「ローマ帝国のことをどれくらいの頻度で考える?(How often do you think about the Roman Empire?)」
ここ数週間、このソーシャルメディアミームを目にした人は多いだろう。そうでない人のために、少し背景を説明しよう。インターネット上には、夫がどうやらローマ帝国のことをかなり頻繁に考えているらしいと知り、当惑している配偶者たちの声が溢れた。実際、週に1回か2回というのが典型的な答えのようだ。
コンポジット・イーサ・ステーキング・レート
CoinDesk Indicesのチームも最近、ローマ帝国について考えることが多い。基本的に毎日だ。なぜか? 最近CESRと呼ばれる、コンポジット・イーサ・ステーキング・レート(Cmposite Ether Staking Rate)をスタートさせたからだ。
CESRは、CoinFundからライセンスを受けたもので、イーサリアムビーコン(Beacon)チェーンのバリデーターが、ステーキングから得られる年率換算の利回りを追跡する。このステーキング・レートは、コンセンサスメカニズムの基本報酬と、よりボラティリティの高いトランザクション報酬の2つの要素の組み合わせで、現在約3.75%で推移している。
基本報酬は、徐々に着実に減少している。これは、2022年9月の大規模アップグレード「Merge(マージ)」の後、ステーキングが開始されて以来、新しいバリデーターが加わり続けた結果だ。増加は、2023年4月のアップグレード「Shapella(シャペラ)」によって、バリデーターがステーキングしたイーサリアム(ETH)を引き出すことが可能になってからさらに加速した。
より多くのバリデーターがネットワークのコンセンサスメカニズムに参加すると、ネットワーク全体への基本報酬分配は、追加バリデーターの平方根に比例して増加する。その結果、個々のバリデーターに対する報酬はわずかに減少する。
増え続けるバリデーター
現在のバリデーター数は約80万人、新しいステーキング参加者の絶え間ない流れは非常に大きなもので、1日にプールに追加できるバリデーター数に上限を設けることを提案する人さえいるほどだ。
その根拠は、1エポックあたり12人の新規バリデーター(1日あたり2700バリデーター、8万6400ETH、約1億3800万ドルに相当)という現在の制限値は、長期的に維持できないというものだ。
キューは任意の期間に参加できる人数を制御し、そのキューの容量はネットワークが成長するにつれて増加し、最終的にはネットワークの機能にストレスを与える可能性がある。
例えば、プール全体でバリデーターが6万4000人増えるごとに、新たに参加できるバリデーター数は、1エポックあたり1人(1日あたり225人)増える。
しかし、数字は必ずしもそれを裏付けてはいない。他のほぼすべてのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)プロトコルは、アンステークド資産に対するステークド資産の比率がかなり高いにもかかわらず、問題なく機能しているようだ。
さらに、イーサリアムが100%ステーキングされた場合の予想利回りは1.6%。そこに到達するために必要な数百万人のバリデーターにとって、このレートが魅力的とは考えにくいが、どんなことにも可能性はある。
他のPoSプロトコルとの違い
いずれにせよ、1年前のマージ以来、バリデーターがほぼ倍増していることは驚異的。ステーキングは明らかに人気がある。しかし、イーサリアムは唯一のプルーフ・オブ・ステーク(PoS)プロトコルではない。イーサリアムは他のプロトコルと何が違うのだろうか?
ひとつはインフレだ。2021年のEIP(イーサリアム改善提案)-1559以来、イーサリアムブロックチェーンはネットワーク上のすべてのトランザクションで暗号資産イーサリアムの一部をバーンするメカニズムを導入した。その結果、現在では、このバーンメカニズムはインフレ的なトークン発行を相殺することが多く(常にではない)、実際にインフレ率がマイナスになることもある。したがって、イーサリアムのステーキング利回りは事実上、「実質」利回りとなっている。
ここで、そのほとんどが何年も運用されてきている、他の大規模なPoSプロトコルをいくつか取り上げ、その「実質」ステーキング・レートを評価してみよう。
多くのプロトコルは、イーサリアムの4%以下の年率利回りよりも高い利回りを誇っている。しかし、それぞれの供給インフレを差し引いて調整すると、「実質」利回りははるかに見劣りする。
CoinDesk Market Indexで時価総額上位のPoSプロトコルを見てみると、イーサリアムは2番目に低い利回りとなっているにもかかわらず、供給インフレを差し引いて調整すると、2番目に高い利回りに跳ね上がる。イーサリアムを上回るのはポルカドット(Polkadot)だけ。これらをリスク調整後の条件で検討し始めると、特に長い時間軸では勝負にならない。
イーサリアムは以外はほぼ供給インフレ
ここでわかることは、ほぼすべてのPoSチェーンが大幅な供給インフレに見舞われているということだ。実際、イーサリアムとカルダノ(Cardano)を除いて、リストアップされた他のすべてのPoSチェーンは、平均して2桁、さらには3桁の年間インフレ率を記録している。
そのため、一部のチェーンはバリデート(またはバリデーターへの委任)において2桁の利回りを誇っているが、現実には、ステーカーがステーキング解除を決定するまでに「実質」利回りがマイナスになるケースもある。
暗号資産の市場価格に最大供給量を掛けた完全希薄化後時価総額(FDV)は結局のところ、ミームではなかった。トークノミクスこそが重要だ。マージ以前、イーサリアムの年率換算供給インフレ率は3%を超えていた。現時点では、バーンメカニズムが実装されているため、0%前後で推移している。つまり、アピールされている利回りは、実際に手にする利回りとほぼ同じだ。
ここまで述べてきた概要が、各プルーフ・オブ・ステーク(PoS)プロトコルのさまざまな複雑さをすべてカバーしているわけではない。各プロトコルにはそれぞれ独自のゴールがあり、コンセンサスを得るための方法も異なる。
ステーキングは一日にしてならず
ステーキングの難易度、アクセス、コストもチェーンによって大きく異なる。しかし明らかなのは、オンチェーンでもオフチェーンでも、膨大な量のインフラと製品がステーキングを中心に開発されていることだ。
リキッドステーキングの登場は、イノベーションと創造性に富んだまったく新しい業界への扉を開くもの。他のサービスはステーキングプロセスを簡素化することに重点を置いており、それによって参入障壁を取り除き、この分野におけるさらなる分散化を可能にしている。
そう遠くない将来、ステーキングは市民の義務と見なされるようになるかもしれない。ローマは一日にしてならず。それまでCESRは、歩み続けるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Nemanja Peric/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:How Ethereum Staking Stacks Up in the Proof-of-Stake Landscape