マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボ所長伊藤穣一氏は、性的虐待で有罪判決を受けた米富豪ジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)氏からの献金の事実を、メディアラボのその他スタッフと共同で隠蔽しようとしたことが明らかになったことを受け、辞任した。
ザ・ニューヨーカー(The New Yoker)は2019年9月6日(現地時間)、伊藤氏と、デジタル通貨イニシアチブ(Digital Currency Initiative)を含む多くのイノベーション・プログラムを抱えるMITメディアラボが、エプスタイン氏が同大学の献金「不適格」者リストに掲載されているにも関わらず同氏から寄付金を受けとり、その出所を隠そうとしたと報じた。
伊藤氏は9月4日(現地時間)、エプスタイン氏からメディアラボ宛てに52万5000ドル(約5600万円)、自身の投資ファンド宛てに120万ドル(約1億2800万円)を受け取ったことを明らかにした。
しかし同紙は、伊藤氏が大学と世間の目から寄付を隠そうとしていたことを示唆する、伊藤氏が送信者となっているMITのメールを公開した。
エプスタイン氏がメディアラボの研究者に資金を提供した後、伊藤氏は次の通りメールに記している。「確実に匿名の寄付となるようにしてください」
報道によれば、エプスタイン氏とのつながりはメディアラボ内では広く知られており、スタッフ間ではハリー・ポッターの悪役ヴォルデモートのように「名前を言ってはいけない例の」人物という扱いだった。
エプスタイン氏はまた、ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏や投資家のレオン・ブラック(Leon Black)氏を含む著名人にもメディアラボへの支援を働きかけていたとされている。ゲイツ氏が200万ドル(約2億1400万円)の寄付をした際には、当時ラボの開発・戦略ディレクターを務めていたピーター・コーエン(Peter Cohen)氏が次のようにMITのメールで述べたと報じられている。
「これはジェフリー・エプスタイン氏の指示で届いた、ビル・ゲイツ氏からの200万ドル(約2億円)のギフトだ。記録には、この寄付がジェフリー経由だと名前を言及することはない」
ゲイツ氏の広報担当者は、ゲイツ氏の資金使途を指示する役割をエプスタイン氏が担ったことを否定している。
伊藤氏は、ザ・ニューヨーカーによる報道の翌日にMITの役職を辞任した。MITの学長、L・ラファエル・ライフ(L. Rafael Reif)氏は学内に向けたメッセージの中で次のように述べた。
「記事の告発は極めて深刻なものであり、直ちに、綿密で独立した調査が求められます。今朝、かかる手続きの設計と実行を、著名な法律事務所の協力の下で行うようMITの法務委員会に依頼しました」
伊藤氏はまた、マッカーサー基金(MacArthur Foundation)、ジョン・S・アンド・ジェームズ・L・ナイト財団(John S. and James L. Knight Foundation)、ニューヨーク・タイムズ社での役職、そしてハーバード大学での客員教授の職も辞任したと、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が報じている。
本件が、デジタル通貨イニシアチブを含むメディアラボの様々なプログラムの運営に影響を与えるかはまだ不明である。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Joi Ito image via CoinDesk archives
原文:MIT Media Lab Director Joi Ito Steps Down Over Epstein Financing