GameFiによる社会貢献、社会課題の解決に向け3社が連携──FUELHASH、CAICA DIGITAL、DEAが目指すものとは

9月の東京ゲームショウでは、複数のブロックチェーンゲームが発表されると見られている。ブロックチェーンゲームは、プレイ・ツー・アーン(Play to Earn:P2E)という新しいコンセプトで日本でも広く注目を集めたものの、急拡大の反動とも言えるトークンの下落でそのビジネスの難しさ、特にサステナビリティ(持続可能性)への課題が浮き彫りになった。

そんな中、暗号資産運用プラットフォームを運用するFUELHASH、傘下に暗号資産取引所Zaifとブロックチェーンゲームに特化したNFTの販売システムであるZaif INOを持つCAICA DIGITAL、GameFiプラットフォームのPlayMiningを持つDigital Entertainment Asset(DEA)は6月、新しいGameFiビジネスの構築に向けた業務提携を発表。PlayMiningで使われる暗号資産ディープコイン(DEP)をZaifに上場するなど、積極的な動きを進めている。「GameFiによる社会貢献」を実現するという新しい取り組みについて、DEA共同CEOの山田耕三氏、ディープコインを取り扱うカイカエクスチェンジ取締役の池田英樹氏、FUELHASH代表取締役の紺野勝弥氏(写真左から)に話を聞いた。


3社が連携したシームレスなビジネスモデル

──P2EゲームのSTEPN(ステップン)は一時、暗号資産メディアだけでなく、一般的なメディアでも取り上げられるほど話題になりましたが、トークンが下落し、人気が一気に消散しました。日本では何がブロックチェーンゲーム、P2Eゲームのハードルになっているのでしょうか。

カイカエクスチェンジ取締役の池田英樹氏

カイカエクスチェンジ 池田:まず、2022年の時点では、ブロックチェーン、さらにはWeb3自体が「どのような利益をもたらすか」が大きな課題でした。ブロックチェーンゲームをプレイする日本人は実は多く、皆さん海外でプレイしています。一方で、海外のゲーム会社も日本のマーケットに対して「トークンを活用したゲーム」を提示できていない悩みを抱えていました。簡単に言うと、トークンを円に替える仕組みが無いので広がりようがありません。

P2Eゲームで一般の人たちを取り込みたいと考えたときには、その仕組みが無いと難しい。これまでブロックチェーンゲーム、P2Eゲームは、クリプトが好きな人たちが楽しんでいた状態が続いていたと思います。そこを今回、我々が「誰もやっていないのであれば、やってみよう」と始めました。

DEA 山田:さまざまなゲームギルドが日本でのユーザー拡大を狙っていますが、トークンが明確な障害になっています。トークンを手に入れても「投資対象として持っておいて、いずれ売ればよいのではないか」という感じでした。暗号資産やWeb3がこれから、社会に何を提示できるのかを考えた時に「長期的な投資対象で、売却するまでは何もしません」という話で済むわけがありません。今回の取り組みは、トークンの上場と同時に、トークンの使い方を提示するという極めてシンプルな話だと考えています。

池田:さらにNFTの課題として、PFPは売れるタイトルがかなり限られてきていることがあります。次の展開としてはPFPだけでなく、「ユーティリティを備えたNFT」が求められています。現状、ユーティリティを最も体現しているのはゲームです。ユーティリティ、円に替えられるゲームトークン、取引という3つを我々3社で提供していくことが、今回の座組だと考えています。

FUELHASH 紺野:世界を見ると、取引所、ブロックチェーンゲーム、そしてギルドは個々に存在していますが、3つが連携したシームレスなビジネスモデルは見られません。ディープコイン(DEP)がZaifに上場し、Zaif INOでPlay MiningのNFTを販売し、そのNFTを我々ギルドが預かって運用してDEPを手に入れ、その収益を法定通貨や他の暗号資産として戻していく。3社のエコシステムで完結するブロックチェーンゲームの新しいビジネスモデルの第一歩です。

P2Eゲームのスカラーシップとは

──P2Eゲームは東南アジアなどではコロナ禍での新しい収入として注目され、NFT保有者がプレイヤーにNFTを貸し出し、プレイヤーは収益の一部を保有者に戻す「スカラーシップ制度」が一般的になりました。初期投資が難しいプレイヤーも、P2Eゲームに参入できる制度です。NFTを借りてプレイするユーザーは、スカラーと呼ばれますが、スカラーの管理にはゲームのデータを活用するわけですよね。

Digital Entertainment Asset共同CEOの山田耕三氏

山田:スカラーの管理は、労務管理に近いイメージです。我々のゲームでは「JobTribes」「Cookin’Burger」のスカラー管理をFUELHASHが手がけるNFTによる資産運用プラットフォーム「FUELGUILD(フエルギルド)」で扱ってもらっていますが、ゲーム内にスカラーのマッチング機能がないので、ゲームの外側でマッチングから行ってもらっています。スカラーにはNFT自体ではなく、使用権を付与しているので持ち逃げされるリスクはありません。ゲームで上げた報酬はギルドに入ってくるので、これも持ち逃げのリスクはありません。スカラーに対しては、契約に基づいて給与を定期的に支払っているようなイメージです。

紺野:スカラーの管理は厳密に行っています。わかりやすく言えば、3日プレイしていなかったら、もうプレイできなくなります。

山田:ただし、フィリピンだと水害の被害にあって、連絡が取れなかったということが実際にありました。その際は、ギルドがスカラーに支援を提供するというような関係性もあります。

スカラーの仕組みは個人でも可能ですが、相手が信用できる人物かどうかをはじめ、管理はかなり大変です。FUELGUILDのようなきちんとしたところが大々的に展開していると、投資する側も安心できるますし、プレイする側も安心できます。そしてスカラーとしてプレイしていた人が、お金を貯めてNFTを買って、今後はギルドに預けて運用してもらう立場になっています。そうした流れが生まれ始めています。

──あまり詳しくない人からすると、P2Eゲームはそもそも「なぜ収益が上げられるのか」とまだ疑問があるのではないでしょうか。

山田:そこは、おそらく私が日本で一番自信を持って話ができます。大きく言うと2つあり、極端な言い方をすると、私たちが考えている仕組みと、私たち以外のゲーム会社が考えている仕組みがあります。今、ほとんどを占めているのは、ゲーム経済圏の中の利益をユーザーに分配するという考え方です。いわば、「収益があがる」ことをアピールしてお金を集め、運営者が利益を確保した後にその残りを分配する仕組みです。ゲームは成功すれば利益率が高く、一般的に売上の30%をマーケティングコストに充てていると言われています。P2Eゲームはうまく行けばマーケティングコストを省略でき、それをユーザーに分配できます。このやり方が多くのブロックチェーンゲームが考えているやり方です。

我々は少し違います。このモデルは楽しくないし、夢がありません。今、Web3ゲームが求められている理由は、今ゲームをプレイしていない人たちを巻き込むためであり、今、ゲームが実装していない役割をゲームに付与するためと考えています。

──具体的にはどのような役割でしょうか。

山田:具体的には、ブロックチェーンゲーム、P2Eゲームで社会課題を解決できます。これはWeb2ゲームでは不可能なことです。どれだけ楽しくて、どれだけマーケットが大きくなったとしても、Web2ゲームの延長線上に社会課題の解決はありません。我々は今、ゲームで経済圏が動き、その中で社会課題が解決できる仕組みを作り出すためにP2Eを核に、かなり壮大なロードマップを作り上げることにチャレンジしています。

つまり、P2Eゲームの本質は、ゲームを作る人、ゲームを遊ぶ人、場所を提供して仕組みを作る人の3者で、外側に対して価値を生み出し、外側から得た報酬を3者が貢献度に応じて分けること、これがキーコンセプトです。

この考え方は、YouTubeを例に考えるとわかりやすいでしょう。YouTubeは動画を作る人、それを楽しむ人、場所を提供しているYouTubeの3者が存在し、外側に対して広告売上を生み出して、経済圏に収益をもたらしています。しかし現状は、重要な役割を果たしている「動画を見ている人」には1円の報酬も入りません。多くの人は「当たり前」と思うかもしれませんが、私はすごく変だと思っています。誰が欠けても成立しない3者が連携して外側からお金を稼いできたのだから、それを分ければよい。これが我々のP2Eの考え方です。

新規のゲームユーザーを取り込むには、ゲームの体験価値や存在自体を変える必要があります。我々は、この座組でスピードを上げて、一直線に先に進もうと考えています。

ゲームによる社会課題の解決

──社会解決の課題は、具体的に例をあげるとどういうものになりますか。

山田:例えば、東京電力パワーグリッド(東電PG)と覚書を締結したものでいえば、電柱や鉄塔などの点検があります。ユーザーがマンホールを探して、写真をアップするという取り組みが話題になりましたが、東電PGは、電柱や鉄塔などの設備、いわゆる「電力アセット」の点検・補修に年間数十億円を投じています。その一部をエンターテインメント・コンテンツにしていくことは非常に生産的な取り組みになり得ます。

また、ゴミの分別処理のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を手がけるRita Technologyとは、ゴミの分別を遠隔のクレーンゲームのような仕組みで行うプロジェクトをスタートさせています。ゴミの分別は人の目と手が重要で、遠隔からクレーンを動かすようなシステムはすでにできています。ですが操作する人をどうやって見つければ良いかが課題でした。Web3ゲーム化すれば、すぐに人を集めることができます。こうした取り組みではエンターテインメントが複数の効果を発揮します。ゴミの分別で言えば、当然メインテーマは「リサイクル」ですが、一方で「雇用創出」にもなります。

──AIを使えば、分別はできそうな気がしますが。

山田:それが、まだ難しいのです。一方で電化製品の中にあるレアメタルなど、人間は「何か入っていそう」と勘でわかるそうです。とてもゲーム的です。例えば、障害がある方でも視線入力ができれば、現場のロボットアームを動かすことができます。具体的な取り組みを進めれば進めるほど、未来が明るく見えてくると感じています。

もう1つ、重要な視点になると考えているのは、ゲームは脳のエネルギーとか知見、あるいはネットワーク上でのやりとりなど、非常に多くのエネルギーが投入されていますが、今、そのエネルギーは個人的な体験として使われた後、全部捨てられています。非常にもったいない。

例えば、大規模な発電所でも我々の生活レベルでも、気づかれずに捨てられているエネルギーを回収して、何かに役立てることは文明の真骨頂のはずです。今、ゲームの市場は22兆円といわれ、全世界に30億人のユーザーがいて、自身の面白さを満たすことに費やしたエネルギーはそれ以外には使われていません。そのエネルギーを少し分けてもらって、社会課題の解決に使うという考え方は、おそらく我々が形を作ってしまえば多くの人に理解してもらえると思います。「ゲームは時間の無駄」と考えている人も「社会のためになりお金を稼げるなら、やってみようか」となるはずです。ゲーム業界にとっては大きな前進になると考えています。

スピード感を持って進める

FUELHASH代表取締役の紺野勝弥氏

──STEPNだとまだ暗号資産ユーザーが中心だったものが、大手ゲーム会社がブロックチェーンゲームを手がけ始めたことで既存のゲーマーも楽しめるようになってきています。今回の取り組みは、さらにそれを拡大して、ゲーマーではない人もターゲットにする取り組みといえます。

池田:どこかのタイミングでSDGsやESG、社会課題解決などを打ち出したいと考えています。従来であれば、障害を持った方に就業の選択肢はほとんどありませんでした。しかし、ブロックチェーンゲームを活用することで、稼ぐ仕組みを生み出すことができます。どのようなゲームが収益を安定的に生み出すことができるかがポイントになりますが、この座組で解決していけると考えています。実際に福祉関連の方から、現状の限定された仕事ではなく、楽しみながら生活費を稼げる仕組みを作れないかという相談を受けています。

取引所の立場で間ゲルと、今までブロックチェーンにまったく触れたことのないユーザーを取り込むことができます。取引手数料に依存する従来の取引所ビジネスはいずれ限界が来ると思います。新しいトランザクションを生み出す仕組みを作っていかないとますます難しくなる。大手は経済圏を作って、顧客を囲い込むような手法でビジネスを成立させようとしていますが、それはWeb3と逆行しています。

個々の得意なところを組み合わせて、同じ目標に向かっていくやり方でないと今後は難しいのではないでしょうか。

──試行錯誤という意味では、ブロックチェーンの有効性は先進国よりも、まだ基本的な仕組みが整っていなくて、政府も自国の通貨も信用できないという国々の方が高くなりますね。

紺野:東南アジアの人たちは、アメリカ、ヨーロッパ、日本など、世界中のさまざまな国に出稼ぎに行き、お金を本国に送金しています。その際、今は10%程度の手数料が必要ですが、ブロックチェーンが活用できれば、一気にコストが下がります。アフリカもそうだと思います。我々が運用しているギルドも東南アジアの人たちが中心です。

池田:今は「アメリカで事業をしているからグローバル」という状況は薄れてきて、ヨーロッパ、アジア、アフリカなども視野に入れることが新しい基準になっていると思います。それに東南アジアは、平均年齢が若いのでエネルギーが違います。

紺野:今回の取り組みは、今は「ゲーム」と呼んでいますが、「ゲーム」と呼ぶのか「仕事」と呼ぶのか、境界線が曖昧になってくると思います。例えば、「ベルギーでゴミの分別に人手が足りないらしいから、今、通勤電車に乗っている間に10分だけアクセスしよう」みたいな世界になるはず。何かのミスマッチや、物理的な世界ですでに固定されてしまっているギャップをデジタルで滑らかにすることが仮想世界やメタバースの本質的なコンセプトだと思います。

池田:その第一歩として、社会課題の解決、社会実装に向けて、今回の取り組みを着実に、スピード感を持って伸ばしていきたいと考えています。

|インタビュー:渡辺一樹
|文:増田隆幸
|写真:小此木愛里
※編集部より:対談者のお名前・肩書に間違いがありました。修正のうえ、更新しました。