因でもある。

暗号資産には天然資源のように機能する一面があるため、SECによって規制されるべきではない、あるいは現実のコモディティのように扱い、商品先物取引委員会(CFTC)の管轄下におくべきだと多くの人たちが主張している。しかし、皆がそうした意見に同意しているわけでもない。

例えば前述のバックトは今年、ブローカーディーラーを買収。その理由は「証券と判断されたトークンを提供するために有益だから」とダヌンジオ氏は語る。ビットゴー(BitGo)やコインベースなど、同様のアプローチを採用している企業は他にもある。

このような取り組みは、SECが求めている監視要件の一部を満たすことができるが、暗号資産にまつわる規制の不透明感すべてに完全に対処できるものではない。

暗号資産のリスクに関する情報開示の原案は誰が作るべきなのか? 例えばソラナの場合、バリデーターなのか、それともソラナ財団だろうか?

暗号資産に特化した弁護士ガブリエル・シャピロ(Gabriel Shapiro)氏は、暗号資産は基本的にトークン保有者によって共同所有され、従業員(暗号資産の場合は、マイナーまたはバリデーター)が運営する非営利企業の株式に相当すると主張している。シャピロ弁護士によると、トークンは「誰にも保有されていないネットワークの株式を購入することに最も近い」という。

しかし、暗号資産と伝統的な株式が徹底的に異なるのは、そのテクノロジーがオープンであるように設計されている点。取引サービスを提供する事業者の力を制限するルールを設けることはできるが、ネットワーク自体は規制を超えたところにある。

「SECは、どのトークンが証券に当たる可能性があるかについて、ハウィー・テストをゆるやかに解釈しているようだ」とダヌンジオ氏は指摘。「これらの問題は究極的には、訴訟や連邦法を通じて解決できるかもしれないが、SECの見解は、現在の状況においては間違いなく重要だ」と続けた。

暗号資産をトークンとして分類することは、ある意味では、トークンにアクセスできる人は誰かという点には影響を与えるかもしれないが、トークンを使って何ができるかには影響を与えないかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:What Can You Do With a Blockchain Token That Is Classified as a Security?