- シンガポールの財務大臣や中央銀行総裁を務めた経験のあるターマン・シャンムガラトナム氏が、同国の新大統領に選出された。
- 大統領の役割は主に儀礼的なものだが、シャンムガラトナム氏の金融経験は関連する政策にある程度の影響を与える可能性がある。
- 66歳のシャンムガラトナム氏は、暗号資産を「純粋に投機的」で「少しクレイジー」だと発言したことがある。
暗号資産(仮想通貨)を「純粋に投機的」で「少しクレイジー」と発言したことがあるシンガポール元財務大臣・中央銀行総裁のターマン・シャンムガラトナム氏が2日、70.4%の得票で同国の大統領に選出された。初の女性大統領を務めたハリマ・ヤコブ氏の後任となる。
大統領の役割は主に儀礼的なものだが、66歳のシャンムガラトナム氏の経験は、暗号資産や中央銀行デジタル通貨(CBDC)などの金融の将来に関連する政策形成にある程度の影響力を持つかもしれない。
シンガポール金融管理局の長官を務める
シャンムガラトナム氏がシンガポールの中央銀行にあたるシンガポール金融管理局(MAS)の長官を務めていた時期に、シンガポールを拠点とする暗号資産業界の寵児であったテラフォームラボ(Terraform Labs)とスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)が崩壊。これを受けてシンガポールは、暗号資産を早期導入した国から適切な規制バランスを模索する国へと移行した。
シャンムガラトナム氏は2011年から2023年までMASの長官を務め、2007年から2015年には財務大臣も兼任した。同氏は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学の学士号、ケンブリッジ大学で経済哲学の修士号、ハーバード大学ケネディ・スクールで行政学の修士号を取得した後、1982年にMASでエコノミストとしてのキャリアをスタートした。国際通貨基金(IMF)のトップ候補にも選出されたこともある。国会議員を22年間務め、副首相を含む政府の役職を歴任した。
暗号資産に対するスタンスは自由放任主義
シャンムガラトナム氏の暗号資産に対する当初のスタンスは自由放任主義だった。
2018年には、暗号資産とそれに関連する取引活動はシンガポールの金融システムにいかなる脅威も与えておらず、それを禁止する必要はないと表明していた。
シャンムガラトナム氏は2023年にも世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)でその立場を改めて表明し、暗号資産は「本質的に純粋に投機的であり、実際には少しクレイジーだ」と述べた。さらに、規制のない市場のままであるべきだが、暗号資産のようなものを規制するゲームに乗り出すことは「終わりのないゲーム」になるため、当局は暗号資産に関連するリスクについて「極めて明確」にするべきだと提案した。
ステーブルコインには規制も
それでも、銀行とステーブルコインの場合は状況が多少異なる。
シャンムガラトナム氏は2022年11月、議会の質問に対する回答の中で、シンガポールの銀行はビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産に対する100ドルのエクスポージャーにつき125ドルの資本を保持する必要があると指摘。「管轄区域内の銀行の暗号資産へのエクスポージャーは『重要ではない』レベルであり、リスク資産全体の0.05%未満に過ぎないが、こうした種類の暗号資産は国際基準設定者が設定した最も厳しいリスク管理要件の対象となっている」と述べた。
またシャンムガラトナム氏は、トークン化された社債などの比較的リスクの低い暗号資産に対するプルデンシャルな取り扱いは、従来の非トークン化資産と同様だと述べた。
2021年には、「純粋な投機や違法な金融を超えた将来の金融における暗号資産の役割があるかもしれない」とし、「規制されたステーブルコインが従来の決済システムで有用な役割を果たすようになる」という未来を思い描いていると語った。
2022年8月には、2021年5月にステーブルコインのterraUSD(UST)が米ドルとのペッグを失ったことに言及し、MASがステーブルコインの規制アプローチを「積極的に見直し」ており、ステーブルコイン発行会社に準備金要件を課す可能性があると述べた。MASは先月、ステーブルコインの規制枠組みを発表した。
|翻訳・編集:林理南
|画像:Shutterstock
|原文:Singapore’s New President, a Former Central Bank Chairman, Has Called Crypto ‘Slightly Crazy’