三菱UFJ信託銀行とWeb3開発会社のGincoは、信託銀行としては日本初となる「暗号資産信託」の提供に向けて協業を開始した。両社が8月31日に発表した。
協業の最大の目的は、機関投資家の暗号資産投資を可能にすること。日本では、法律上の制約をはじめ、秘密鍵の管理といった技術的な問題から機関投資家による暗号資産投資は事実上、不可能だった。一方、海外では価格変動に見舞われながらも、機関投資家の暗号資産参入が進み、さらには現実資産(RWA)のトークン化が進むなか、暗号資産投資の可能性がますます拡大している。
特に日本では、2018年に発生した流失事件をきっかけに暗号資産への規制が強化され、信託銀行を含む銀行本体では暗号資産を対象とした業務は禁止されていた。
しかし、結果的に世界に先駆けて規制の整備が進んだこと、またWeb3が国の成長戦略のひとつに定められたことを背景に、2022年10月の法改正によって、信託銀行本体によるカストディ業務の提供が可能となり、暗号資産を自ら発行し保有する法人については、一定の要件を満たせば、保有する暗号資産は期末時価評価の対象から外れることとなった。
今回の取り組みは、こうした市場環境の整備を追い風にしたものであり、信託の仕組みを利用することで、機関投資家から見れば、暗号資産は暗号資産を裏付けとした「受益権」に転換され、また秘密鍵の管理なども信託銀行に委託できる。ひと言で言えば「暗号資産に直接触れることなく、暗号資産に投資できるようになる」と同信託銀行Vice President of Productの齊藤達哉氏は述べた。
齊藤氏は、三菱UFJ信託銀行が2016年に設立した「FinTech推進室」の1人目の専任担当者で、現在、次世代デジタル資産プラットフォーム「Progmat(プログマ)を推進、セキュリティ・トークン、ステーブルコインなどに取り組んでいるが、今回の取り組みは「6、7年越しの取り組み」とのことだ。
国内で機関投資家が暗号資産に投資できるようになると、暗号資産投資は大きな拡大が見込まれる。例えば、IEOはリリースによると、日本では4件・約200億円規模だが、海外では約3200億円規模。暗号資産カストディは2023年は約3億ドル規模だが、2033年には約80億ドル規模に成長する可能性があるという。
今後の予定としては、2023年度中の商用化を目標に、Gincoをはじめ、IVC(Infinity Ventures Crypto)、MTG Ventures、IEOでフィナンシェトークン(FNCT)を発行したフィナンシェなど9社が共同検討を行う。
さらに今回のスキームで機関投資家による暗号資産投資が進めば、さらに一般の個人投資家も、暗号資産を直接保有/管理することなく、暗号資産に投資できるようになる可能性がある。一般の個人投資家の参入、いわゆる「マスアダプション」への道が開けるきっかけとなるかもしれない。
|文:増田隆幸
|画像:リリースより
※編集部より:本文を一部修正し、更新しました。