ジャクソンホール:FRBの政策が決定される場所が持つ意味とは

FRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を臨機応変に決定することに専念している今、ワイオミング州で開催された今年の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」は、これまで以上に重要かもしれない。グランドティトン山脈にあるこのリゾートに強い関心が注がれた。

ワイオミング州ジャクソンから34マイル離れたところにある、のどかなホテルが、なぜ「世界で最も排他的な経済界の懇親会」の開催地になったのか? ニューヨーク・タイムズのジアンナ・スミアレク(Jeanna Smialek)記者が書いているように、ここはニュースが生まれる場所だ。カンザスシティー連邦準備銀行による超厳選された招待客リストに載れば金銭的に成功した証となる。

FRB議長に就任して以来、ジェローム・パウエル氏は毎年ここでアメリカ経済の流れを指揮してきた。問題はパウエル議長がうまくやる必要すらないことだ。パウエル議長は昨年、悲観的な見通しを予測したが、アメリカでは雇用が増加し、インフレが鈍化した。今年は次のように、ほぼ予測通りのことを言った。

経済成長は予想を上回っている。さらなる利上げが必要かもしれない。FRBはインフレ率を長年の目標である2%まで下げることを固く決意している、と。

高まる不透明感

こんなことを言うために、ワイオミングの森にキャビアを空輸してまで、あれほど派手な催しを開催したのか? 実は、物事はそれほど単純ではない。FRBの政策と見通しは基本的に変更されていないが、経済の不確実性はかつてないほど高まっている。

FRBが景気拡大を減速させるために利上げを継続することが明らかだったほんの数カ月前とは異なり、人々が好むと好まざるとにかかわらず、FRBは今、様子を見て待ち、本質的に予測不可能な経済の浮き沈みに基づいて調整している。

経済学に関心のある人にとって今は、生きるには最も興味深い時期のひとつだ。なぜなら、世界で最も重要な銀行家が、これほど運命に敬意を表する立場であることはなかったからだ。

彼の決断は依然として重要だ。金利を引き上げると、アメリカや世界中で生活費が上昇する。住宅ローンが高くなり、自動車も高価になる。パウエル議長のチームは、アメリカ人男性が新しいRV車を買うか、それとももう1年待つかを左右する。

ひとつだけ確かに思えることは、利下げによって資金がより安くなり、リスクカーブの端にある資産に資金が流入しやすくなる事態は、すぐには起こらないということだ。なぜそんなことがわかるのか?

パウエル議長は利下げに言及すらしなかったし、FRB担当の記者たちによればそれは、年内の利下げを期待していた人たちは全員待たされることを意味するからだ。

あらゆるデータがあるにもかかわらず、これは合理的なシステムではない。しかしそもそも、合理的になるように作られてはいないのではないかと、私は思い始めている。

インフレ率はどうやって測るのか? FRBはスタッフに給料を払って、食料品店を歩き回ってもらい、価格を書き留めてもらっている。人々を職場に届けることで経済を動かしているガソリンの値段は、まったく考慮しなくていいのだろうか? ガソリン代の変動が少なければ、そうかもしれない。

インフレ率の基準がなぜ2%なのか、調べたことはあるだろうか?

理由は、ちょうど良く感じられるからだ。ニューヨーク・タイムズが指摘しているように「消費者が快適に感じられるほど十分低いが、経済が繁栄するには十分緩やか」であり「何年も前に決められたFRBの教義によって」決着のついた政策だ。なぜ人々は、ワイオミング州ジャクソンに行きたがるのか、と問うようなものだ。そこが人々が集まるところだからだ。

対照的なビットコイン

比較的合理的に見えても、ビットコイン(BTC)にとって良い兆しとなるかどうかはわからない。BTCの値動きに文句を言うことは勝手だが、少なくとも来月に何ビットコインが流通しているかは誰でも知ることができる。

しかし、なぜサトシ・ナカモトはこの発行スケジュールに落ち着いたのだろうか? それが正しい決断だったと、私たちは確信を持てるのだろうか?

暗号資産(仮想通貨)と法定通貨のどちらか、という選択肢は完全ではないことを理解することに、自分でも認めたくないくらい長い時間がかかった。マイケル・セイラー(Michael Saylor)氏が全財産をビットコインに逃避させ続けそうだからといって、それが唯一の道というわけではない。

セイラー氏はある日、米ドルを「小さくなっていく氷」と呼んだことは間違いだったと気づくかもしれないし、FRBがインフレを抑制することに成功したことに気づくかもしれない(2022年6月のピーク時の9.1%から、現在は3.2%に減速している)。

これまでのジャクソンホールでのパウエル議長から学べる教訓があるとすれば、理想的な経済など存在せず、今ある経済があるだけということだ。パウエル議長がビットコインとこれほど違っていたことはない。来年の今頃、彼の政策がどうなっているのか、これほど不透明なことはないからだ。しかしそこには、ビットコインが事前にすべてを計算し尽くしているという確実さと同じくらい不条理な、ある種の安定感が感じられる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:「ジャクソンホール会議」の開かれる米ワイオミング州ジャクソンホール(Shutterstock)
|原文:Jackson Hole: Where Fed Policy Is Decided on the Fly