RWAのTVL(預かり資産)とは──DeFiからTradFiへの拡大

DeFi(分散型金融)が進化と成熟を続けるなか、ユーザーがプロトコルに預けている資金の指標「Total Value Locked(TVL:預かり資産)」というコンセプトも大きな注目を集めている。

TVLとRWA

当初は暗号資産(仮想通貨)に焦点が当てられていたが、TVLはトークン化された現実資産(RWA:Real World Asset)を含むまでに拡大し、オンチェーンで表現される資産についての、より包括的な理解をサポートしている。トークン化された資産は通常、ブロックチェーンネットワーク上のスマートコントラクトに保有されている。

住宅ローン、プライベートエクイティ投資、非流動性ファンドなどに代表されるRWAは、過去にはオンチェーンで表現されていなかったため、TVLは主にDeFiプロトコルに預けられた暗号資産の価値に焦点を当てていた。

しかし、伝統的金融機関によるブロックチェーンテクノロジーの採用が進むにつれて、TVLのフレームワークの中で測定されるRWAを含めることは、ますます重要かつ必要となっている。

これは、TVLの一部として、トークン化されたRWAを受け入れるようになりつつあるDeFiエコシステムの継続的な発展に沿った自然な流れだ。さらに、DeFiプラットフォームが機関投資家や大口投資家を惹きつけるにつれて、トークン化された債券、株式、債券、金(ゴールド)、不動産、美術品などの資産を取引する機能を提供することはますます魅力的になっている。

RWAのTVLへの統合はまだ初期段階であり、約3000億ドル(約44兆円、1ドル145円換算)がオンチェーンでロックされているに過ぎないが、ブロックチェーンのレイヤー1およびレイヤー2の現状を見ると、2023年7月時点のTVLの内訳は以下のようになっている。

Arcana Analytics

ほとんどのブロックチェーンのTVLは、暗号資産やNFTなどのデジタル資産が大部分を占めているが、TVLがRWAに大きく偏っている注目すべきブロックチェーンもいくつかある。

その好例がプロベナンス・ブロックチェーン(Provenance Blockchain)で、全体のTVLは93億ドル。そのうち81億ドル以上がホーム・エクイティ・ライン・オブ・クレジット(HELOC)ローン、プライベート・エクイティ、オルタナティブ・アセット・ファンドといった現実資産によるものだ。RWAは徐々にブロックチェーン上に登場し、TVLとその重要性をさらに拡大している。

TradFiにとってのTVLの重要性

金融・保険サービスがトークン化されたRWAを通じてブロックチェーンベースのソリューションに傾注する中、RWA TVL指標は、どのブロックチェーン上で資産をトークン化するかの重要な指標となる。RWAをトークン化するブロックチェーンの選択には、容易なオンボーディングと金融資産のライフサイクル管理のための堅牢なツール、コンプライアンスとプライバシー基準を達成する能力、セキュリティとスケーラビリティの要件を達成する機能など、複数の要素が関係する。

おそらく上記の主要な指標となるのは、以下の通りだ。

  • トークン化された金融資産の大半が現在存在する場所。
  • RWAトークン化の勢いがある場所。

ブロックチェーンの現在のRWA TVLと、継続的なTVLの伸びを特定することで、金融機関はこれらの点を評価し、最終的にトークン化されたRWAの取引をサポートするために最も適切なブロックチェーンプラットフォームを選択できる。現実の金融資産TVLが示すところの、最も重みのあるブロックチェーンは、より高い透明性、効率性、生産性を求める金融機関にとって、長期的に持続可能なソリューションとしても確率的に最も適したポジションにある。

どのような新しいデータセットでも同じように、これまでの課題は、RWAのTVLデータが容易に入手できず、資産クラス別に分割されることがほとんどないことだった。つまり、あるTVLの価値のうち、暗号資産と現実資産とで構成される部分を区別することは難しい。

プロベナンス・ブロックチェーンがそうであるように、いくつかのブロックチェーンは資産クラス別にTVLデータを自己公開することを目指している。さらに、トークン化された現実資産のデータに特化したRWA.xyzなど、いくつかの分析会社もこのデータにアクセスしやすくするために取り組んでいる。

RWA TVLは、金融サービスや保険機関がどのブロックチェーンを活用するかを決定するために必要なデータであり、基準だ。

TVLは、RWAのトークン化を目指す金融機関にとってきわめて重要な指標であり、現実資産の採用と成長に基づいて最適なブロックチェーンプラットフォームを特定することに役立つ。金融業界がこれらのイノベーションを採用し続けるなか、RWA TVLは意思決定の指針となり、機関投資家の採用を促進する上で重要な役割を果たすと期待されている。

当記事は、グローバル・ブロックチェーン・ビジネス・カウンシル(Global Blockchain Business Council)の報告書『Real-World Assets Total Value Locked (TVL): From DeFi to TradFi(現実資産TVL:DeFiからTradFiへ)』からの抜粋。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Sean Pollock/Unsplash
|原文:A Guide to TradFi Blockchain Adoption