暗号資産ヘッジファンドは業界に変化をもたらす

暗号資産ヘッジファンドは、数百社存在するようだ。コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパースによれば、2022年には300社以上だった。機関投資家の資金が流入するなか、その数は増加すると予想される。このような成長は業界の次の起爆剤となるだろう。

ヘッジファンドには、それぞれ独自のストーリーがある。ここで取り上げたのは、その1つに過ぎない。

CoinDeskの仕事のメリットは、多額の資金を動かす人物と直接話ができること。暗号資産における機関投資家の動きの、いわば最先端へのアクセスを享受できることにある。私は先週、アメリカの新興暗号資産ヘッジファンド、ヴァルマー・キャピタル(Valmar Capital)の最高投資責任者ジョナサン・マン(Jonathan Man)氏と話をした。同社は、マルチ戦略、アブソルート・リターン・アプローチを採用しながら、無相関リターンに焦点を当てている。

私たちの会話の幅広さも、暗号資産ファンドの仕組みの深さも、1つの記事で伝えることはできない。しかし、私はここから話を始めるのが良いと考えた。以下は私が学んだことの一部だ。

個人投資家の多くは個々のトークンに注目しているが、機関投資家は複数の戦略を組み合わせて利用する

個人投資家が特定のトークンにのみ注目していると語るのは大げさかもしれない。しかし、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、あるいはユニスワップ(UNI)に関する議論を耳にする可能性は、暗号資産の裁定取引、マーケットメイク、トレンドフォロー戦略の話を耳にする可能性よりも高い。

半年後(あるいは6時間後)に10倍に高騰する次のトークンを見つける人になりたくない人はいないだろう。話題になり、富(そして損失)を生み出すのは多くの場合、そうしたトークンだ。しかし、機関投資家がそのようなリスクを取るとは思えない。

私は、ヴァルマーの資産選択に対するアプローチと、それが資産そのものから始まるのか、それとも資産の属するセクターから始まるのかを尋ねているときに、このことに気づいた。マン氏の次の答えがコンテクストを与えてくれた。

「区別をしておきたいのだが、私たちの仕事は、資金の配分を行い、戦略全体のポートフォリオ・ミックスを決定することにある」

私は次のように解釈した。資金の45%をビットコインに、45%をイーサリアムに、残りをアルトコインに投資するということではない。機関投資家にとっては、例えば20%をマーケットメイク戦略に、30%をDeFiイールドに、50%を裁定取引とトレンドフォローに振り分けるという意味だ。

これは、個々の暗号資産を後回しにするという意味ではない。暗号資産は、主に特定の広範な戦略を展開するための手段だ。

資産よりも戦略に重点を置いて資本を配分することで、一般的な市場の変動へのエクスポージャーを抑えつつ、分散されたリターンを提供することができる。それはまた、これらの戦略の相関関係を監視し、戦略的規律を確保することが最も重要であることも意味する。

マクロ経済、暗号資産市場のダイナミクス、規制の明確化が最重要課題

私たちは金融政策、暗号資産の流動性、規制についても触れた。マン氏は、連邦公開市場委員会(FOMC)が金利を引き上げ過ぎたとの懸念を表明した。

「連邦準備制度理事会(FRB)が本当にインフレ率を2%に戻したいと考えていて、市場が史上最高に近い水準に戻ったと見れば、利上げに対する信認が高まるだけというリスクが存在し続ける」とマン氏。FRBがここ最近、インフレ鈍化で進展を見せていることをマン氏は認めつつも、FRBは歴史的に「本当に完璧にやり遂げたことはない」と述べた。

個々の資産レベルでは、暗号資産のような新興市場にありがちな問題が浮き彫りとなった。暗号資産が有意義な上昇を遂げるために進化する必要がある要素として、「流動性の低さ」と「借入能力の欠如」をマン氏は挙げた。

規制については、マン氏は楽観的な見方を示し、プロセスがゆっくりになる可能性を認めつつも、いずれは明確化されることを期待していると述べた。

ファンド運営にはさまざまな仕事が不可欠

私たちの会話で特に興味深かった話題の1つは、ファンド自体の成長とアプローチについてだった。繰り返しになるが、ヴァルマーのストーリーは数あるストーリーのうちの1つに過ぎない。しかし、ファンドを立ち上げ、規模を拡大し、運営することの難しさは、それを試みるすべての人が感じていることだろう。

特に、市場分析以外のことに必要とされる時間と労力が大きい。

これには、資本調達、アイデアの売り込み、その他もろもろが含まれる。地球上で最も優秀なトレーダーでも、取引する資産が必要だ。競争の激しい状況では、分析やマーケット・タイミングを超えたスキルが必要となる。

ヴァルマーのようなモデルを採用した機関投資家向けファンドは、多くの場合、複数の顧客層にサービスを提供している。1つ目の顧客層はパフォーマンスが強調される投資家、2つ目はトレーダー自身だ。

ヴァルマーのような会社は、独自のアイデアを実施・実行する一方で、独自の戦略を実行するための拠点を探している独立系トレーダーの潜在的な着地点としての役割も果たしている。この点では、運用の効率化、投資家とのつながり、データの提供といったサービスが考えられる。

デジタル資産投資運用の進化は、資産自体の進化と連動しているようだ。暗号資産ヘッジファンドを支えるフレームワークの多くは、伝統的な金融から派生したものであるように見えるが、暗号資産そのものを象徴するような新しさも数多い。

暗号資産ヘッジファンドの世界で次に何が登場するかは、市場価格そのものと同じくらい興味深い。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Hedge Funds Will Shake Up the Industry: Crypto Long & Short