リップルとチェーンリンク、TradFi(伝統的金融)との連携を強める狙い
  • リップル(Ripple)は7月、米証券取引委員会(SEC)に対して部分的な勝利を収めた。これにより、多くの銀行が送金システム用にエックス・アール・ピー(XRP)を検討するのではないかとの憶測を広がっている。
  • また、チェーンリンク(Chainlink)は、SWIFT(スイフト:国際銀行間通信協会)および数十の金融機関との実験に成功した。
  • チェーンリンクとリップルは、暗号資産(仮想通貨)企業のFireblocks、R3、Fnality、Zodia Marketsと同様に、金融機関と連携してデジタル金融インフラの開発に取り組んでいる。

TradFi(伝統的金融機関)と連携

2008年に発表されたビットコインのホワイトペーパーは、分散型ブロックチェーンというアイデアと、サトシ・ナカモトが言うところの「信頼できる第三者としての役割を果たす金融機関にほぼ依存する」決済システムの「固有の弱点」を世界に知らしめた。

そのことは、リップルとチェーンリンクという2大ブロックチェーン企業が現在、銀行のや伝統的決済企業などと連携して、未来の金融インフラとなりうるものの開発に取り組んでいることが注目に値する理由のひとつとなっている。

暗号資産×TradFiという「ハイブリッドモデル」の可能性は、暗号資産が多くの場合、現実世界から切り離されたパラレルワールドで機能するという一般に広まったパラダイムに異議を唱えるものになるかもしれない。チェーンリンクやリップルのみならず、Fireblocks、R3、Fnality、Zodia Marketsといった企業も伝統的金融機関と連携する戦略を明確に打ち出している。

暗号資産運用会社CoinShares(コインシェアーズ)のリサーチ責任者ジェームス・バターフィル(James Butterfill)氏は「暗号資産コミュニティには、非常に反体制的な人もいて、なぜ守旧派と協力することに意味があるのかなど、さまざまなレベルで疑問を呈するだろう」と述べた。

リップルの狙い

デビッド・シュワルツ(David Schwartz)CTO(最高技術責任者)がXRP Ledgerブロックチェーンの開発者の1人であるリップルは、世界の金融機関が「価値を移動、管理、トークン化」できるようにしたいとウェブサイトで述べている。

同社は7月にSECに対して部分的な勝利を収めた後、イノベーターと見なされるための動きを新たにしている。この訴訟はそれまで、常に同社を悩ませてきた。SECは判決を不服として控訴する可能性を示唆しているが、連邦判事はすでにその計画に反対する判決を下している。

「SECに対する部分的な勝利に後押しされ、リップル支持者たちは今、銀行がクロスボーダー取引やその他のサービスにXRPを採用し始めることを期待している」とCoinMetrics(コインメトリクス)のリサーチャーは7月に述べている。

中央銀行は中央銀行デジタル通貨(CBDC)に注目しており、国際決済銀行(BIS)の調査によると、2022年には約93%の中央銀行が何らかの形でCBDC関連の取り組みを進めていた。リップルにとって、これは競争ではなくチャンス。同社は5月、中央銀行が独自のCBDCを発行できるCBDCプラットフォームを立ち上げた。

参考:リップル、中央銀行デジタル通貨向けプラットフォーム開始

7月には、太平洋の島パラオがXRP Ledgerを使ったステーブルコインのトライアルを開始した。リリースによれば、この台帳に貢献しているリップルは技術支援と人材を提供しており、パラオはリップルのCBDCプラットフォームを活用している。

チェーンリンクの取り組み

ブロックチェーンのデータ「オラクル」(外部のデータをブロックチェーンに送ること、あるいはそうしたサービス)であるチェーンリンクは、多くの分散型金融プロトコルの暗号資産価格フィードのソースとして大きな役割を果たしており、さらにパートナーシップを通じて伝統的システムと連携する戦略を推し進めている。

2022年9月、チェーンリンクは銀行間メッセージプラットフォームSWIFTと提携し、チェーンリンクの「クロスチェーン相互運用性プロトコル(Cross-Chain Interoperability Protocol:CCIP)」を使用してオンチェーントークン送金を指示すると発表した。

SWIFTは今年6月、チェーンリンクのCCIPをブロックチェーン間の相互運用性に利用するだけでなく、CCIPを利用して十数社の金融機関をブロックチェーンネットワークに接続する実験を行うと発表した。

参加銀行の中には、伝統的な金融界の重鎮であるDTCC(Depository Trust & Clearing Corp.:米国証券保管振替機関)、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)、BNPパリバ、BNYメロン、シティ、クリアストリーム、ユーロクリア、ロイズ・バンキング・グループなどが含まれていた。8月までにプロジェクトは無事完了した。

参考:SWIFTとチェーンリンクのトークン化実験、複数のブロックチェーン間での価値移転に成功

チェーンリンクのCCIPは「ユーザーが1つのブロックチェーンからトークンをプログラムで転送できるようにする」もので、7月にアーリーアクセスユーザー向けに稼動を開始した。

真のゴール

チェーンリンクの共同設立者であるセルゲイ・ナザロフ(Sergey Nazarov)氏は、7月にCoinDeskのインタビューに応じ、次のように語っていた。

「ここでの真のゴールは、DeFi(分散型金融)とパブリックブロックチェーンのエコシステムを実現することだけではなく、シティのチェーンとBNYメロンのチェーン、BNYのチェーンとユーロクリアのチェーンが互いに交信できるよう、銀行のプライベートチェーン同士を相互接続できるようにするためだけのものでもない。実際は、これら2つのグループが協力して、取引できるようにすることだ」

Web3とこれらの金融機関との統合こそが、暗号資産エコシステムの価値を高めるとナザロフ氏は指摘し、次のように続けた。

「それがパブリックブロックチェーンのエコシステムにとって意味することは、銀行から数十兆ドルもの価値がついにパブリックブロックチェーンのアプリケーションに簡単に流れ込むようになり、市場機会が大幅に拡大するということだ」

10月2日にスペインで開催されたチェーンリンクの年次カンファレンスにおいてナザロフ氏は、ブロックチェーンテクノロジーとオラクルは、銀行やデリバティブのような業界をより検証可能なものにし、ユーザーはより簡単に出来事を監視し、ネットワークへの参加と退出を選択できるようになると主張した。

「第一に、このシステムに参加している誰もが、このような組織のひとつでビジネスを行ったり、価値を預けたりする際に、自分が何に参加しているのかを知ることができる」とナザロフ氏。

「第二に、自分の価値がどうなっているのかを、組織内の人と同じスピードで知ることができる。そして第三に、もし見たものが気に入らなければ、去ることができる」と続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:チェーンリンクの「SmartCon」カンファレンスに登場した共同設立者であるセルゲイ・ナザロフ氏(Chainlink)
|原文:Crypto vs. Banks? It’s Not Either-Or for Chainlink, Ripple
※編集部より:タイトルを変更し、更新しました。