進化する通貨、中央銀行はどう考えているのか

ビットコイン(BTC)の進化をある程度の期間追ってきた人なら、これまでに「でも、お金じゃないだろう!」と数え切れないほど言われたことだろう。

ビットコインに批判的な人たちは、交換の媒体、勘定の単位、価値の保存という教科書的な通貨の定義を持ち出し、そのような要件が必須条件と言われたからという理由だけで必須条件と思い込み、ビットコインはその3つすべてを満たすことはあり得ないと主張する。

ビットコインの誕生が世界に与えた多くの価値あるギフトのひとつは、通貨の定義と有用性を問う必要性を感じさせてくれたことだ。ほとんどの人は、通貨とは何かを知っていると思い込んでいるが、その考えは常に自らの経験によって曇らされている。

私はかつて、伝統的金融業界で働いていたので、通貨とは何かを知っていると思っていた。しかし実際は、数字と混同していたことを知った。他にも、通貨を為替と混同している人や、通貨を収集品として扱っている人もいる。だが、通貨が有用であることを理解している点は全員が共通している。だから人は、通貨を欲しがる。

進化する通貨

イノベーションにあまり好意的ではない欧州中央銀行(ECB)が2015年に発表した説明資料の冒頭には、次のような明快な説明がある。

「通貨の性質は、時間とともに進化してきた」

しかし、ECBのファビオ・パネッタ(Fabio Panetta)理事は6月23日、国際決済銀行(BIS)年次総会でのスピーチで、「暗号資産(仮想通貨)は通貨の役割を果たすという主張を実現できていない」と語った。

もうひとつ引用しよう。

「暗号資産は革新的で頑健な金融形態に発展しておらず、むしろ有害な金融に変質している」

すべての暗号資産が同じ目的を持っているという基礎的な間違いはさておき、このスピーチはパネッタ氏の暗号資産の仕組みに対する理解が小学生レベルであることを浮き彫りにしている(小学生を侮辱するつもりはない)。

さらに、伝統的な市場についてもそうだ。暗号資産に対する彼のあらゆる批判は、通貨や証券市場にも同じように、あるいは暗号資産以上に当てはまる。通貨や証券市場の方が、はるかに長く存在しているからだ。

しかし、彼が言いたいことは、暗号資産業界は「今のところ社会的利益を生み出していない」ので、公的支援に値しないということだ。

暗号資産への無理解

そのような混乱自体は問題ない。ほとんどの人はまだ、暗号資産を理解していないのだから。私が憂鬱に思うのは、高官レベルのイベントでこのようなスピーチをすることが公式に承認されていることだ。

マクロ経済において重要な機関の高官が、欧州のニーズは世界のニーズであり、欧州の通貨に対する考え方は、世界の通貨に対する考え方であると主張している。しかもこの発言は、通貨が進化することを認識している機関の代表者の発言だ。

パネッタ氏は、ブロックチェーンを使った中央銀行デジタル通貨(CBDC)が開発される一方で、自由市場の暗号資産は規制されて無用なものとなるべきと考えているようだ。さて、ここからが本題だ。

パネッタ氏は必ずしも、通貨の定義の進化に反対しているわけではないようだ。中央銀行デジタル通貨をめぐる議論の激化は、この進化が避けられないことを示している(この件は後述する)。

パネッタ氏が反対しているのは、自由市場の進化だ。通貨にかかわることはすべて、その定義でさえも中央管理されるべきというわけだ。パネッタ氏の発言からは、その方が国民のためになると考えていることが伺える。市民が自由市場でイノベーションに投資したら痛い目にあう。だから中央管理された公的イノベーションは、そのようなことが起こらないようにするということだ。

別の角度から

BISの会議の続きも似たようなものだった。中央銀行の中央銀行にあたるBISは先週末、年次レポートを発表した。

142ページに及ぶレポートは、3つの章のうちの1つを「将来の通貨システム」に割いている。現在開発中のさまざまなCBDCとトークン化された証券ネットワークをつなぐ「統一台帳」のアイデアを詳しく説明し、資産のトークン化のメリット、特に所有権と決済を効率的に調整し、資産分配の透明性を向上させる能力を称賛している。

しかし、暗号資産については次のとおりだ。

「暗号資産と分散型金融(DeFi)は、トークン化の有望性を垣間見せてくれたが、暗号資産は欠陥のあるシステムであり、未来の通貨の地位を引き受けることはできない。暗号資産は現実世界との接点がほとんどなく、自己反映的なだけでなく、中央銀行が提供する通貨への信頼という支えを欠いている」

このレポートは、暗号資産はすべて「同じ」であり、これまでの実験はすべて失敗だったというパネッタ氏の見解と一致している。何が市民にとって良いことなのかを知るうえで、公的機関の方がはるかに優れていると主張している。

全体に通底するメッセージは「私たちは通貨が変化していることを認識しており、その変化の在り方を決定するのは私たちだ」というもの。通貨のように重要なものの変化は、自然発生的であってはならず、管理する必要があるという論理のようだ。

重要な疑問

掘り下げていくと、最終的には、通貨に関する公式の考え方さえも変わりつつあることがわかる。

ドイツ中央銀行の2人のエコノミストは6月、European Money and Finance Forumで『Empowering central bank money for a digital future(デジタルな未来のために中央銀行通貨に力を与える)』という論文を発表した。

これはドイツ中央銀行の公式論文ではなく、筆者らの個人的な見解。そのうちの1人は、決済システム分析部門の責任者マーティン・ディール(Martin Diehl)氏で、22年間、ドイツ中央銀行に勤務している。

この論文は、中央銀行デジタル通貨の設計について論じており、その指針は「形態は機能に従う」べきだと認識している。ここには、通貨の機能は普遍的なものではなく、不変でもなく、通貨の設計はその機能を考慮するべきという考えが反映されている。

しかし、通貨の機能とは何だろうか? 前述の教科書的な定義に戻ると、ある人にとっては決済メカニズムであり、別の人にとっては価値の保存であり、また別の人にとっては勘定単位である。伝統的な経済学者は、この3つすべてでなければならないと主張するが、中央銀行デジタル通貨がどのようなものであるべきかを決定する必要性に直面するなか、そのような仮定は崩れつつある。

レポートの別の箇所には、次のように記されている。

「決して変わってこなかったのは、通貨とは通貨がすることであるという点だ」

伝統的な定義を手放すことに苦労しながらも、著者らは、ブロックチェーンの誕生が大きな原動力となった技術的進歩によって、通貨の特徴をある程度分離できるようになったことを認めている。

通貨にできることは、テクノロジーによって影響を受けてきており、その形態について私たちは、まだ受け入れの途上にある。

通貨が(自動販売機やアーケードゲームのような)プログラム的な機能を生み出すことは常に可能だったが、現在はそれが洗練されてきている。通貨は常に収集品(署名された紙幣、歴史的な紙幣)としての可能性を持っていたが、現在ははるかに柔軟性が増している。通貨は現在、清算と決済の両方の機能を埋め込むことができる。通貨は現在、プログラム可能だ。

通貨の新しい姿とは?

そこで、CBDCは何をすべきかという議論に立ち戻る。プログラム可能であるべきか? アクティビティに応じて支払いを制限したり、支払いチャネルを変えたりしたいという誘惑に抗うのは難しいだろう。

さらに、プログラム可能な通貨は交換可能なのだろうか? 多くの人は、通貨は交換可能であるべきと考えている(現在はそうなっている)。

現在のホールセール型決済システムに取って代わるべきなのか、それとも単にそれに接続するだけなのか? 完全に置き換えることで、資金の流れをリアルタイムで追跡することが可能になるが、リスクは一段と高くなり、運用もはるかに複雑になる。

これらの疑問は、金融の実務家が自分たちで認識していなくても、通貨の本質が再考されていることを浮き彫りにしている。

一方、暗号資産開発者たちは境界を押し広げ、ユースケースを模索し、古い定義論が便利かもしれないという考え方をレガシー金融業界が話し合うことを待ち続けている。だが、もはやレガシー金融業界がルールを決めることはなく、彼らは変化の方向をコントロールできるほど強力でもない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:スイスのバーゼルにあるBISの建物(MDart10 / Shutterstock.com)
|原文:How Central Bankers Are Reshaping the Definition of Money