ビットコイン支持者の多くが元々は「硬貨」を信頼する金(ゴールド)マニアだったこともあり、「デジタル・ゴールド」により多くのトレーダーを惹きつけようと考える仮想通貨企業が存在する。
ニューヨークを拠点とする取引所で、ステーブルコインを発行するパクソス(Paxos)は、パックス・ゴールド(Pax Gold/PAXG)と呼ぶ、金と連動した仮想通貨を開発した。このイーサリアムベースのトークンは、ブリンクス・ロンドン(Brink’s London)の金庫室に補完される金の延べ棒の法的所有権を包含している。パックス・ゴールドはニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)から認可を受けている。
「コモディティとしてではなく、実際に法的所有権がある」とパクソス・CEOのチャド・カスカリラ(Chad Cascarilla)氏は述べる。「今や『資産』は簡単に移動、分割でき、手動の作業に縛られることなく、まさにブロックチェーンの核心であり、前提となる」
1トークンが金1オンスと同価格で、ニューヨークのブリオン・エクスチェンジズ(Bullion Exchanges)のような提携施設でゴールドバー(金の延べ棒)に交換できる。ユーザーがロンドンやニューヨーク以外でも金に引換え可能となるように、パクソスは従来のコモディティ業界での提携先を広げる計画だ。
また、仮想通貨融資のベンチャー企業SALTは、PAXGと連動したローンサービスを提供しており、法定通貨またはPAX、トゥルーUSD(TrueUSD)、USDCといったステーブルコインを使用することができる。
「我々はこのような、実在の資産と連動し、ブロックチェーンに組み込んだ商品を増やしていく」とカスカリラ氏は述べる。
しかし、トークン化した金が、仮想通貨支持者の心に響くかどうかはまだ分からない。メサーリ(Messari)の共同創業者、ダン・マッカードル(Dan McArdle)氏は、中央集権的な組織が発行、保管する資産は、「デジタルな金」としての役割ではビットコインに対抗できない、とコインデスクに語った。
「ビットコインは金が有する特性のすべてを持つだけでなく、それを凌駕しており、現代においては、より優れた金なのです。」と同氏は述べた。「ビットコインのそのような性質は、現実世界において中央集権的な足かせが無いからこそ成し遂げられました。もしブロックチェーン上の存在を、比較的小規模な組織や人々が管理したのでは、絶対的な運営者や検閲が無いというビットコインの特性は生まれません。」
金取引は、より自由なものになるか
パクソスはビットコイン以外の仮想通貨に興味を持つ金トレーダーを探す必要がある。というのも、市場では仮想通貨に対して慎重な向きがみられるからだ。
貴金属の保管業を営むゴールド・マネー(Goldmoney)の創業者、ロイ・セバゴ(Roy Sebag)氏のようなビットコイン懐疑派は、自ら保管せねばならず、比較的代替が容易な仮想通貨が、広く金市場に対して、新たな、規制に則った使用事例をもたらすとは考えていない。また、顧客の身元確認についてもきちんとしなければならない。
「分散型ブロックチェーンに関しては、付加価値は皆無だ」と同氏は述べた。「許可を受けたクローズドシステムがあれば問題ない。我々は既に5年前からそれを行っている」
ワールド・ゴールド・カウンシル(the World Gold Council)の推定では、上場投資信託のような金に連動した商品は、2018年の世界の市場規模で約1000億ドル(約10兆7020億円)だった。2018年7月以降、パクソスのコモディティ取引プラットフォーム、ポスト・トレード(Post-Trade)は、貴金属取引を進めることで大量の金を確保していた。そして今やパックス・ゴールドにより個人投資家は、各プラットフォームを超えて幅広くデジタルな金取引に参加可能になろうとしている。
「我々は信頼できる資産保有者としてだけでなく、信頼できる参加者の見極め役として、皆様の道を開く存在です」とカスカリラ氏は述べた。「弊社のPaxステーブルコイン同様、監査もされます」
いつでもどこでも簡単に金を購入し、発注とは別の場所で受け取りたいようなトレーダーにとって、パックス・ゴールドは現物保有に対し、規制に則った代替案となり得る、と同氏は確信している。
「金を保有することができ、保管(カストディ)手数料を支払う必要はなく、24時間・356日、世界中どこでも送金が可能。これは金の歴史において画期的な商品でしょう」 とカスカリラ氏は述べた。
翻訳:石田麻衣子
編集:佐藤茂、T.Minamoto
写真: CoinDesk archives
原文:Paxos Launches Gold-Backed Cryptocurrency