ステーブルコインのユースケースとして期待される企業間決済の実現に向けて、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とみずほファイナンシャルグループ(みずほFG)が連携するという。5日、日経新聞が伝えた。
MUFG傘下の三菱UFJ信託銀行は、次世代デジタル資産プラットフォーム「Progmat(プログマ)」の開発・提供を進めおり、さらに広く「ナショナルインフラ」とするために、まもなく独立会社化される見込み。このProgmatをインフラとして、ステーブルコインを発行し、企業間決済に利用していくようだ。
企業間決済での大きなメリット
6月に改正資金決済法が施行され、2024年度中にも発行が予想されているステーブルコインは、個人ユーザーの立場から見ると、現状のクレジット決済やQRコード決済との違いがわかりにくい面がある。
グローバルでみれば、金融サービスを利用できていないアンバンク/アンダーバンクと呼ばれる人たちは数億人〜数十億人規模にのぼり、ステーブルコインには大きな市場が広がっているが、金融サービスが充実している日本では個人レベルでのメリットは見出しにくい。
しかし、法人利用、企業間決済を考えると可能性は大きく広がる。現状、銀行間の枠を超えた決済はコストがかかり、日数もかかる。ブロックチェーンをベースにしたステーブルコインなら、取引コストは抑えることが可能になり、決済はリアルタイムにもなる。
特に今回、みずほFGがProgmatを基盤としたステーブルコインの仕組みに参加することは、同じ基盤を利用することを意味する。銀行と銀行の基幹システムが日銀システムを介して、お金を移動していたことが、1つの基盤上でシンプルに実現されることになる。金融のDXが進むと言えるだろう。
今回、日経新聞が伝えた取り組みは、MUFGとみずほFGの連携だが、Progmatのナショナルインフラ化の取り組みは、セキュリティ・トークン(デジタル証券)基盤を意識したものではあるが三井住友ファイナンシャルグループも参加している。Progmatがステーブルコイン基盤としても、ナショナルインフラ的な存在になる可能性は想像に難くない。
貿易決済への期待
またステーブルコインのメリットは、企業間決済の中でも特に複雑で、時間がかかっている「貿易決済」の分野でさらに大きくなると期待されている。言うまでもなく日本は貿易に大きく依存しているが、貿易決済は手続きが煩雑なうえ、SWIFT(スイフト:国際銀行間通信協会)を介した送金は時間もかかる(もちろん、SWIFTもブロックチェーンの活用を勧めている)。
現在、貿易決済に使用される通貨は米ドルがメインだが、日本円も一定のシェアを占めており、特にアジアでの貿易決済に日本生まれのステーブルコインが使われるようになれば、効率性の向上、利便性の向上は大きなものになるだろう。
ステーブルコインに取り組むある関係者も、稼ぎどころとして「貿易決済にフォーカスしている」と述べている。
まったく別の視点になるが、デジタル人民元を推進し、アジアから中東、アフリカでの覇権を強化している中国に、金融面で対抗し得るものになる可能性もある。
プログラマビリティ
さらにステーブルコインの最大のメリットは、プログラマビリティ(プログラム可能性)にあるというのが関係者の共通認識。わかりやすく言えば「お金が自動的に動くようになる」。
例えば、商品が納品されたら、自動的に決済処理が行われるなどだ。また企業の経理処理では、いわゆる「消込(けしこみ)」(入金された金額とデータの突き合わせ)が大きな負担となっているが、そうした作業の自動化も可能になる。
銀行業界は、巨大な基幹システムを安定的に稼働させる必要があるため、DXが遅れていると言われてきた。ステーブルコインの企業間決済への利用は、大きな転換点になる可能性を秘めている。
|文:増田隆幸
※編集部より:本文を一部修正して、更新しました。