マネーロンダリング対策としての新しい厳格な国際基準を、仮想通貨関連企業が満たすのに役立てようとNetkiは、自社のデジタル・アイデンディティ・サービスをアップグレードした。
2019年9月9日(現地時間)に発表されたトランザクトID(TransactID)へのアップグレードでは、次の2つの新しい機能が追加される。ユーザーのアイデンティティの証明書を、個人を特定できる情報(PII)として細かく分割する能力。そして資金の送受信者が互いのPIIを要求できる機能だ。
「これまでは、双方が自らの全情報を互いに共有するような、一つの巨大で分割できない処理だったのですが」と、NetkiのCEO、ジャスティン・ニュートン(Justin Newton)氏はCoinDeskに語った。「それがいまやプロトコルによって、双方がアイデンティティ情報の個別パーツを互いにリクエストやシェアすることのできる更なる対話の余地があります」
今回の変更は、マネーロンダリングやテロ資金供与対策を主導する政府間会合の金融活動作業部会(FATF)が6月に発表した勧告への対応である。勧告では、法執行機関が追跡する情報を手にすることができるように、企業間で資金を移動させる場合にはお互いの顧客の情報を渡すように、仮想通貨取引所を含む「暗号資産サービス提供業者(VASP)」に要求するものであった。
FATFの基準に拘束力はないが、37の加盟国は規制や立法を通じて実行することが期待されており、FATFは実行までに12カ月の猶予を与えている。
実際に、FATFのガイダンスが発せられる前から、米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は、他の金融機関に長年適用されてきたのと同様に「トラベル・ルール」が仮想通貨取引所にもすでに適用されていると述べている。
元々トランザクトIDは、主に米国を想定して設計されていたが、FATFがトラベル・ルールを仮想通貨にも適用したため、Netkiは国ごとにガイダンスの解釈が違っても対応できるよう、同製品をカスタム可能にした。
例えば、スイスの規制当局であるスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)は8月、このFATFによる要件を、規制下にある取引所と規制を受けていない個人ウォレット間の取引にも適用したが、他国においては取引所間の送金のみに適用されることを鑑みれば、さらに一歩踏み込んだ措置といえよう。
米国で強まる仮想通貨業者への取り締まり
米国においてさえも、遵守を後押しするより大きな力が存在しているとNetkiは主張している。「FinCENは先日、遵守していないVASPに対する執行を始めた」と、同社はプレスリリースで述べた。(4月以降、FinCENからは仮想通貨関連の執行について発表されていない)
「私が参加したFATFのガイダンスとトラベル・ルールに関する会議のいくつかにおいて、仮想通貨関連企業を代理する大手法律事務所の弁護士たちが口にしていたのは、トラベル・ルール絡みでFinCENによる執行を受けている顧客が複数いるということだった」と、ニュートン氏は述べた。
トランザクトID は、取引前に参加者間でアイデンティティ情報のピアツーピア交換を暗号化するオープンソースな基準を利用している。Netkiは、同社のテクノロジーは、取引が行われるブロックチェーンのインテグリティを保ちながら、これを可能にすると主張している。
具体的には、トランザクトIDはアイデンティティ情報の交換のために、ウェブサイトの所有権を認証するために一般的に使われる規格であるX.509証明書を利用している。Netkiはこの数十年前からある規格を選んだ理由を、政府や規制当局が法的に有効な身元確認の形態として広く認識しているためだとした。
取引における送り手と受け手を特定するためのNetkiのソリューションにこの証明書が利用されているため、VASPはどちらの側とも関係を確立する必要がない、とNetkiは述べている。
顧客確認(KYC)手続きのためにNetkiを利用する企業が負う、ユーザー毎の証明書のコストとしては、1ドルもしくはそれ以下だと、とニュートン氏は述べた。
同サービスはまた、ウォレットを提供するブレッドウォレット(Breadwallet)とNetkiが2016年に開発したビットコイン・インプルーブメント・プロポーザル 75(Bitcoin Improvement Proposal=BIP 75)上に構築されている。BIP 75は、オープン基準に基づいたピアツーピアプロトコルで、誰でも利用可能であり、カストディアル・ウォレットにもノン・カストディアル・ウォレットにも対応している。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Netki CEO Justin Newton image via CoinDesk archives.
原文:Netki Retools Digital ID Service for FATF’s New Crypto ‘Travel Rule’