5月に始まった脚本家たちのストライキに加わる形で、ハリウッドの俳優たちもストライキを開始したが、これはWeb2エコノミーについての厳しい真実を反映している。ストリーミング・プラットフォーム業界のエコノミクスは機能しないことだ。
Web3という言葉から、メインストリームに対する魅力を取り去ってしまった不見識なメディアの解説を無視して、クリエイティブな制作に携わるすべての人は、Web3のソリューションに目を向けるべきだということを改めて思い知らせる事態でもある。
機能不全のWeb2エコノミー
新型コロナウイルスのパンデミックのなか、ネットフリックス(Netflix)、アマゾン・プライム(Amazon Prime)、フールー(Hulu)、ディズニー・プラス(Disney Plus)などのプラットフォームはマーケットシェアを巡って競い合い、コンテンツに巨額の資金を投じた。
だが今、長編映画、テレビシリーズ、ドキュメンタリーの製作者は門前払いされており、そのために俳優や脚本家に支払う資金がなくなっている。
音楽ストリーミングの場合、状況はおそらくもっと深刻だ。
スポティファイ(Spotify)がいまや、完全に市場を支配している。シリウスXM(Sirius XM)が所有するパンドラ(Pandora)は、すでにかつての面影はなく、2016年に伝説的なファイル共有サービスの名前を取得してナップスター(Napster)にブランド名を変更し、2022年にブロックチェーン開発企業のアルゴランド(Algorand)に買収されたたラプソディ(Rhapsody)も同様だ。
しかもスポティファイ自体は2009年の創業以来、一度も利益を上げたことがない。昨年は4億3000万ドル(約600億円)の損失を計上、これは過去3番目の額となった。
ミュージシャンのわずかな取り分
ミュージシャンの方を見てみると、スポティファイで曲がストリーミングされる度にアーティストが得られる金額は、わずか3分の1セントと言われている。シンクタンク、ミルケン研究所(Milken Institute)のインタビューで、ヒップホップ・スターのスヌープ・ドッグは簡潔にこう語った。
「10億回ストリーミングされているのに、100万ドルを受け取れないとはどう言うことか、誰か説明してくれないか? まったく意味がわからない」
プラットフォームでも、ミュージシャンでもないとしたら勝者は誰なのか?
10年前、スポティファイやその他のストリーミング・プラットフォームと数十億ドル規模の契約を結び、楽曲の使用許可を与えたことで悪名高いレコード会社かもしれない。スポティファイは先日、ロイヤリティの支払い総額が400億ドル(約5兆5400億円)に迫っていると発表した。
レコード会社は、自分たちの取り分をあまりに大きくし、ミュージシャンにはわずかしか残さないことで、自分たちのビジネスを破壊している可能性がある。新しいミュージシャンたちは、レコード会社に見切りをつけ始めている。
生活費を稼ぐために、彼らはコンテンツ・マーケティングに携わったり、オンライン・ゲームのサウンドトラックを制作したり、レコード会社やスポティファイに束縛される関係に入らずにお金を儲けるための他の方法を見つけている。
多くのミュージシャンがライブを重視しており、そこでグッズを販売したり、メーリングリストに登録してもらったり、観客がまだプレーヤーを持っていれば直接CDを販売したりしている。
しかし、テイラー・スウィフトでもない限り、ライブはアーティストを別の独占的仲介業者に依存させることになる。例えば、ライブ・エンタテイメント企業ライブ・ネイション(Live Nation)とチケット販売会社チケットマスター(Ticketmaster)の合併で生まれた、ライブ・ネイション・エンターテインメント(Live Nation Entertainment)だ。
新しい方法
ミュージシャン、映画製作者、その他のコンテンツ制作者は、このような超過利潤を得ようとする巨大な門番的企業を迂回する方法を見つけなければならない。そして、デジタル資産の真の信奉者たちが以前から言っているように、Web3はそのための道筋を提供する。
この3年間、NFT市場には多くの誇大広告やバブル、破れた希望があふれていたにせよ、このイノベーションは紛れもないブレークスルーを含んでいる。
それまでの、なんでも複製できるインターネットの世界では不可能だった、唯一無二のデジタル資産の創造だ。
NFTはデジタルの世界で、かつてファンとアーティストがLPや書籍、映画などによって築いてきたピア・ツー・ピアの直接的な所有関係を再現できるため、よりクリエイター中心なシステムの基本的構成要素となる。
収集可能なデジタルの石や、異常なほどに価格を吊り上げられたアートや猿の画像にまつわる投機的な狂気を乗り越えた今、新しいタイプのイノベーターたちは、NFTや関連技術を通常のコンテンツ制作に直接結びつけるようになっている。
その戦略とは、限られた数の「レア」なNFTが、「月に届くほど高騰すること」を期待して価格を吊り上げることではなく、ファンがコンテンツとの関わりから付加価値を引き出すためのアクセス・キーとして、NFTを利用することだ。クリエイターとファンをつなぎ、価値を付加し、共通の利害や所有の感覚を育むことを大切にしている。
先駆的な事例
そのような事例は、数多く展開している。
モナックス・ラボ(Monax Labs)が開発したWeb3プラットフォーム「アスペン(Aspen)」は、Steinzaの芸名で知られる独立系シンガーソングライター、ジェレミー・スタイン(Jeremy Stein)が、彼のNFTを購入してコンサートに来場したファンに、ライブのバーチャル上映会への独占アクセスや、コンサートのマルチメディア・メモリーを所有する機会などの特典を提供することをサポートした。
Web3ゲームを手がけるガラ・ゲームズ(Gala Games)は、ガラ・フィルム(Gala Film)という部門を立ち上げ、NFTを使って映像制作を支援するファンに価値を提供したり、スマートコントラクトを使用して、クリエイターと彼らを金銭的に支援するファンの双方に永続的に報酬を保証している。
あるプロジェクトでは、ガラはエミー賞受賞歴のある映画監督スティーブン・カンター(Steven Cantor)率いるスティック・フィギュア・プロダクションズ(Stick Figure Productions)と協力して、革新的な形で『Four Down』に資金を提供し、製作している。
このドキュメンタリーは、NFL選手のウィル・ブリークリー(Will Bleakley)とマーキス・クーパー(Marquis Cooper)を含む3人の友人を失ったニック・シュイラー(Nick Schuyle)が、メキシコ湾で転覆したボートの上で43時間生き延びた実話を元にした書籍『Not Without Hope』に基づくもので、舞台裏の映像や実地体験など、ガラ・コミュニティが独占的にアクセスできるコンテンツが用意される。
また、さまざまなベテラン漫画家たちによって設立されたアニメスタジオのトゥーンスター(Toonstar)は、『The Gimmicks』を含む番組の命名や「自分でアドベンチャーを選ぶ」方式の筋書き作りなど、プロジェクトの中身についてNFTコミュニティが投票できるようにしている。
小さくてもOK
これらすべてが、大成功を収めるのだろうか? もちろんそうはならないだろう。
しかし、ヒット主導のエンターテインメント業界は常にそういうものであり続けてきた。勝つものもあれば、負けるものもある。
それよりも重要なことは、ファンを巻き込み、クリエイターにファンとの直接的なつながりを提供することで、これらのプロジェクトには、大作に賭けることばかりに重点を置いている業界の勝ち負けの二項対立を超越できる、共通の体験がある。小規模なプロジェクトと、それに取り組む多くのクリエイターに活躍の場と可能性を与える、アーティストのための新しい道がここにある。
確かに「Web3」は、バズワードになった。そしておそらく、どのようなモデルが実際にそれに該当するのかを定義する作業が必要だろう。しかし、これらのイノベーションを否定することは、現在のWeb2エコノミーが機能しているという幻想の中で生きることに等しい。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ハリウッドの脚本家ストライキの模様(CLS Digital Arts / Shutterstock.com)
|原文:Hollywood’s Angry Creators Show Why Web3 Is Needed