現在のカルチャーや規制に関する世界中での議論からは、AI(人工知能)に対して、数多くの恐怖が存在していることがわかる。AIが世界を征服する。AIが仕事を奪う。AIがハリウッドを破壊する。さまざまなディストピアのシナリオが描かれている。
私もこんな事態になって欲しいとは思っていないが、私は根っからのAI楽観主義者だ。人間がかなり苦手とすることは多く、特に複雑な問題を解決することについては、AIに苦手な部分を手伝ってもらい、私たちと一緒に解決して欲しいと思うべきだろう。
それは、最初のビットコインブロック誕生以来、Web3の分野が取り組んできたこと、そのものでもある。いかにして、大人数の、分散化された、複雑な人々のグループを共通の目的のもとに調整するかということだ。私は、AIとWeb3を組み合わせることで、社会が最も複雑な問題に取り組むことを真に助けることができる分野があると提案したい。これがどのようなものなのか、現在のテクノロジーに基づいて100%の実現可能性がある、ひとつの例を示してみよう。
AIが得意とすること
- グローバルな規模であっても、多くの情報を収集し、統合
- 一連のパラメータに基づいて結果を評価
- 専門家からの明確なプロンプトに従って、リサーチやタスクを実行
ブロックチェーンが得意とすること
- ガバナンスのフレームワーク
- さまざまな国や地域で展開されるグローバルな資金プール
- 共通のプロトコルを中心とした参加者のグローバル・ネットワークのスケーリング支援
人間が得意とすること
- 有機的な経験から構築された、深い総合的な専門知識
- 情報に基づいた、微妙な意思決定
- 大切なテーマに関する知識と熱意をコミュニティと共有
複雑な問題に取り組むために、これらすべてを共生的な関係で組み合わることができたら、どうなるだろう?
何世代にもわたって人類を悩ませてきた、真に複雑でグローバル規模の問題、あるいはガン治療のような「Wicked problem(厄介な問題)」を解決するためには、何千人もの人々の行動や希望を調整し、戦略や資源配分について重大な決断を下し、多くの業界や国にまたがって膨大な量の管理を行う必要がある。
協力の例
では、ガン治癒のためのDAO(分散型自律組織)を考えてみよう。
研究所、学術部門、疾患コミュニティのコンソーシアムによって設立され、総勢1000人でスタートする。彼らは共有するミッションを決定し、戦略的決定を行う専門家からなる小規模なガバナンスグループを任命する。
ガバナンスの責任レベルが異なる参加者ごとのメンバーシップNFTを持つDAOをスタートさせ、キックオフのためのプールを割り当てる。そしてプロジェクトの規模が拡大するにつれて、AIエージェントを導入してプロジェクトを管理する。
ガバナンス委員会は、AIエージェントにKPI(重要業績評価指標)のリストを割り当て、コミュニティのために一連の管理タスクを完了するよう依頼する。
例えば、財務部門への寄付を管理し、新規メンバーを追跡し、明確な成果物に従って、DAOに代わって行われた仕事に対する支払いを行う。これにより、非営利組織やDAOにとって多くのリソースを消費しがちな作業にかかる、多くの時間と経費を節約することができる。
さらに重要なことに、委員会はAIエージェントに、ガン治療を前進させるための必要条件を評価し、作業のロードマップ、サブプロジェクト、参加可能な参加者、参加するのが良いと思われる世界中の機関、および実行する必要がある具体的なタスクを含む提案書を作成するよう指示する。
エージェントは長期的な計画を立て、それを実行するための一連の手順を提案し、専門家からなる委員会に提出して審査を受ける。
委員会は、ガン治癒DAOの最初の6カ月間の作業をカバーするために、AIから提案されたロードマップ全体を調整し、優先順位をつける。委員会はAIエージェントに権限を与え、AIがそれらの仕事をする人々を募集し、人々に仕事(大小は問わない)を割り当て、仕事の出来を評価し、資金から報酬を支払えるようにする。
AIエージェントは、ロードマップの最新情報を収集し、DAOのすべてのステークホルダーに進捗状況をこまめに報告し、この複雑なプロジェクトが包括的にチェックできるよう管理することで、局地的な貢献を効果的かつリアルタイムなものにすることをはるかに簡単にする。
時間が経てば、サブコミュニティを提案し、実験を管理し、増え続けるメンバー全体の調整を助け、異なる専門分野を管理する複数の委員会と交流することでプロジェクトを拡大することができる。
DAO委員会は、エージェントからの提案に拒否権を行使したり、進捗に応じてより効率的になるように提案を修正することができる。
時間が経つにつれて、AIエージェントが何かでうまくいっていないとガバナンス委員会が判断した場合は、モデルを改善し、ニーズに合うように微調整するために、その特定の分野で新しいトレーニングデータを発注することができる。
専門家コミュニティの中からオンチェーンでクラウドソーシングすることも可能で、彼らはその作業をレビューし、AIエージェントの改善を評価できる。
AIとWeb3の役割
このビジョンは、AIとWeb3の両方がなければ実現しない。 ガバナンス、ファイナンス、調整ツールのためにはWeb3が必要だ。AIの行動はすべてオンチェーンであり、グループのメンバーシップや寄付はブロックチェーンツールによって管理され、DAOのファイナンス部門と直接連携して完全な透明性をもって取引を行う。
AIは、専門家である人間と協力して、ブロックチェーンが支える監督と透明性を伴って働く限り、がん治癒DAOを運営するプロセスのあらゆる部分を合理化できる。すべてがブロックチェーン上にあれば、現在の社会的なシステムよりもはるかに優れた形で、リスクを監視し、信頼を管理することができる。
これは非常に高度な例だが、AIとWeb3をクリエイティブに活用することで、問題解決をより効果的に実現できるようになることを楽観的な方向から考えるきっかけになればと思う。
社会的な管理だけ、あるいはトップダウン型の指揮統制だけ、あるいはブロックチェーンだけでは、複雑すぎて管理し切れなかった多くのことをスケールアップできるようになるだろう。この分散型科学コミュニティ構築の例は、あらゆるグローバルな協調の問題や研究の取り組みにも応用できるだろう。
これらのテクノロジーはどれも、単独よりも組み合わせた場合の方が興味深い。AIがすべての仕事をこなすのではなく、AIは私たちの苦手なことをこなし、私たちが協調したり、より速く実行できるように手助けしてくれる。もし私たちが、先を見越したリスク管理を伴う、生産的な開発に焦点を当て、共有されたミッションのために人間とテクノロジーの長所を最大限に発揮できるような抑制と均衡を導入すれば、今後数年のうちに強力な実験が始まるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:How AI, Web3 and Humans Can Work Together to Solve Complex, Global Problems